クリスマスケーキにはアイスケーキを
クリスマスイヴの今夜。街の何処かには、こんなカップルもいるのではないかと…
クリスマスイヴの夜、彼がついに彼女にプロポーズをした。
街はクリスマス一色。イルミネーションも、音楽も、恋人達を
祝福するかのように華やかだ。しかし、彼女は彼の申し出に躊躇す
る。
彼と付き合い始めて三年。年齢は二十四。短大を出てから社会人
生活四年目を迎える彼女。彼の事は好きだけれど。だけど…
「ねえ、返事は今すぐにじゃなくてもいいんだよ。あ、そうだ、
ちょっと待って。あそこでケーキ売ってる」
彼は小走りで洋菓子屋の前に。そこではサンタの衣装を着た売り
子が、テーブルに並べられた箱入りケーキを販売していた。
彼女は彼を追いかけ、後ろから様子を窺うようにしてそのやり取
りを聞いている。
「へえ、この中で三千円もするの?大は五千円か。結構いい値段する
ね」
「お客さん、だって今日は24日クリスマスイブですよ? 需要と供
給。正当なお値段ですって」
バイトらしき、まだ若い売り子がにやり、と笑った。
「う~ん、小は 二千円ね。あ、でもイチゴの数が少な
いのか」
どれを選ぶかで思案顔の彼を見て売り子は言った。
「お客さん、もし予算に限りがあるのでしたら、明日って手もあり
ますよ?」
「え?」
彼の不思議そうな顔を見て、売り子はお店の中を気にする様に声
を潜めながら
「明日の二十五日なら三割引きになります。明後日の二十六日なら
なんと半額に…」
彼はそれを聞いて思わず笑った。
「そうなんだ。でも、日が経ったら味が変わっちゃうだろ?」
そんな彼の言葉をさえぎるように売り子は続ける。
「じゃ、保存もばっちりのアイスケーキはいかがでしょう? これ
でしたら味も変わりませんし、いつまでも美味しくいただけます
よ? 今日はやっぱり六千円と多少値が張りますが、明日は…」
「三割引きで、明後日はやっぱり半額なの?」
彼の後ろでやり取りを聞いていた彼女が、二人の会話に割り込
むようにして言った。売り子はちょっと驚いたようだったが、すぐ
にまた笑顔になると
「いいえ、お客様、このアイスケーキはクリスマス仕様であっても
そこまでは値引きは出来ません。だってアイスケーキですから。冷
凍保存しておけば…」
「なるほど! じゃ、その冷凍ケーキをひとつ下さい」
彼女は目を輝かしながら注文をすますと、自分の財布を取り出した。
「ありがとうございます! 少々お待ちを」
売り子は注文のアイスケーキの為にお店に入って行った。
「ねえ、お勘定は俺がするよ」
値段の為に、買い物を躊躇する姿を見られちゃったな。そう思っ
た彼は余計に明るくそう言ったが、彼女はそんな彼の言葉を無視す
るように
「クリスマスケーキにはアイスケーキって手もあるのよね。うん、
決めたわ!」
そう言うと、彼女は背筋を伸ばし、財布から一万円札を取り出す
とまるで蝶々が飛んでるようにヒラヒラと振り、売り子がキレイに
ラップされたそのケーキを持ってくるのを、満面の笑顔で待ってい
るのだった。
女はクリスマスケーキ。そう言われたのは、もはや昔の事。今では…ですよね♪