07 余談:陰謀
今回、三人称視点です
展望見込堂は、この世界で一番大きな冒険者向けの店である。いろはに言わせれば、チェーン店だが、この世界にチェーン店の概念はないため、そう呼ばれることはない。
街から街へと旅する冒険者は、大抵展望見込堂を利用する。どの町のどの店でも扱っている商品の質が安定しているからだ。信用を第一とする客商売では大切なことである。
展望見込堂の本店――元締めはアプマーシュにある。いろはが絶望を味わったあの店だ。
当然、展望見込堂の若きオーナー、バーンハードもアプマーシュに住んでいた。各店の視察や、仕入れ先の視察に行くとき以外は大抵この街にいて、本店を切り盛りしている。
彼の髪色はありふれた茶色だったが、その瞳は綺麗な青色をしていた。その青色を中央に据える顔は誰もが認める程整っている。大型店のオーナーで美丈夫である彼を当然女たちは放っておかなかった。だが、彼がこの世で一番美しく愛しいと思うのはたったひとりだ。
さて、バーンハードには、今、ある野望があった。
呼び出した秘書を前に、ふかふかの高級チェアに腰掛けたバーンハードは、ワイングラスに入ったお茶を傾けた。仕事中に飲酒するわけにはいかないが、冷たい飲み物を飲むときはいつだって、このグラスだった。彼は型から入り、そのまま固まるタイプなのである。
「ソニヤくん、例の計画なのだがね」
「はい。接客嬢向上計画でしたら順調です」
それは、店員の質の向上。
容姿良し、頭脳良し、機転良しの地球で言うアイドル的な接客要員の女性たちを組織することだった。
当然、現在のモサイ制服も一掃する。
美しく丁寧親切な接客。父から受け継いだ展望見込堂を更に発展させるには絶対欠かせないことだった。
「何よりだ。……ひとり、是非加えたい女性がいるのだが」
「どなたでしょう?」
「……名前がわからない」
「はぁ」
「一目見た時に確信したよ! 見た目は……まぁ、上の下といったところなんだが、笑顔が素晴らしい! おじぎの角度も完璧だった! 彼女の姿勢こそ僕が求めるモノだよ!」
彼の“まぁ、上の下”と言うのは中の上程度ということである。平均よりは上だが、彼が求める上の上からは遠い。
「どちらでお会いになられましたか?」
「本館の前で、警備員と話していた。冒険者以外入れないことを知らなかったんだろうね。笑顔でお礼を言っていたよ」
最初の方は見ていなかったのだろう。素晴らしい笑顔の女性がどんな心境で、満面の笑みを浮かべていたかなどバーンハードは知る由もなかった。
「なんとしてでも、手に入れたい」
「かしこまりました。至急調べます」
本館の前ならば、防犯用の映像に残っている可能性が高い。映像記録用の魔法具を調べるべく、ソニヤは主の元を辞した。
――――
「……ラシド屋の娘か。ふむ、少々面倒だな」
ソニヤの予想通り、バーンハードの言う女性は映像に残っていた。
あとは、同じ年頃の娘を探し出すだけだが、展望見込堂の力を持ってすれば簡単なことだった。
一年ほど前からラシド屋で働いているイロハという娘だ。黒髪に黒目という珍しい容姿をしている。アプマーシュに来るまでの経歴はわかっていない。店主夫婦の孫だということになっているが、まったく似ていいない。おそらく養子だろう。
随分と店主夫婦に恩義を感じているようで、傾きかけた――展望見込堂からすれば、事実上倒産しているとさえ思える店を立て直そうとしているらしい。そんな娘が、安易に同業他社に肩入れするとはソニヤには思えなかった。
「とはいえ、店がなくなればそうも言ってられまい」
そうなれば今度は、店主夫婦のため働き口を探すことになるだろう。
集めた、いくつかの情報。
使える物はある。
「……だが、まずは様子見だな」
そう結論付けるとソニヤは部下を呼びつける。
指示を与え終え部下が退室すると、本命の情報を活用するため彼女自身も外出するため準備を始めた。
毎回、沢山読んで頂けて嬉しいです。
今後とも頑張ります!
※今回と次々回短いので、火曜日にも投稿します。