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06 イロハ、考える

「こんにちは、イロハ姐さん!」

「いらっしゃい。ダン君……と一緒に冒険する方たちかしら?」


 夕方近く、普段店を閉めている六時より一時間程前にダン君たちはやって来た。

 彼を入れて四人。

 RPGとかだと定番の人数だけど現実だとどうなんだろう? 多すぎず、少なすぎずちょうどいいのだろうか。

 それにしても、男女同数とか……リア充の香がする。


「はいっす! オレンジがレノラ、赤っぽいのがヴィレム、で、黒っぽいのがクロードっす!」

「黒じゃなくて藍色って言って下さらない?」

「紹介、雑過ぎ」

「よ、よろしくお願いします!」


 三人同時に喋られたのでは何を言ってるのわからないけど、少なくとも文句の方が多かったのはわかった。

 ダン君の簡単な説明を補足すると、明るいオレンジ色の瞳から幾分薄い色の髪を短く切って、白いワンピースを着ている女の子がレノラちゃん。年の頃は、ダン君と同じくらいだろう。

 ダン君曰く、赤っぽい彼――みんなより一歩引いた位置にいるヴィレム君は、赤味の強い茶髪に翠色の瞳持っていて、やっぱりダン君と同じくらいの年に見える。クールな感じがするから一見年上に見えなくもないけど。

 最後に、黒っぽい改め、長い藍色の髪に紺色の瞳のクロードちゃん。どことなく、お嬢様っぽくて、ダン君たちより年上に見えた。彼女だけは、しっかりと魔法師用の黒いローブを着こんでいる。


「っつか、混む時間帯だろ? 大丈夫かよ、この店」

「庶民向けなんて、こんなものでしょう」

「し、失礼だよ! ヴィレム! クロードちゃんも!」


 大丈夫じゃないけど、それは禁句だ少年。

 大丈夫じゃないのは、店主代理の私が一番わかっている。わかっているけど、他人に言われると腹立たしいことこの上ない。


「大丈夫に決まってんだろ。イロハ姐さんの店なんだから」


 とはいえ、庇ってもらったら庇ってもらったで心苦しい。しかも、ダン君、ほぼ全部間違ってる。ここは、私の店じゃなくておじいちゃんのお店だよ。そして、大丈夫ではないよ。


「イロハ姐さん、ねぇ」


 じと目で見てくるヴィレム君を見返す。ギルド長の視線攻撃の後では、何も怖くない。

 余裕を持って、それこそ微笑んで迎え撃つことが出来た。


「ダンから話は聞いてるよ。……あんただったら、戦闘の時、武器と防具、装備品、回復薬だったらどれを優先して準備する?」


 話とは、判断力云々のことだろう。

 ……広まると広まったで恥ずかしいなぁ。


「……防具、かな」

「その心は?」


 ……某長寿演芸番組か?

 それはさておき、彼はきっと私の判断力を試そうというのだろう。こういうのには、正解がない。正解がないから判断力が必要なのだ。ついでにいうなら――ダン君には話してないけど、自分で判断したことには、自分で責任を負わないといけない。負いたくないなら、言い訳できる状況を用意しておかなければいけない。それも含めての判断力だ。

 めんどくさいが、ダン君のお友達だし。ダン君にはギルドでの恩があるからなぁ……


「まず、私は冒険者じゃない」

「それは知ってる」

「だから、魔物を倒すことを優先しないわ。生き残ることを優先する」


 そもそも、魔物が跋扈する外の世界に行きたくはないけどね。

 行くなら、信頼出来る護衛が付いた馬車で、比較的安全な街道を行く。


「選ぶ防具は、軽くて動きやすいものよ。行く場所にもよるけど、魔法具は必ず持っていくわ」

「何故?」

「魔法に魔物が怯んでる隙に逃げるから」

「……逃げるのか?」

「そもそも、魔物が出るところには極力近づかないわね。私じゃ対処出来ないもの」


 魔法具というのは、魔法を込めた道具の総称である。

 魔法のランタンなどもそうだが、多くの場合、攻撃や回復魔法が入っている装飾品のことを指す。私がさっき言った魔法具は装飾品のことだ。道具屋に置いてあり、当然ウチでも扱いがある。

 魔法具は、使い捨ての物から、魔力石などを使って、魔力を回復させれば何回でも使える物がある。ただ、設定された魔法しか使えないし、普通に魔法を使うより魔力の消費が大きいから、自在に魔法が使える魔法師には無用のモノだ。

 それでも、需要はある。

 値段は張るが、何度でも使える魔法具で強力な魔法が入れてあるモノは、そのレベルの魔法が使えない人でも、魔力石を大量に用意すれば使うことが出来るし、自分の魔力を消費しなくていいという利点もある。ただし、めちゃくちゃ値は張る。家が建つレベルのモノとかざらにある。

 魔法具の中でも比較的よく使われるのは、結界石と虫除石だ。使い捨てだけど、かなり便利。特に、結界石は、魔物が一定時間近寄ってこなくなるから、野営する時などに重宝する。


「……じゃあ、俺だったら何を優先させればいいと思う?」

「さぁ?」

「判断が付かないのか」

「つかないわね。私、貴方のこと知らないし」


 当たり前だろう、何を言っているんだという顔をすれば、ヴィレム君は怯んだようだ。

 ……もしかして、大ほら吹きか何かだと思われていたのだろうか。


「冒険もしたことが無いくせに、判断力だなんだって胡散臭いと思ったんでしょう」

「そ、それは……」


 図星だね。

 クール気取ってるけど、まだまだ若い。

 二十歳の壁は厚いのだ。……いろんな意味で。


「冒険以外でも、自分で考えて判断することは大切よ。私だって、お店を任されてるんだもの……どうしたら、もっといいお店になるか常に考えてるわ」

「……それって、答えあるのか」

「ないわね。後で、結果が返ってくるだけよ」


 かっこよくまとめてみたけど、お店再建計画の結果は帰って来ていない。吉と出るか凶と出るかは、まだ不明だ。

 ……他人に説教してる場合じゃないね。反省。


「ひとつ、アドバイスが欲しい」

「……私で良ければ」

「俺とダンは剣士で、レノラが治癒術師、クロードが魔法師だ。誰の装備を優先させるのがいいと思う?」

「それ、かなり情報少ないけど……」


 うーん。

 正直かなり難しい。

 RPGだったら、剣士ふたりを優先させる。いや……もし、広範囲魔法が使えるなら、迷わずクロードちゃんだけど。ゲームは本当に死んでしまうわけじゃないので、『攻撃が最大の防御』とばかりに、攻撃力に極振りするタイプだ。

 実際、後衛に攻撃がいかないのが一番いいと思うが、現実はそうもいかない。背後から攻撃される場合もある。そうなれば、レノラちゃんの防具は優先させたい。マナポーションもそれなりに用意したいところだ。


「防具は、レノラちゃんかな」

「治癒術師だからか」

「そうね……彼女が倒れるのは全体に影響があるし……でも、そもそもレノラちゃんに攻撃がいかないように出来るなら、それが一番ね。そうすると、全体の攻撃力を上げたいところ。クロードちゃんは、広範囲魔法使えるの?」

「まだ、中範囲までしか使えませんわ」

「うーん、それなら呪文短縮の装飾品とマナポーションでバンバン倒してもらうのもありね。……ただ、消耗品は高くつくけど」

「わたくし、魔力が尽きても戦えますわ。投擲も得意ですの」


 クロードちゃんが懐から取り出したのは、黒光りするナイフだった。……それ、暗殺用では。


「なら、クロードちゃんにレノラちゃんの護衛も任せることも出来るわね。そうなると、クロードちゃんの装備も充実させたいし、出来るだけ、剣士ふたりで魔物を倒しちゃいたいところよね。……ああ、これ同等から少し格上の敵を想定してるけど、同等以下なら、攻撃優先でガンガン倒すのがいいと思うわ。『攻撃は最大の防御』っていうし」


 結論をいうなら、考え出せばきりがないということである。


「流石、イロハ姐さんっす!」


 と、ダン君は言うが、別段特別なことは言ってない。受け売りとシミュレーション(ゲーム)から推測したものにすぎないし。


「何が重要かは、パーティの仲間でよく話し合った方がいいわよ。アドバイスを聞くのは大切だけど、他人に結論を任せるようじゃ冒険者として失格だもの」


 冒険者だけでなく、商人も――否、人生においてもだと私は思うけど。結局は、自分で納得出来るモノを自分で判断しないといけない。


「……そうだな。こいつらと話し合ってみようと思う」

「だな。そういう話したことなかったし」

「ダン君には、冒険者初心者セットを買ってもらったけど、予算によって相談受けるし、どんなスタイルで冒険するか決めてから、もう一度いらっしゃい」


 ダン君たちは、また後日来ると言って帰って行った。

 売上は0だけど、明日に繋がると信じて……!

 外はすっかり暗くなっている。もう、店仕舞いの時間だった。



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