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02 イロハ、絶望する

「……相変わらず、客、こねぇ……」


 お留守番二日目。

 時刻はお昼を回っている。

 本日、いらしたお客様の数は――四人。

 なんとなく不吉な数である。そして、少ない。お話にならない。

 朝の繁盛期を過ぎてコレだ。

 まぁ、もともとこんなもんなんだけどさ……

 大丈夫なのか不安だったけど、こう、ひとりで任されてみて、改めてヤバいと感じた。

 しかも、来てくれたお客様はみんな近所の常連さんだ。冒険者がひとりもいない。今日、ポーション一本も売っていない。

 コレは、ヤバい。

 いっそ、スーパーマーケットにした方がいい。

 ……でもね、既に住人向けの食料品店あるんだよね。

 こうなれば、コンビニエンス化するしかないのか、二十四時間営業。……無理無理。従業員、私だけだ。普通に倒れちゃうし、夜ひとりは心許ない。夜に需要があるかと言われれば、微妙だしね。

 あ、でも、開店時間早めるのは有りかも?

 もしくは、多少遅くまでやるとか……うーん、どっちにしろ、大手にパクられそうだし、最悪向こうがコンビニエンス化して更に悪化する可能性がある。

 そして、日本のようにあくせく世界が動くのは如何な物かというのもある。あの世界は忙しすぎる。故に、忍耐がない。

 元の世()界の話()は置い()ておいて()


「偵察に、行こう」


 お昼休憩も兼ねて。

 ……どうせ、昼間は人がこないのだし。

 泣いてない。泣いてないよ。



 私がやって来たのは、展望見込堂(ポシボどう)

 アプマーシュで一番大きくて、客入りが良いお店である。

 つまり、敵だ。

 昼間だというのに、開け放された扉を出入りする人は多い。一緒に虫でも入ればいいのに。残念なことに、虫よけ魔法が施されているけど。

 展望見込堂は、道具屋だけではなく、武器屋や防具屋、装飾品の専門店も入っていて、日本でいうところのデパートみたいなものだ。他の主要な街にも大抵ある。

 ……異世界でも、のさばるのは大手チェーンらしい。

 かといって、黙って潰れるわけにもいかないけど。


「いざ、参る」


 ここはもう、敵陣なのだ。

 気を抜いてはいけない。

 慎重に、お客様に扮さなければ。


「冒険者ギルドに登録しておられないのですか?」

「えっ? はい」

「でしたら、あちらの別館にどうぞ。こちらは、冒険者専用になっておりますので」

「は?」


 まさかの門前払いである。

 なんとメインの道具屋がある方は、冒険者じゃないと入れないらしい。しかも、冒険者ギルドに登録した正式な冒険者じゃないとダメと来た。

 警備員らしき、軽鎧の男が指したのは、食料品館と書かれた建物。


「なんで! なんでダメなの!?」

「なんで、と申されましても……」

「なんでよ?」

「高価な物を扱っているので、防犯の都合上としか」


 もう少しごねようとしたけど、やめた。

 男が一瞬、剣に視線を向けたからだ。あまり騒ぐなら力ずくということらしい。

 躾がなっていないわ。


「……そう。教えてくれてありがとうございました」


 接客用スマイルで、軽装鎧野郎にお礼を言う。

 これが大人の対応というモノだ。覚えておけ、三流野郎。ついでに、アンタの敬語間違ってるからな!

 くるりと背を向けて、別館とやらに向かう。せっかく来たのだから、そちらだけでも偵察せねば。

 まさか今の一部始終を見られていたと、知る由もなかった。



――――



 別館と言えど、その広さはラシド屋(うち)の比ではない。

 ウチは、カウンターに立っていれば店内全てが見渡せる。対してこちらは、レジが十数個もあり、棚の奥の方は見えなかった。しかも二階建てである。一階が食品をメインに扱っており、二階は衣類始め日常雑貨を扱っているらしい。

 しかも、装飾品を除けば、ウチに置いてある商品は全て一階にあった。ポーションも、である。しかも、ウチで置いているポーションで一番上等なのは、上級ポーションだけど、ここには平然と特級ポーションまで置いてあった。

 なんだコレ。

 本館の道具屋は何が置いてあるの?

 エリクサー? エリクサーが沢山積まれているの?


 さて、ポーションの等級は、初級から始まる。初級→下級→中級→上級→特級→最上級となっている。

 全て薬師と呼ばれる人達の手作りなので、品質に多少のムラはあるけど、それぞれの等級に基準があってそれを満たした等級に分類される。最もムラがあるのは、最上級で、特級以上のモノが全てコレになる。たまに、エリクサーもどきかと思われるようなものもあるらしい。だから、最上級ポーションは、相場がなく常に時価で取引される。

 ちなみに、初級以下の出来のモノは、ポーションと称して売買することは禁止されている。滋養強壮剤とか称して路上で販売されているのが、ポーション崩れだ。


 さらに、ここには怪我に効く通常のポーションだけじゃなく、魔力を回復するマナポーションの初級から上級までもが置かれていた。コレは、怪我などには効かないけど、飲むだけで瞬時に魔力を回復してくれる魔法師には有り難い代物だ。MPポーションのようなものだと思ってくれればいい。

 ポーションの三倍くらいの値がするから、ウチは下級までしか置いてないのに……

 止めとばかりに、毒消しなんかの種類も充実していた。


 もう、帰ろう……

 ここと比べてはダメだ。

 同じことなんか出来っこない。

 これだけ、大量に仕入れるから、仕入れ値も安いのだろう。販売価格がウチの九割くらいだし……もしかしたら、お抱えの薬師がいるのかもしれない。

 私もお抱えの薬師欲しい。

 でも、その前にお客様が欲しい……専用の顧客とかなんとか開拓出来ないだろうか……


11/06 誤字脱字修正

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