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三つ子と俺の共生生活?  作者: 桜麹
1/1

プロローグ 始まり

 目が覚めると、見慣れない天井が視界一面を覆った。


俺の名前は西宮雪斗にしみやゆきと、つい先日まで田舎のオンボロ高校に通っていた。

脳内のモヤモヤとした煙が晴れていき、やっと自分の現状が理解出来るようになる。


「(……あぁ、ここ俺の家じゃないんだっけな)」


ぐらぐらと寝不足で揺れる頭を振って、ベッドから上体を起こして腰掛ける。

白を基調としたシンプルで質素な部屋、それはかつて暮らしていた俺の部屋とは大違いだ。


「(……もう一日目か)」


それは一日ほど前の話。

俺がとある成り行きでこの家に来てしまったのが、全ての始まりだった。






◆◆◆






 「養子ィ!?」


三日前、自宅にて俺は大声で叫んだ。

 俺の家は時代錯誤な和風建築の巨大な家である。部屋は無駄に多く、滅多に来客もしない割にしっかりとメイド(これも色々と時代錯誤な点の一つ)が小奇麗に掃除をしている。


そんな中現代風に言えばリビング、つまりは居間で正対して座っていたオヤジが厳かに頷いた。

 オヤジの名前は西宮良輝にしみやよしてる、なんでも歴史ある名家らしく、当主は初代当主であったその名前を受け継ぐことになっている。本名は西宮彰人にしみやあきとだ。


息子の反応に比較的無言だったオヤジに向けて、俺はもう一度訊き返した。


「養子、ってあれだよな、人様の家に厄介になるってやつだよな?」


「そうだ。お前はこれから水苗家の皆様に養ってもらう」


「何で!? 養子って色々複雑な事情があるからなるんじゃないのかよ!?」


「あるんだよ、複雑な事情が」


「……あるの、か?」


無口なのが欠点と呼ばれているオヤジにしてはやたらに饒舌だ。

その上背景に「ゴゴゴゴゴ」と擬音が浮かびそうな程に、異様なオーラが漂う。

何事かと俺は固唾を呑む。


「………母さんがな…」


「母さんが…?」


「………こんなモノを残して行ったんだ」


「…?」


差し出されたのはルーズリーフタイプの小さな紙切れ。

綺麗に折り畳まれているそれを俺はゆっくりと開いた。

そこには…。


『彰人さんがこれを読んでいる頃、私は多分既に日本にはいません』


「…!」


冒頭からツッコミ処ろ満載な演出に、思わず表情が固まる。

 達筆なその文字列は俺の母親、西宮花楓にしみやかえでその人のものだ。オヤジの事を「彰人さん」と呼ぶのは母親だけで、やはりその観点からしてもこれは母親が書いたものと断定していい。


『何故なら、彰人さんは重大な失敗をしてしまったからです』


「…って、オヤジが悪いのかよ!?」


「その通りだ」


「何ドヤ顔してんだよ!」


「どやがお…? はて、それは一体なんだ?」


「あー、クソ! これだからレトロな人間は…!」


「ドヤ」


「知ってんじゃねえか!! ってか使い方間違ってんだよ!」


二回目のドヤ顔を決めてきたオヤジに叱咤しつつも、文章の続きを読み下していく。


『それは……』


「(ゴクリ……)」


『二十年目の結婚記念日をすっぽかしたからですっ』


「しょうもねえな!?」


その上文章の最後に「っ」を入れるとかあざと可愛いアピールすげえってレベルじゃねえぞ!

思わず紙切れをテーブルに叩きつけた俺は、獣を殺すような眼光でオヤジを睨む。


「自業自得じゃねえか…」


「仕方ないだろう。仕事も立て込んでいたしな……それでだな、ちょっと母さんを探しに行く」


「アテはあるのかよ?」


「無いことも無いが…時間と費用が掛かる。母さんは家計簿と言う《採金兵器》を持っていたからな、逆説的にあちらは金が底を尽きることは滅多にないだろう…」


「有利不利以前に負け確じゃねえか! そして家計簿にそんなかっこいい二つ名はねえ!」


「そんなわけで、母さんに想いを伝えねばなるまい。これから私は長期間家を空ける、即ちお前一人でここに暮らすことになる。それは不可能だろう?」


「そりゃ、そうだけど…」


「家事全般はメイドがしてくれるにせよ、彼女らとて無期限で働くわけではない。何時か期限が来て家から去ってしまった場合……分かるな」


「わかったよ…」


「水苗家はこことは違って都会だ。環境の違いに苦労はするが、慣れれば住みよい街になるだろう」


オヤジの一言に思わず関心が高まる。

 俺が暮らしているのは遠山市と言う山奥の過疎地域。小中高は各一校ずつしか無く、選択肢もへったくれもない辺境地なのだ。そしてオヤジの言い草から考えて、その水苗家とやらがあるのは、この周辺の都会と言うワードに当てはめると神凪市になる。


神凪市は県一の都心部だ、古臭い田舎から抜け出すという提案も悪くはない。


「……けどなぁ…」


「なに、この街もそう長くはない。ここの住人の多くは合併か何かで神凪市に流れていくのは畢竟と言えるだろう」


「…なるほどな」


「意思も固まったようだし、既に学校に連絡は入れてある。心置きなく神凪市へ向かうが良い」


「早えよ! 俺が拒否したらどうするつもりだったんだよ!」


「…む、そうだな……強制するしかあるまい」


「選択肢ねえじゃねえか!」


「そんな事はどうでもいい。車の手配はしてある、メイド長である佐伯君に送ってもらえ」


オヤジは颯爽とその場を去っていった。

 先程オヤジが紹介したのはこの家に数多く配置されているメイド達の統括主である、佐伯美夜さえきみよさんの事だ。見た目は田舎に似合わない今時の女性だが、性格という面から見れば大和撫子そのもので、古風な女性とも取れるちょっと変わった人でもある。


その後俺はオヤジが猛ダッシュで今時な格好に着替えて家を出ていく姿を呆然と見つめた。

放任主義などという甘ったれたモノではない、これは完全に放置である。


「……道具とかはどうすんだ? 家具とか…」


「それについては心配ありませんよ、雪斗様」


「あ、佐伯さん」


俺のひとりごとにも似た呟きに律儀に返答したのは、佐伯さんだった。

白黒のモノトーンカラーな配色のメイド服に身を包んだ佐伯さんは、やはり美人である。

取り敢えず、俺は佐伯さんに質問を重ねることにした。


「…心配ない、ってどういうことですか?」


「ご主人様が既に引越し業者に家具一式、道具諸々を頼んで配送してもらっていましたので」


「…なるほど、道理で数日前から俺の部屋が使えなくなったわけだ」


オヤジとしては息子の俺にこんな不手際を見せたくはなかったのだろう。

色々と格好悪い面しか今まで見ていないからか、俺の中での好感度メーターは一ミリも上がらないが。

佐伯さんは人好きする柔らかい笑みを浮かべて、玄関を手で示した。


「既にお車は準備させていただいております。手持ち無沙汰かも知れませんが、お着替えを終えたら私に申し付けください。直ぐにでもお送り致します」


「ありがとう、佐伯さん。取り敢えず着替えてくるよ、お言葉に甘えて」


「はい、では後程」


そう言って佐伯さんは一足先に外へ出た。

 事情が事情なだけでに何とも頷けない状態にはあるが、今更当人が居ない場所でグダグダと文句を言っても意味はない。それに以前からこの古臭い街には別れを告げようと頑張っていたのだ、千載一遇のチャンスとはまさにコレだろう。


和服が多い中でも、比較的カジュアルなモノに着替えて俺も外へ出る。

爽やかな森の匂いを孕んだ風が頬を伝っていく、その景色は何故か何時も以上に綺麗に見えた。


「(…ここともこれでおさらばか、まぁ、これから新たな高校生活が始まるワケだな)」


何だかんだと抜かしていても、やはり生まれ育った街だからか、哀愁を感じてしまう。

しかし、これから向かう場所は俺が求めて止まなかったモノが大量にあるのだ。

それだけでも、哀愁を吹き飛ばす程度の威力はある。


「雪斗様、こちらです」


黒塗りのモダンなデザインの車が近寄り、そのウィンドウから佐伯さんが顔を出した。

俺は後部座席の扉を開き乗り込む。俺が乗り込んだのを確認すると、車がゆっくりと前進する。

流れていくかつての街並みを見て、思わず放心状態になる。


そこで一つ疑問がぽんと湧き出て、勢いそのままに俺は佐伯さんに問いかけた。


「佐伯さん、もうオヤジが居ないけど、どうするの? 家とか…」


「そうですね、来月には期限も終了となります。が、私達も住み慣れてしまいました故、ご主人様がご帰宅なされるまでは、使わせていただこうかと…」


「なぁーんだ…なら、俺行かなくても良かったのに…」


「何かあったら戻ってきてくださいね、私達はあの家に居りますので」


「うん、分かったよ」


取り敢えずのところ、使用人(メイド達)の処遇も決まっているようだ。

 事実あの家の大半はメイド達によって利用されていた。部屋割りは勿論、俺が滅多に入らない部屋などの多くは休憩室になっていたりしていたし、尚且つ部屋全域の掃除は彼女達の役目だ。当然、俺やオヤジ、母さん以上にこの家に対する愛着は深いのだろう。


それからは無言のまま、車が軽快に進んでいく。

もう既に、俺が知る田舎の街並みは消え失せ、徐々に近代化した風景が目に飛び込んでくる。

高層ビル、マンション、アパート……それは俺が何度も願った都会のイメージにピッタリだった。


「…そろそろですね」


「もう? 早いんだね、意外と」


「ええ、神凪市と遠山市はそこまで離れていませんから……そうですね、単純距離なら20kmも無いかも知れません。しかしながら、隔絶されたようなイメージが払拭できないのは、新幹線や電車の普及率が悪い点、加えてやはり近代化が進んでいない点が挙げられますね」


「なるほど…。神凪市としては、あまりド田舎との関係を持つのは宜しくない、ってことなんだ?」


「一応県が推奨している一大都市ですからね……やはり近代的で現代の価値観に沿ったと言う部分は宣伝出来るポイントですし、そのネームバリューの重さから、不用意なことは出来ないのですよ」


「佐伯さんって詳しいんだね…。もしかして住んでたりするの? 昔とかに」


「実家があるんですよ。それで少しばかり詳しいだけです」


謙遜した様子で照れ笑いを浮かべる佐伯さん、これはモテると俺は謎の確信を抱いた。

そんな会話で神凪市に対する事前知識を備蓄しつつ、車は閑静な住宅街に入り込んだ。


「やけに静かだね…」


「この周辺は都心部から少し離れた、言うなれば過疎地帯なのですよ。だからこそ静かで過ごしやすいと言う評判も多くて、決して少なくない人数がこの住宅街に身を置いています」


「へえ……。その水苗さんの家っていうのも、ここら辺に?」


「ええ……あ、あれですよ。あの右手にある少し大きめの家」


そう言って指し示された場所には、確かに周囲より少し大きめの建物がある。

 階数は二階で、一見して普通なのだが、敷地面積はほかの家と比べて少し広い。この閑静な住宅街という括りでは少しだけ悪目立ちしそうな感じでもあった。


「あれが…」


ぼーっと見つめていると、気がつけば家の正面に到着していた。

佐伯さんに促されて、俺はおっかなびっくり車から降りて、深呼吸をした。


「私はこれで。何か不都合がありましたら、ご連絡ください」


「うん、ありがとう」


「いえ、それではお元気で」


ウィンドウが無機質な音を立てて閉まり、排気音を上げて車は去っていった。

一人完全アウェー状態で残された俺は、ゆっくりとインターホンを押した。

数秒の間隔が空いて、インターホンからソプラノキーの綺麗な声が飛び出した。


『はぁーい? どちら様ですか?』


「あ、えーっと……西宮と言います。その、養子? という形で連絡は行ってるはずなんですが…」


『え! 西宮……あ! お母さぁん! 西宮さんが来たよぉー』


「(お母さん…!?)」


口元からうっ、と声が出そうになり、それを必死で俺は押し殺した。

 俺のイメージでは夫婦の二人暮らしを想定していたのだが、内容は大分違うようだ。オヤジに詳しい話を聞けなかった痛手が、ここに来て痛恨のダメージとなるとは俺も思いはしなかった。


謎の悶絶を玄関前で繰り出していると、目の前の扉が開いて妙齢の女性が顔を出した。

その顔には何処となく見覚えがあるが、本当に朧げで、完全には思い出せない。


「あ、雪斗君、久し振り。覚えてるかな? 私のこと」


「えーっと、紗夏さなさん、でしたっけ?」


「良かった、覚えててくれたんだ。そうそう、昔はよく遊んだわよねぇ」


目の前で朗らかに笑う女性は、水苗紗夏。今偶然思い出しただけだが、第一印象は良しだろう。

 それと同時に思い出したが、水苗家とは結構縁がある。幼少期は良く遊んだし、同年代の子も何人か居た記憶がある。加えて、それが全員女子であったことも、俺は思い出していた。


「(まずい……けど、さっきの感じからして俺のこと覚えてないっぽいな。んじゃ、取り敢えずはゼロからのスタートってわけだ)」


「さぁさぁ、上がって上がって」


「し、失礼します」


緊張から少し上擦った声で、俺は水苗家に足を踏み入れた。

シトラスのような甘い香りが鼻腔を擽り、初っ端から不意打ちを食らったように仰け反る。

そんな俺を気にした風もなく、紗夏さんが提案をしてくる。


「それじゃ、まずは家族とご対面…って感じでいいかしら?」


「はい、ありがとうございます」


「あ、それとね、雪斗君のお部屋は二階の一番奥だから。覚えておいてね」


「分かりました」


「それじゃ、リビングへどうぞ」


あくまでナチュラルにウィンクをして、紗夏さんはリビングの扉を開いた。

中からは少しだけ生ぬるい空気が漏れ出し、それに釣られるように俺は自然とリビングに突撃した。


「「「あっ…」」」


「え…?」


そこに居たのは三人の女の子だ。


 一人は黒髪のポニーテールに健康そうな肢体を持つ、如何にもモテるタイプのテンプレのような容姿である。やや幼げな顔立ちは、しかしながら綺麗に整っていて、美少女と形容するのがピッタリだ。

 

 もう一人は薄い茶髪をセミロングにした、ふわふわした感じの女の子である。顔立ちは前述した黒髪ポニテ同様に整っているが、どちらかと言うと少し大人びた雰囲気のある顔立ちだ。


 残る一人は黒髪のストレートロングが特徴的な少女だ。顔立ちは上記した二人を掛け合わせたような良いとこ取りな顔立ちで、街を歩けば誰しもが振り返るほどの容姿の淡麗さを誇っている。


そして俺はその少女達全員に見覚えがあった。

何故なら、昔はよく遊んだ、と話したように、十年程前に我が家で遊んだ記憶があるからだ。


「え、えーっと……」


思わず言葉に詰まる。

 もし覚えているのが俺だけならば、敢えて口に出してフレンドリーに接する必要性は皆無だ。逆にその手のパターンを繰り出せば馴れ馴れしい人だと勘違いされてしまい、第一印象最悪である。折角紗夏さんで好印象ポイントを稼いだのだから、ここで無下には出来ない。


「どちら様…?」


「あー、その、何というか……」


黒髪ストレートの少女に警戒された様子で問われて、思わず答えが鈍る。

それに助け舟を出したのは紗夏さんだった。


「さ、自己紹介してもらえるかしら、雪斗君」


「は、はい」


さらりとその場の雰囲気を和らげ、尚且つ自己紹介のタイミングを与えてくれた。

やはり長年子供を教育しているからなのか、それもまたナチュラルな行動だ。

俺は仕切りなおして、快活に少女らに向けて自己紹介をした。


「えーっと、俺は西宮雪斗って言います…あの、養子ってことで、この家に厄介になります。皆とも、仲良くしたいと思っているので、その、よろしくお願いします」


「はぁーい、良く出来ました。それじゃ、今度は貴方達の番よ?」


「「「うっ」」」


三人が身動ぎし、お互いに目配せをし合う。

結果一番右手に居た黒髪ポニテの少女から自己紹介が開始されることになった。


「み、水苗春華みなえはるかです…。よ、よろしくね…?」


「よろしく」


春華という少女は恥ずかしそうに頬を赤らめながら、その場に着席した。

そして次は茶髪セミロングの少女である。


「私は水苗秋音みなえあきね、これからよろしくね、雪ちゃん」


「ゆ、雪ちゃん…?」


「雪斗って名前でしょ? 男の子の名前にしては何か可愛いから、雪ちゃんで」


「いや…別にいいんだけど…と、取り敢えずよろしく、秋音」


「うんっ」


秋音はニコニコ顔でその場に腰掛けた。

残る黒髪ストレートの少女は、未だ警戒した様子でオドオドしながら喋り始めた。


「み、水苗深夏……よろしく…」


「よろしくね」


「う、うん…」


これにて全員の自己紹介が終了した。

結果、秋音は取っ付き易い性格だということが判明した。

そこで会話は途切れ、沈黙が舞い降りる。すると、紗夏さんは唐突に立ち上がった。


「あ、仕事の時間だわ。それじゃ、皆仲良くね?」


「「「「え?」」」」


思わずして四人の声が重なる。

その言葉だけ残すと疾風の如き速度で家から出て行ってしまった。

今度はより重い沈黙が舞い降りる。


「(…ま、まずいぞ、これは地雷を踏んじゃうパターンのヤツだ…。ここは一度引き返そう)」


俺はこの沈黙が何を意味するかを重々知っている。

 大抵この手のパターンは三つほどに分岐しているのが主流だ。一つ目は探り合い、二つ目は話題の燃焼、三つ目は隔絶。一つ目はお互いが分かりあっていない状態だからこそ起きる現象だ、二番目は新米のカップル何かに起こりやすいパターン、そして三番目は人との関係に支障がある場合に起こる。


そしてこれはパターン一、つまり探り合いモードにあるのだ。

ここで下手にボロを出すといけない、俺はすくっと立ち上がった。


「あ、悪い、少し部屋を見てくる。一応その、暮らすこと、になるし…?」


「あ、OK、大丈夫だよー。ね、春華、深夏」


「うん、大丈夫、だよ?」


「……こっちにとっても好都合」


「ごめんな」


差し当たり無い言葉でやんわりとその場を切り抜け、俺は一先ず自室にたどり着いた。

 部屋の中は殺風景だ。白い壁紙に覆われていて、所々に茶色のダンボールが置かれている。家具関連の物は大抵配置されてはいるが、やはり小物類は自力で何とかするしかないだろう。


「(…ふう、さて、これからあの子達と暮らすワケなんだが……)」


はっきり言って気が重い。

そもそも女子、つまり異性との関係に俺はいい思い出がないのだ。

 つい先日まで普通に通っていた(本日は日曜日)学校でも、幼馴染と一部クラスメイトの女子としか会話した記憶はない。何というか気まずさが表に出てしまって、行動しづらいのだ。


「……ま、当面の目的はオヤジが帰ってくるまで都会を楽しむってことだし、気にしなくていいか」


ポジティブシンキングで俺はダンボールのガムテープをビリビリと剥がしていく。

 中からは愛読本やゲームの類、洋服類、その他小物が何故か整頓されて入っていた。多分メイド達を使役して作業をさせたのだろう、あの大雑把なオヤジがここまで真剣に取り組むワケがない。

 取り敢えず全部のダンボールを開放して、本類は本棚にカテゴリ別にして並べていく。ゲーム関係は設置されていた机の一番下の収納棚に、小物は部屋の各所に配置し、気がつけば作業だけで軽く一時間以上が過ぎ去っていた。


「……あらら」


先程までそれなりに明るかった外が少し薄暗くなり、夕暮れが窓辺から差し込んでくる。

特別することもなくなってしまったので、俺は元々あったベッドに倒れ込んだ。


「(………色々あったなぁー)」


ふと思い返せばたった数時間の出来事だ。

 オヤジが母さんを探しに無謀な旅に出て、佐伯さんにここまで送ってきてもらい、三つ子に出会った。たったそれだけなのだが、かなり日常的な風景とは逸脱していて、俺にとっては新鮮な出来事のオンパレードと同義だ。


「……やべ、眠い」


ほわぁ、と欠伸を一つして、俺は薄ぼんやりした瞳で天井を見つめた。

それから数分もしないで、俺は疲れから深い眠りに付いていた。






◆◆◆






 「(……ってことは今朝か)」


そして現在に戻るワケである。

 今は朝の七時頃だろうか。どうやらあの後俺は眠ってしまい、結局夕飯をすっぽかして朝方までずっと眠りこけていたらしい。俺を起こすような度胸のある行為はまだ、親しくもない彼女らにはやはりハードルが高いのだろう。俺も結構記憶が曖昧な部分はあるのだし。


今日から今までとは全く違う日々が始まる。

 念願の都会デビュー、加えて幼少期遊んだ記憶がある程度の関係の三つ子との同棲。それは慣れ親しんだ田舎の和やかな雰囲気とは違い、少しばかり殺伐とした感が強い。

 途端にホームシックになってしまうのは、俺のメンタルの弱さ故だろうか。遠山市の高校ならば、知らない者は一人としていない、それくらい全校生徒の仲が良い。


あらゆる意味を含めて、俺はゼロからのスタートラインに立っている。


「………とりま、飯食いたいな。腹減った」


それを実感し、先が思いやられながらも、俺は新たな生活に期待を抱く。

そう、これからが俺が求めて止まなかった都会生活の始まりなのだ。



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