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積み立てられた精進

魔族の想い色々

 魔城の最奥部の一階下。



「話は、全て聞いていた」

 四魂輪を砕き、そう告げたのは、まだ回復しきれていないダンであった。

「そんな訳がありません。少なくともゴーターを呼び出した時には、貴方は、治療室に居た筈です」

 エッグの反論にダンは、即答する。

「金色眼の存在を疎ましく思っていたのは、私も同じだ。だからこそ、その動きを知る為に、使い魔を放っていたのだ」

 ダンの肩に数体の小型魔族が舞い降りた。

「わ、私は、あくまで魔族の栄華の為、この計画を実行したのです!」

 エッグの主張にダンが冷めた目で告げる。

「その結果があれか」

 ダンが指差した先には、ゴーターが居た。

「ゴーターは、魔族の為に最前線で戦い続けてくれた。そのゴーターをあんな風にして魔族の栄華とは、片腹痛い」

 エッグが顔を歪ませる。

「五月蝿い! 貴様が、魔族の王であるお前達一族が無能だから我々魔族がこんな事になっていたのでしょう!」

 エッグは、アナコスを指差す。

「人間に攻め込まれた挙句、あんな最低最悪の神に縋りついて! 魔族の誇りを踏み躙ったのは、貴方達だ!」

 エッグの糾弾をダンは、静かに受け止めた。

「そうだ。全ては、無力な王である私とその祖先に責任がある。だからその責務を今こそ果す」

 ダンの放った魔力弾は、エッグを貫いた。

「な、何故?」

 困惑した顔で見てくるエッグにダンが言う。

「今こそ我等魔族は、金色眼の支配から逃れるべきなのだ」

「それでどうして私に攻撃をするのです! 私こそあれの一番の否定者です!」

 そう主張するエッグにダンは、何も答えない。

 その顔を見てヤヤが代りに答える。

「多分、その四魂輪だよ。それを使うって事は、金色眼との契約の継続を意味する。詰り、金色眼がこの世界から出た後にあれを使った貴女は、金色眼の再臨の引き金になるんだよ」

「そ、それは……」

「金色眼を否定するのなら、その力に頼るべきでは、ないのだ」

 ダンの言葉にエッグがその場にしゃがみこむ。

「もう遅いです。フォーマが動き出している。あれが動いている以上、あれが再臨する可能性は、残る」

「動き続けられたらの話だろう」

 アナコスの言葉にエッグが驚く。

「何を言っているの、あそこに眠る怨霊は、そうそうなくなりは、しないわ」

 そんなエッグにヨシが一輪の花を見せる。

「人は、死者へにも慈しみをもてるんだよ」



 フォーマの砦。



「何故です! 何故止まるのです!」

 動きを止めたフォーマを見てローカルト女王が叫ぶ。

『綺麗な花がいっぱいで花畑みたい!』

『甘くて美味しい!』

 フォーマの鎧から幼女の魂が一つずつ天に戻っていく。

「まさか!」

 ローカルト女王は、幼女の死骸が放置されている筈の地下に向った。

 そこには、沢山の花が捧げられていた。

 墓石となった石は、綺麗に磨かれ、その周囲には、子供が好むお菓子が置かれていた。

「まだよ! まだミスリルゴーレムが居る。あれが動けば足止めが可能な筈よ!」

 ローカルト女王は、最後の望みを求めて隠し持っていたミスリルゴーレムを操る宝玉を掲げる。

「動きなさい、ミスリルゴーレム!」

 しかし、宝玉からは、何の反応も返ってくる事は、無かった。

「ローカルト王国の女王様、貴女がここで何をしようとしたのかは、解りません。しかし、アナコス様には、見なかった事にしろと言われています。御国にお帰り下さい」

 伝言を受けていたマンースの言葉にローカルト女王が砦を去るのであった。



 魔城の最奥部の一階下。



「ミスリルゴーレムの宝玉、あれを探す中、地下の惨状を発見しました。出来るだけの娘の亡骸を日の当たる場所に移し、埋葬しました。遺品も家族の下に送られる様に手配をしてあります」

 アナコスの説明にエッグが問い質す。

「何でそんな無駄な事を? だいたいそんな事をするだけの余力なんて貴方達にある筈がありません!」

「余力は、ありませんでした。しかし、利益があるのなら商売人は、何とかするものです」

 アナコスの言葉にヨシが驚いた顔をする。

「お金でやってもらったってそんな余分なお金なんかあったの?」

「いえ、ですからミスリルゴーレムを解体して、販売する許可と引き換えです」

 アナコスの答えにエッグが愕然とする。

「魔族の至宝、ミスリルゴーレムを解体して、売ったなんて!」

「さっき貴女が言ったことだよ。戦いに敗れた当然の代償って奴」

 ヤヤの嫌味にエッグが悔しげに拳を握り締める。

「どうしてよ! ここまで全て完璧に進んでいたのに何処で失敗したの!」

 絶叫するエッグに対して虫の息のサトールが告げる。

「最初からこうなる運命だったのだ」

 エッグがサトールを睨む。

「まさか私まで騙していたというの!」

 サトールが苦笑する。

「何を今更の事を。私は、全ての魔族に虚実を吐いて来ていた。元から私から光を奪ったあれをこの世界から追い出せればそれで十分だったのだ。そしてあれが作った偽りの魔城を壊すそれこそ、私の本当の勝利だ」

 そのまま息を引き取るサトール。

「憎む相手の力を利用し、仲間を騙し、道具とした、そんなお前の選択の結果が今の状況だ」

 ダンの言葉にエッグが涙と鼻水、涎で顔をグチャグチャにしながら縋りつく。

「私が悪かったです。ですからどうか、どうか命だけは、お助け下さい!」

「残念だが、私は、多くの魔族の運命を背負う王なのだ」

 ダンの放った魔力弾が多くの仲間を騙し、利用した魔女、エッグを絶命させるのであった。

 その死を悲しむものは、居なかった。

 そしてヤヤが傷だらけの体で構える。

「さて、最終決戦といきますか?」

 苦笑するダン。

「個人的には、お前との決着を付けたいところだが、私は、王なのだよ。アナコスと言ったな、人間の司令官」

「はい。魔族の王、ダン」

 ダンとアナコスの視線がぶつかる。

 長いようで短い沈黙の後、ダンが告げる。

「魔族は、この地を捨て、パンデン大森林に移動する。その間の追撃を止めてもらおう」

「魔族との決着のチャンスを失えと申しますか?」

 アナコスの詰問にダンがあっさりと頷く。

「そうだ。問題があるか?」

 アナコスは、目を瞑り、思案してから告げる。

「多くの問題は、あります。しかし、それしかこの戦いを勝利として終わらせる事は、出来ません」

「えーどうして!」

 ヨシの疑問にヤヤが倒れながら言う。

「あちきがもう限界だもん。だいたい、前回、出してきた奥の手を使われたら、両軍、壊滅なんて洒落にならない結果が待ってるだけだしね」

 背を向けるダン。

「忘れるな。魔族と人間、決して相容れる存在。私の代で決着がつく事は、ないだろう。しかし、いずれ必ず魔族の手でこの世界を征服してみせる」

「そんな世界は、決して来ません。人の心に助け合う心がある限り」

 アナコスがそう宣言し、去っていくダンの後姿を見続けるのであった。



 その後、集結した魔族は、元フォーマの砦に敗走を始めた。



 元フォーマの砦。



「おい、魔族が来るぞ? どうする?」

 困惑する兵士達。

 本来なら指揮を出すべき人間は、短い期間とは、いえ起動したフォーマの手で命を失っていたのだ。

「戦うしかないんじゃいか?」

「そうだ、防壁の門が閉じている限り、そう簡単には、突破されないだろう」

 護る優位性から強気な兵士達だったが、予想外の自体が起こる。

「どうしてだ勝手に防壁の門が開いているぞ!」

「馬鹿な、誰か装置をみにいけ!」

 そして兵士達が開閉装置の所に来ると、そこにはフォーマの砦、四つの鉄壁の最後の一つ、ニンジャマスターが居た。

 こうして開放された門を使って魔族達は、自分達の支配領域であり、狩場でもあるパンデン大森林に逃げ込むことを成功させるのであった。

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