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魔族の王

魔族領の首都への進行開始


 魔城の会議室



「セックまで逝ったか」

 重苦しい声でそう口にするダン。

「まあ、予想は、ついていたわね」

 金色眼の言葉にダンが目を見開く。

「どういう意味ですか?」

 金色眼が失笑する。

「そんな事も解らない。貴方達がいま置かれているのは、完全な負けパターンなのよ」

「言っている意味が解りません!」

 声を荒げるダンに金色眼が諭すように告げる。

「あたしが始めて呼び出された時と一緒。高い能力がある故に個々が突出して、各個撃破されてジリジリと負けて、後が無くなっていく。でも安心して。あの時と同じ、貴方達は、あたしが崇める限り滅びる事は、ないのだから」

 絶対者の絶対の自信、それを否応も無く力を持たせているのは、他ならぬ魔族の歴史である。

「感謝しております。しかし、だからこそ、ここは、我々が奴等を撃退してみせます。エッグ、ゴーターの治療は、どうだ?」

 ダンの問い掛けに首を横に振る。

「治療を早める為に特別な処置を行っています。相手が予定通り動いていれば間に合った筈なのですが……」

 セーエロが申し訳無さそうに言う。

「すいません。セック様と私の行為が奴等の行動を早めてしまいました」

 ダンが苦々しい顔をしながらも断言する。

「魔族は、まだ負けた訳では、ない。この侵攻を退け、再侵攻をかける」

 断固たる意思を込めてそう告げるダンであった。



 魔城が見える丘。



「もう肉眼で見えるね。アナコスさんも初めて?」

 ヨシの問い掛けにアナコスが魔城を睨みつけながら答える。

「ラグナロスに乗っている時に望遠鏡で数回見た事がありました。その時は、小さな豆粒の様な大きさでした。それがもうこんなに大きくなっています」

「勝負は、ここからだよ。テンカウントが何人も居なくなったと言っても、半分以上残っている。多分、その殆どがあそこで待ち構えている。あちき一人で勝てる状況だとは、思えない」

 ヤヤの言葉にアナコスが頷く。

「解っております。テンカウントを分散する為にもこちらは、四方からの波状攻撃を行います。ヤヤさんには、出てきたテンカウントが単独で出てきた時のみ相手をしていただきます」

「複数出てきたら?」

 ヨシが聞き返すとアナコスが即答する。

「それは、チャンスです。こちらは、出てきていたテンカウントをどれだけの犠牲を払おうとも食い止めておきますので一気に魔城に突っ込んでもらいます」

「洒落にならない被害が出るよ」

 聞き返すヤヤの目を正面からみながらアナコスが答える。

「これは、私達の戦いです。私達が命を懸けて勝利を掴まないといけないのです」

 短い沈黙の後ヤヤが答える。

「……解った。でも一つだけ約束して。貴方だけは、簡単に命を捨てないと。貴方には、勝った後にも仕事があるんだから」

 拳を握りしめるアナコス。

「解っています。この戦争の全ての責任を背負っている以上、簡単に死には、しません」

 そして再び魔城を見下ろしアナコスが断言する。

「そして、必ずこの戦いに勝利します!」



 魔族領の首都、サータスの外周部。



 人間達の大量の兵士達が防壁に迫る。

 対抗する魔族の兵も必死に抗戦するが数が違いすぎた。

「テンカウントの首の次は、敵首都の一番乗り。我の栄光のロードが始まるぞ!」

 ラントスが歓喜の声をあげながらあの鎧を装備した部隊と共に進軍する。

 そんなラントス達の前に一人の優男が現れる。

「あれも魔族か? 随分と情け無い容姿だな。蹴散らしてくれる!」

 自信満々にそう命じるラントスだったが、その優男の腕の一振りの自慢の部隊の半数が即死した。

「ば、馬鹿な無敵の鎧ごと兵士を切り裂くだと!」

 愕然とするラントス等無視してその優男が宣言する。

「我は、テンカウントが一、魔族王、ダンなり。貴様等下等種族に魔族は、敗れぬ!」

 掲げた手の上に莫大な魔力を溜め込み解き放った。

 その一撃でその場に居た人間兵の大半は、吹き飛んだ。

「こ、この鎧は、無敵の筈だ!」

 現実逃避をするラントスの傍まで来たダンが横目で見る。

「その鎧を何処で手に入れたかは、知らぬ。だが、たかがドラゴンの鱗を加工した鎧で我が攻撃を防げると思うな!」

 新たな魔力弾が収束、発射させようとした。

「止めろ! 我は、ここで死んで良い人間では、ない!」

 ここまで来てまだ選民意思が抜けないラントスだったが、何の因果かその言葉は、合っていた。

『ヘルコンドル』

 カマイタチがダンの腕を捉えた、小さな傷を作る。

 ダンがそのカマイタチが来た方を向いた。

「やはり来たか。お前が白牙に侵食されし者だな」

 ヤヤが頷く。

「そう呼ばれる事もある。始めようか」

「お前を殺し、我等の逆襲の狼煙としよう!」

 ダンが一気に詰め寄る。

『バハムートクロー』

 ヤヤの気が篭った拳とダンの魔力の篭った拳がぶつかり合い、凄まじい破壊を周囲に撒き散らす。

 その余波にラントスは、吹き飛ばされあっさり意識を失うのであった。

「死ね死ね死ね」

 殺意を魔力に籠めて次々と放つダン。

『カーバンクルパラソル』

 それを受け流しながら詰め寄るヤヤ。

「接近戦なら勝てると踏んだか! だが、やらせんよ!」

 ダンは、体全体から魔力を解き放つとヤヤが吹き飛んだ。

 少し離れた所で着地したヤヤが呼吸を整えながら告げる。

「余計な小細工の無い単純な力技。伊達や酔狂じゃ魔族王を名乗って無いね」

「無論! 長く続いた魔族の誇りを背負いし私に敗北は、無い!」

 振り下ろした手刀の形に収束された魔力の刃がヤヤに迫る。

『ナーガ』

 大地を盛上げて魔力の刃を逸らすヤヤ。

「まだだ!」

 逆の手で再び魔力の刃を生み出すダン。

 しかし、その魔力の刃の先にヤヤは、居なかった。

『トールランス』

 雷撃が篭ったヤヤの突き蹴りがダンに放たれた。

 一撃を食らい、後退するダン。

「あの防御は、地面から接近する為のものだったか。しかし、同じ手は、通じんぞ!」

 ダンは、今度は、地面に魔力を放った。

 地面は、盛り上がりながらヤヤに迫ってくる。

 咄嗟に跳び避けたヤヤだったが、盛り上がりから魔力が解放され直撃を食らい、上空に押し出される。

「勝負を決めさせてもらう!」

 両手をクロスさせるように振り下ろすダン。

 十字の魔力の刃がヤヤに迫る。

『イカロスキック』

 ヤヤは、空中を蹴り、その直撃を逃れた。

 地面に激突したヤヤが立ち上がるが、その右腕は、垂れ下がっていた。

「その状態では、奥の手も使えまい」

 ダンが止めの為の魔力を収束させながらゆっくりと近づく。

「あちきを舐めないでよ! 『フェニックス』」

 ヤヤが放った炎の鳥がダンに迫る。

「この程度の炎、避けるまでもない!」

 ダンがその言葉通り、避けずに接近するが、ヤヤは、その炎の鳥と共に詰め寄っていた。

『ゼウス!』

 雷撃が篭った左拳が炎の鳥を弾いたダンの体に命中する。

「この程度の奇襲で、どうにかなると思うな!」

 収束した魔力を解き放とうとしたダン。

『ハーデス』

 それに対してヤヤが放った技は、ダンを引き寄せる超重力だった。

「自分の魔力でダメージを食らいな!」

「私は、負けん!」

 ダンは、躊躇せず魔力を解放した。

 先程より巨大な爆発が起こり、二人を吹き飛ばした。

 先に立ち上がったのは、ヤヤ。

「流石に効いたよ。でもそっちのダメージも小さく無いでしょう?」

 ニヤリと笑うヤヤに対して、倒れたままのダンが呟く。

「ここが諦め時だな」

 その言葉にヤヤが嫌な予感を感じ、痛む体に鞭を打って接近する。

『血力解放!』

 ダンの体が膨れ上がっていく。

 それは、止まることを知らなず、そしてその姿は、異質であった。

 鳥と蝙蝠の翼、魚と蛇の鱗、馬の蹄と象の足。

 相反する特色を持つ部位が乱立するするその姿は、カオスであった。

『全ての魔族の血を受け継いだ我の奥の手。これを出した以上、最早我には、破壊しか出来ない。故にこの魔力が尽きるまで人間を滅ぼし続けようぞ!』

『オーディーン』

 ヤヤが手刀を放ち、切り裂くが切り裂かれた後からすぐさま復活、適応していく。

『まずは、お前からだ』

 莫大な魔力が収束されて放たれようとした。

「そこまでよ」

 その声にダンの動きが止まった。

『何故、貴女様がここに?』

 声の主、金色の瞳をした少女が告げる。

「貴方達魔族とは、契約をしているからよ。その中に王への加護もあるの。はい」

 手を打つとダンは、膨張が逆再生され元の姿に戻る。

 ヨロヨロのダンをセンドが抱える。

「貴女が白牙に侵食されし者? 可愛いわね、貴女が色欲に狂い死ぬ姿は、さぞ素敵でしょうね。その姿を見れば金海波キンカイハ様も私の趣味を理解してくれるかもしれないわね」

 その一言に冷や汗をかくヤヤ。

「もしかして六極神、直属の神様って奴ですか?」

 金色眼が悲しそうな顔をする。

「元ね。今は、邪神認定されてるの。きっと私の趣味が理解できない愚かな奴等が金海波様に余計な事を言ったのよ。でも私の金海波様への尊敬の念は、決して色あせたりしない。だから捧げ続けるの、この世界の魔族を使ってね」

 そういって浮かべる笑顔は、美しいが同時に言葉に出来ないおぞましい物を孕んでいた。

 一切の警戒をせずに背を向ける金色眼。

「魔城で待っているわ」

 そういってセンドと共に消えていく金色眼であった。

 ヤヤは、地面に倒れながら呟く。

「本気で洒落にならないクラスの神様を相手にする事になるんて物凄い貧乏くじ引かされた気がしてきた」

 そう言いながらもヤヤの瞳から闘志が失われる事は、無かった。

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