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四つの鉄壁

フォーマが護る砦、そこには、四つの鉄壁があった

 パンデン大森林の付近



「デカイ山だね」

 ヨシが感想を述べるとヤヤが言う。

「そんな山が魔族を護っているけど、これって自然に出来た物じゃないんじゃないの?」

 アナコスが頷く。

「はい。遠い昔、魔族が今ほどの力を持っていなかった時、圧倒的な数を有していた人類との戦いで魔族は、危機に瀕していたそうです。そんな中、一夜にしてラッセル山脈が発生し、魔族は、唯一出入りが可能な平原に砦を築き、人類の猛攻を防いだとされています」

「うそ臭い!」

 ヨシの突っ込みにアナコスが苦笑する。

「かなり誇張して伝わっているのでしょう。どちらにしても、現在我々には、ラッセル山脈を越える手段が無く、残された道の前に砦があります。そこを突破しない限り、魔族との決着をつけられません」

「そうだね。摂り合えず、あちきは、後方待機で良いんだよね?」

 アナコスが肯定する。

「そうです。まずは、相手の出方をみます。そして、あの砦を護るテンカウントの動きを見て、対決してもらいます」

「安心して、絶対に勝つから」

 ヤヤの言葉にアナコスが戸惑う。

「絶対勝つなんてよく口に出来ますね?」

 ヤヤが微笑を浮かべる。

「貴方には、信じられないでしょ? でもね、あちきは、絶対に勝つよ」

「その根拠は?」

 追求するが答えないヤヤにアナコスが諦める。

「私は、進軍の指揮がありますので」

 アナコスが去っていた後にヨシが言う。

「何で言ってあげなかった? 八刃は、誰かを護っている時に負けないって」

「少なくともアナコスさんは、ただ護られる人じゃない。そんな人を護っているなんて傲慢な事は、口には、出来ないよ」

「相手のプライドか。それも大切だね。それでさっきの話だけどどうおもう?」

 ヨシの問い掛けにヤヤが眉を顰める。

「絶対不可能って話じゃない。でもそうなると全く別の問題が出て来るんだよ」

「別の問題って?」

 ヨシが聞き返すとヤヤが頬を掻きながら答える。

「それだけの力を使えるんだったら、態々そんな回りくどいことをしなくても人類なんて滅ぼせる筈。しかし、そんな周りくどい事をした。そこに意味があるとしたら、相手の力は、多分神様それもかなり高位に属するよ」

「詰り、強敵って訳?」

 ヨシがいまいち納得しない顔をするとヤヤも複雑な顔をする。

「そこが問題なの。とどの詰り、相手側に強大な力を持つ何かがいるのは、ほぼ間違いない。それは、多分、未だ魔族に力を貸している。でも、その力の貸し方が随分と制限がある風に見られる」

「なんか面倒な話だね」

 ヨシの言葉にヤヤが頷く。

「そうだよ。かなり面倒。だいたい、この世界に来た事自体がかなりイレギュラーなんだから」

「そこだよ。前から聞こうと思っていたんだけど、どうしてこの世界に来る破目になったの?」

 ヨシの指摘にヤヤが苦虫を噛んだ顔になる。

「要因は、間違いなくあの事件だろうけど、原因は、もっと違う事な気がする」

「良い様に使われているって感じ?」

 ヨシの予測にヤヤが頷く。

「そんな気がするよ。まあ、これもそれも、これが大元なんだろうけどね」

 ヤヤは、淡く白く光る右手を見る。

「トラブルを引き寄せる光だね。でも、その力があったから救えた命もあるよ」

 ヨシのフォローにヤヤが頷く。

「そうだね。さて、愚痴って無いで、食事の用意の手伝いでもしますか」

 ヤヤがそういって後方に下がる中、ヨシがもう一度ラッセル山脈を見る。

「あの山を作るだけの存在か。一度、会ってみたいな」



 魔城の会議室。



「案の定、人間達は、パンデン大森林を突破してフォーマが護る砦に到達したようね」

 金色眼の言葉にエッグが頭を下げる。

「私の実力不足で申し訳ありません」

 金色眼は、苦笑する。

「今更、どうこう言うつもりは、ありませんよ。まあ、当事者は、どうだか解りませんがね」

 フォーマが即答する。

「関係ない。我が砦は、決して破れない」

「あらあら大した自信ね。この瞬間、砦が落ちているかもしれないわよ」

 セックが茶化すがフォーマは、平然と答える。

「部下なら問題ない」

「そーですよねー。フォーマ様の下には四枚の鉄壁の壁が存在があるのですからね」

 セーエロの言葉にゴーターが告げる。

「だが、あいつは、強いぞ」

 セックが笑みを浮かべる。

「貴方が言うと説得力があるわね」

「何が言いたいんだ?」

 ゴーターの視線が鋭くなる中、ダンが続ける。

「実際問題、相手は、テンカウントを三人撃退した相手だ、あいつらでも破られる可能性が高いぞ」

「勝つ必要は、無い。ただ、戻るまでの時間を稼ぐ。それくらいなら十分に出来る」

 淡々と答えるフォーマの様子に金色眼が満足そうな顔をする。

「そんなあんたは、結構好きよ。任せたわ、センド」

「はい、これは、主からの贈り物です」

 センドが取り出したのは、四つの珠が繋がった輪。

「それは、四つの魂を繋げる輪。どれか一つが残っている限り、他の三つが復活を繰り返す、四魂輪シコンリン。それがあれば貴方の鉄壁は、更に完璧になるでしょうね」

 金色眼が妖しくその瞳を輝かせる。

「ありがたくお受け取りします」

 フォーマがそういってそれを受け取るのであった。

「戻るのは、少しお待ち頂けますでしょうか?」

 サトールの言葉に金色眼が興味を見せる。

「あら、その光届かない瞳に何か捉えたのかしら?」

 サトールが頷く。

「はい。これより、三日程、フォーマ殿がこの地に居る事で、我々の勝利の道が開かれます」

「ふーん、それは、僥倖ね。良いでしょう。フォーマ、サトールの予言通り、この地に残りなさい」

 金色眼の命令にフォーマが問い返す。

「本当に宜しいのでしょうか?」

 金色眼が自信満々に答える。

「サトールの予言に間違いは、無いわ。だって、その力は、あたしが授けた物だもの」

「主様のお蔭で魔族を救う光を見る力を授かりました」

 シミジミと語るサトールにダンが頷く。

「主様の言葉の通り、サトールの予言に異なった事が無い。ここは、予言に従う。文句は、無いな」

「了解しました」

 フォーマがそう了承する事でこの議題は、終わったのであった。



 フォーマの砦の防壁前。



 人と魔族は、熾烈な戦いを繰り広げていた。

 地形的な有利や、砦の防壁等、様々な要素が魔族に有利であった。

 しかし、その優位性すらも圧倒的な数の差には、勝てなかった。

 ジリジリと戦線は、押し切られていく形になっていった。

 しかし、そんな戦線を一気に巻き返す存在が居た。

「出たぞ!」

 巨大な拳が鎧ごと、兵士を打ち砕く。

「ミスリルゴーレムだ!」

 貴重な魔法銀、ミスリルで生み出されたゴーレムが兵士達の前に立ち塞がる。

「そいつは、強固だが、動きが遅い! 回りこんで砦に向かえ!」

 上官の指示に兵士達が大きく分散した時、三つの炎が次々と兵士達を燃やしていく。

 戦場を駆ける炎を吐く巨大な犬には、三つの頭が存在した。

「ケ、ケロベロスまで出てきたのか!」

 怯える兵士達をファイアーケロベロスの炎が包み込む。

 そんな兵士達とは、別働隊が存在した。

 貴重な飛行魔法を習得した魔法使い達による砦への奇襲部隊だった。

「どんな強敵だろうが、地上に居る限り、我々を捉える事などできん。急ぐぞ!」

 加速しようとした奇襲部隊、その前に翼を生やした人面のライオンが迫る。

「スフィンクスまで現れるなんて」

 グレートスフィンクスの翼から放たれた突風が奇襲部隊も蹴散らす。

 そんな激戦が繰り広げられる中、潜入部隊が防壁の門の開閉装置に接近していた。

「もう少しだ。門を開けて、開閉装置を破壊すれば、あの化け物達を足止めしている間に砦に攻め入る事が出来る」

 潜入部隊の隊長が部下を奮起させようと振り返って声をかけた時、影が動いた。

「な、なに?」

「隊長!」

 部下たちが叫び声を上げる中、影から伸びた刀が隊長の胸を貫いていた。

 そして、影から人のシルエットをした者が現れる。

「ニンジャマスターか!」

 潜入部隊が武器を構えるが、ニンジャマスターの放った手裏剣が次々とその命を奪っていくのであった。



「結局、フォーマって奴の出番を作る前に、作戦は、殆ど潰されたって感じだね」

 ヨシの遠慮ない感想にアナコスが頷く。

「はい。想定されていましたが、テンカウントとして不在にする事もあるフォーマの代りも勤める四つの鉄壁、ミスリルゴーレム、ファイアーケロベロス、グレートスフィンクス、ニンジャマスター。それらを排除しなければ、砦に到達する事も出来ません」

「あちきの出番って訳ね」

 ヤヤの言葉にアナコスが頭を下げる。

「強大な力の前には、ヤヤさんに頼るしかありません。しかし、打ち砕くのは、そのうち一体で十分です」

「どうして、全部倒しちゃえば良いじゃん」

 ヨシの言葉にアナコスが告げる。

「いいえ、壁が残っている状態で無ければいけませんから」

「どういう事?」

 首を傾げるヨシだったがヤヤが納得する。

「余計な介入をさせたくないんだね?」

 アナコスが頷く。

「ここは、魔族にとって最後の砦。その防壁たる四体が全て倒された場合、非常手段としてテンカウントの増員が考えられます」

「そうなる前にフォーマを倒す必要があるって事だよ。さて行きますか」

 そういってヤヤが出陣した。



 戦線を押し返しに入る魔族。

 その先頭に立つのは、ファイアーケロベロスだった。

 三つの首が次々に炎を吐いて、人間の兵士達を焼き殺していく。

『シヴァダンス』

 ヤヤの氷が炎を防ぐ。

「これ以上は、やらせないよ」

 ファイアーケロベロスの三つの首が口を開いていく。

「ここは」

「絶対に」

「護る!」

 次々と放たれる炎を掻い潜り、ヤヤが一気に接近する。

『オーディーンカタナ』

 ヤヤは、ファイアーケロベロスの首を一つ切り落とすとそのまま抜けていく。

「逃がさ」

「ない!」

 ファイアーケロベロスが追いすがるが、ヤヤは、スピードを落さず駆ける。

 戦場を突っ走るヤヤの前に次に現れたのは、ミスリルゴーレム。

「ココ、トオサナイ」

 重量感ある動きでヤヤに迫るが、その拳が落ちきる前にヤヤは、ミスリルゴーレムをやり過ごす。

 そして、そんなヤヤに突風が襲う。

「それ以上は、行かせません」

 グレートスフィンクスが急降下してくるとヤヤが目を輝かせる。

「待ってたよ、あちきの獲物。『イカロス』」

 ヤヤは、自分に掛かる重力を軽減して、超跳躍でグレートスフィンクスの前に出る。

『バハムート』

 ヤヤの大量の気が攻撃の意思と共にグレートスフィンクスにぶつかって吹き飛ばす。

 そのまま防壁に直撃するグレートスフィンクスだったが、まだ動く。

「ま、まだだ!」

「当然! 『フェニックス』」

 ヤヤの手の中で生まれた火の鳥が防壁にめり込んだグレートスフィンクスに直撃する。

 黒焦げになりながらもグレートスフィンクスは、もがく。

「負ける訳には……」

『デュアルコカトリス』

 ヤヤの両手から放たれる破壊効果が伴う衝撃波がグレートスフィンクスを防壁諸共打ち砕くのであった。



「作戦通りです! ヤヤさんが作った防壁の穴を使って砦に突入! 同時に門の開閉装置にも部隊を送って下さい!」

 アナコスの指示に兵士達が従っていく。

「ヤヤが作った防壁の穴を使うんだったら、門は、かまわないんじゃないの?」

 ヨシの疑問にアナコスが告げる。

「いいえ、最終的には、門の開放は、必須。相手もそれが解っている以上、ニンジャマスターを門の開閉装置の防衛から外せません。そして残ったファイアーケロベロスとミスリルゴーレムは、分散して突入させる事で足止めが可能です」

 そんなアナコスに対してヨシが言う。

「あのさーもしかしてだけど、前の作戦の失敗ってこの為の布石?」

 アナコスが沈黙するとヨシが追求する。

「あいつらの存在を知りながら最初からヤヤを使わなかったのは、さっき言っていたテンカウントを引っ張り出さないために奴等が有益だって思わせる為の犠牲だって事は、ないよね?」

「ヤヤさんが居ない前提での最善の作戦を組みました。ただし、それが上手く行くとは、思っていませんでした」

 アナコスの答えにヨシの目付きがきつくなる。

「ヤヤは、納得したふりしてるけど、そういうやり方は、あたし達は、嫌い。それだけは、覚えておいて」

「解っていますし、その気持ちは、正しいです。兵士を捨て駒として扱った私は、それ相応の罰を受ける覚悟は、あります」

 アナコスの告白にヨシが溜め息を吐く。

「悲愴な覚悟って奴だね。もう一つだけいっておくけど、貴方は、必要とされているよ。それを忘れないで」

 再び沈黙するアナコスだったが、その沈黙は、先程の沈黙とは、違い、戸惑いが含まれていた。

「とにかく、これで砦への攻撃を開始できます」

 戦いは、フォーマの砦内部に移っていくのであった。

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