手探りの侵攻
パンデン大森林侵攻その2
パンデン大森林の屋敷跡地。
「ここにあった屋敷が燃やされましたか」
アナコスの言葉にヤヤが頷く。
「多分、かなり重要な拠点だった筈だよ」
「そんなのを何であっさりと燃やしたの?」
ヨシの疑問にアナコスが答える。
「大切な場所だから故です。人類側には、ここの何があったのかすら知られるのが危険な場所」
「もしくは、そう思わせるフェイクって可能性もあるけど?」
ヤヤの言葉にアナコスが頷く。
「その可能性もありますが、ここは、素直にここに重要施設があった仮定し、無視しましょう」
「その仮定って意味があるの?」
ヨシの突っ込みにヤヤが苦笑する。
「色々とね。でも、そうすると問題になるのは、ここの扱いだけど?」
アナコスは、ラントスが持っていた地図を手に告げる。
「色々と虚偽の情報が書き込まれていますが、地理に関しては、信用出来ます。これによれば、ここは、森の中心部に近いですから、ここに仮拠点を置いて、侵攻を進めます」
ヤヤが地図を眺めながら言う。
「そうなると、こっから大切なのは、道の確保って奴だね」
「道って、あたし達が通って来た獣道の事? あそこを通れる様にするの?」
ヨシが訊ねるとアナコスが訂正する。
「確かにそれもしますが、それ以上に大切なのは、安全性の確保です。今後の事を考えて補給路の確保は、必須です」
ヤヤが難しい顔をする。
「一度、作戦方針の変更するとしてこっからは、どう動くの」
「一点突破を狙います」
アナコスの言葉にヨシが不思議そうな顔をする。
「一点突破ってこの森を押えるんじゃ無かったの?」
ヤヤが思案する。
「それは、理想だけど、それってかなり難しいんだよね。この大森林全部を制圧しようとしたら、兵力と時間の無駄遣いになる。それをするくらいなら、侵攻の為のルートのみの確保に重点を置くって方法もあるんだよ」
「幸いにもこのポイントは、ラッセル山脈の切れ目とも離れていない」
アナコスの説明にヤヤが思案顔をする。
「そういう事を含めて重要施設だった可能性は、高いね。摂り合えずは、あちきの役目は、ここの奪還を狙う連中を対抗って所だね」
「よろしくお願いします。その間にここまでのルートの確保、森を抜けるルートへの侵攻準備を終えます」
頭を下げるアナコスであった。
魔城の会議室。
「パンデンの私の屋敷が失い、パンデンでの防衛戦は、魔族にとってかなり不利な物になりました」
エッグの報告にまだ傷が癒えきらないゴーターが愚痴る。
「随分とあっさり退いたみたいじゃないか? 臆したかのか?」
エッグは、あっさり頷く。
「はい。五のゴーターさんを撃退した相手と正面から戦って勝てる気は、しませんから」
不機嫌そうに舌打し、それ以上の追及をしないゴーター。
「作戦の失敗の責は、逃れられないな」
珍しくダンが鋭い目で告げるとエッグが頷く。
「はい、如何様な処分も覚悟しております」
「随分と素直に受け入れるのね?」
いぶしがるセックに対してエッグが即答する。
「パンデンを失うという事がそれだけ重大な事だと理解しています」
そこに至り沈黙を守っていたフォーマが問う。
「その言い方では、まるでパンデン大森林を人類に奪われた様に聞こえるぞ」
エッグがその一言を待っていた。
「そこです。私も全力を尽くすつもりですが、人類がパンデン大森林を突破するのを防ぐのは、不可能だと考えています」
「それは、随分と弱気な発言ですね。エッグ様なら、人類に遅れをとるとは、思えませんが?」
セーエロの言葉にエッグが首を横に振る。
「残念ですが、広大なパンデン大森林、その全てを護りぬくだけの力は、御座いません」
「詰り、パンデン大森林を諦めろって事か?」
流石にゴーターも口を挟んできたが、ダンが否定する。
「エッグ、お前は、防壁としてのパンデン大森林を諦めろと言っているのだな?」
「はい。人類側がパンデン大森林を制圧しようと兵を分散させるのでしたら、私は、幾らでも阻めます。しかし、突破、ルート作成のみに重点を置かれた場合、ゴーターさんを蹴散らした者が居る現状、阻止は、出来ないそれが私の結論です」
エッグの言葉に複雑な空気が流れる中、金色眼が告げる。
「なるほどね。フォーマ、あんたの仕事が増えるみたいだけど任せて構わないわね」
「私は、相手がどれだけ来ようと砦を貫かれるつもりは、ございません」
フォーマの答えに金色眼が告げる。
「良いでしょう。防壁としてのパンデン大森林は、捨てましょう。その代わり餌場としてのパンデン大森林は、失うことは、許しません。もしそうなった時は……」
エッグが頭を下げる。
「この命差し出す覚悟です」
「今回の議題は、ここまでね。後は、任せたわ」
テンカウントが頭を下げる中、金色眼が退室してからダンが告げる。
「防壁として諦めたと言っても、多少の足かせには、なって貰うぞ」
「はい。心得ております」
エッグがそう答えるのであった。
パンデン大森林の屋敷跡地。
「侵攻が進んでないね」
ヤヤの言葉にアナコスが頷く。
「はい。ルートの確保も正直上手くいっていません」
ここ数日で細かく書き込みが増えた地図を見ながらヨシが言う。
「それにしてもこの森って変化してるよな?」
ヤヤが頷く。
「だろうね。それも凄くいやらしく小さな変化を繰り返している。もっと大きな変化だったら、最初からそれを前提に作戦やルートを組めるのに」
アナコスが困った顔をする。
「はい。変化が変化と認識出来るレベルならその変化箇所を無視すれば良いだけなのですが、それが認識出来ないとなると行軍すらままなりません」
ヤヤが面倒そうに言う。
「かなり牛歩になるけど、あちきが目印を作っていく形でルートを確保して行くって方法でいく」
「目印とは?」
ヤヤは、手近な槍を手に取り幾つかの呪法を行って近くの地面に突き刺すと薄く光る。
「こうする事で他人には、抜けなく出来る。万が一、抜いたとして一度抜いた槍からは、目印の光が消える。これをルートの両端に一定距離で刺していく」
「それなら、それがあるうちは、正しいルートを通っていると解りますね。しかし、大変なのでは?」
アナコスの指摘にヤヤが頷く。
「結構ね、だから一日十二ヵ所が限界だと思う。どこに埋めていくかは、アナコスに任せる」
「解りました。少し時間を下さい」
それでもアナコスは、数時間後には、作業ポイントの決定していた。
パンデン大森林のエッグの秘密の屋敷。
「流石に対策を打ってきたわね。さて、此処から先は、進軍の妨害しか手は、無いのだけどどうしますか?」
思案するエッグ。
「そう簡単に抜けられても私が手を抜いていると思われますね。もう少し手間取ってもらいましょう」
微笑み、エッグが小さな小瓶の蓋を開ける。
「さあ、貴方達の出番よ、この千年魔女、エッグの可愛い子供達」
解き放たれたとても小さな魔族の手先は、人の目には、捉える事も出来なかった。
パンデン大森林の後半部。
「はい、今日は、ここまでルート確定」
そういって槍を埋め込むヤヤ。
「だいぶ進んだね」
ヨシの言葉にヤヤが頷く。
「上手く行けば数日中に森を抜けられるかもね」
見え始めてきたラッセル山脈を見るヤヤとヨシであった。
しかし、そんな中、近くに居た兵士達が倒れだす。
「敵襲!」
ヨシが驚く中、近くに配置されていたマムスが叫び返す。
「どこから攻撃されてるか解らないのに皆が負傷しているんだ!」
必死に周りを見回すマムスだったがそういっている間に負傷者が増えるが、魔族の姿が見えない。
「どうなってやがる!」
マムスが混乱する中、ヨシがマムスの側に蹴りを放つ。
「いきなり何をするんだよ」
文句を言うマムスにヤヤが告げる。
「お礼を言っておきなよ。敵の正体は、あれだよ」
ヤヤが指差したのは、ヨシが蹴りを放った葉っぱだった。
「葉っぱってそんな物が敵の筈がないだろう!」
マムスの反論にヨシが苦笑する。
「その固定概念がいけないんだよ。倒れている兵士の傷を見てみなよ、全部、細い切り傷」
その言葉を証明するように兵士の一人が葉っぱに足を斬られ、倒れる。
「嘘だろ? 葉っぱで攻撃する魔族なのかそれとも葉っぱが魔族なのか?」
「どちらも不正解。敵の正体は、こいつら! 『バハムートクロー』」
ヤヤが側の木を気を籠めた手刀で斬り砕く。
『ギャー』
凄まじい悲鳴があがり倒れる木。
一気に周りの木々がざわめき、大量の葉っぱを振り落としてくる。
「種バレした手が通じると思うな! 『ガルーダ』」
ヤヤが生み出した突風が葉っぱを打ち払う。
「いま、いま動いてる木を攻撃して!」
兵士達が一斉に動き、次々と木々を攻撃していくのであった。
暫く、そんな事を繰り返した後、ヤヤが言う。
「とりあえずは、近場の敵は、居なくなったみたいだね」
「これってこういう魔族なの?」
ヨシの言葉にヤヤが眉をよせる。
「多分、違うね。でもこれでまた森を抜けるのが遅くなるよ」
パンデン大森林の屋敷跡地。
「調べてみたら、特殊なくぐつ法だった。極小の魔族が木に寄生して操り、葉っぱで攻撃してきたみたい」
ヤヤの報告にアナコスが大きく溜め息を吐く。
「明らかな遅滞作戦ですね」
「そうなの?」
ヨシが問い掛けるとヤヤが頷く。
「ネタバレすれば対処法は、あるけど時間だけは、とられる。問題は、そこ、まるで本気で侵攻を防ごうという気が感じられないって事」
アナコスが苦虫を噛んだ顔をする。
「そうなるとパンデン大森林を抜かれるのは、想定内という事になります」
ヤヤが苦笑する。
「そんだけ次の砦に自信があるって事だね」
「どれだけ自信があろうとも突破するしかありません」
アナコスが決意を言葉にするのであった。




