戦いの始まり
ヤヤ、異界編の始まり始まり
剣と魔法がまだ力を持つその世界では、魔族と人間との激しい戦いが続いていた。
圧倒的な力をもった魔族相手に人間の劣勢を強いられていた。
その劣勢を覆すべく、人類は、その残された力の全てを持って逆転の一手、飛行戦艦『ラグナログ』を建造した。
その力は、素晴らしく、魔族の大軍も蹴散らし、人類に勝利の希望を見出させたのであった。
魔族の拠点が一つ、ヘルズキャッスル。
そこをラグナログでの侵攻していた。
その圧倒的な力に城を破壊し、魔族達は、非常用の逃走魔法陣で次々に逃げ出していた。
「艦長、ラグナログの力は、絶大です。このまま全て魔族をやっつけてやりましょう」
乗員達は、楽勝ムードに浸っていた。
しかし、長き魔族との戦いを経験し、艦長を負かされたアナコスは、嫌な予感を覚えていた。
「油断するな、相手は、魔族だ。油断は、死を招くぞ」
引き締めの言葉を発するが、連勝が彼等を完全に油断させていた。
「大丈夫ですよ。このラグナログに勝てる魔族なんて居ません」
「このまま逃がしたら、他所で人間を襲います。きっちり倒してやりましょう」
追撃しようと魔法陣の接近するラグナログ。
次の瞬間、魔法陣から白い光が立ち昇った。
その光は、凄まじく、僅かに掠っただけのラグナログにも甚大なダメージを与えた。
揺らぐ船体。
「緊急着陸だ!」
「無理です! 船体がもちません!」
ブリッジがざわめく中、アナコスは、決断を迫れた。
「ラグナログは、人類の希望。このまま失うわけには……」
しかし、ラグナログが落下する先には、多くの人類側の兵士が居た。
「ラグナログを放棄、空中で自爆し、敵魔法陣に突入させろ!」
「それは……」
動揺する船員達に対してアナコスが告げる。
「このまま着地出来ようと、ラグナログが再度使用できるかも解らない。しかし、ここで無理に着陸すれば間違いなく多大な人的被害を生む。私は、ラグナログより人の力を信じる!」
その一言に船員達も従った。
結果、多くの人命が救われたが、人類の希望、ラグナログは、完全に失われたのであった。
「どうするつもりだ! 人類の最後の希望だったのだぞ!」
「あれを作るのにどれだけの金と時間が掛かったと思っている!」
「それだけじゃない! ラグナログがラグナログである為に使った神器は、もはや手に入らない。再建は、出来ないのだ!」
多くの叱責の晒されるのは、あの場で唯一、危機感を抱いていた男、アナコスであった。
彼は、一通りの報告をした後、一切の弁明をしなかった。
ただ一言。
「全責任は、自分にあります」
その言葉通り、彼は、全ての部下の責任をとって投獄される事になるのであった。
「俺達がいけなかったんだ!」
人類最大の王国、ミータッドの首都の酒場で男達が酒に溺れていた。
「艦長は、あの状況でも油断なんてしてなかった。なのに俺が調子にのって追撃した所為で!」
あれる男達。
その様子をうら若きウイトレスが憂いの表情で見ていた。
「本当にラグナログが落ちたのね」
「そうだね。希望の船だったんだよね?」
聞き返すポニーテールのウエイトレス。
「そうよ。あれがあればこそ、人々は、明日を信じられた。あれが失われた今、あたしたちには、もう……」
言葉を濁らすうら若きウエイトレス。
「なにグダグダ言って酒飲んでやがる! 魔族の大軍がすぐ傍まで来てるんだ! 応戦に行くぞ!」
そう入り口から叫ぶ若い兵士。
「もう終わりなんだよ!」
荒れる男に若き兵士が近寄り殴った。
「ふざけるな! 俺は、まだ諦めない! 俺には、護りたい者が居るんだ!」
「何しやがる!」
男達との乱闘が始まる。
そんな中、新たな客が入ってくる。
酒場には、不釣合いなまだまだ若い二人の少女であった。
背の高い方がテーブルに着くと開口一番に言う。
「とりあえず肉! 大量に、これから魔族の大軍とガチンコ対決なんだからな」
「は、はい」
うら若きウエイトレスが戸惑いながらも料理を運ぶ途中、若い兵士がぶつかりそうになる。
それをもう一人の、小さいほうの少女が受け止める。
「ほら喧嘩するなら、外でしてよ。料理が勿体無いよ」
「すまねえ。しかし、こいつらが!」
睨む若い兵士に男達が言う。
「おめえ見たいな若造には、解らなえんだよ! 魔族の奴等は、俺達が束にならなければ敵わなえ。それが大軍で来た以上、この国もお終いなんだよ!」
「だったら逃げたら? 戦うつもりもないのになにやってるの?」
背の高いほうの少女のあからさまな蔑みに男たちがいきりたつ。
「うるせえ! 俺達が原因なんだ、逃げれる訳がねえだろう!」
「それで酒に逃げで、あーみっともない」
背の高い少女は、嘲笑う。
「なんだと!」
殴りかかろうとした男が床にめり込む。
「ヨシに手を上げるつもりなら覚悟しな」
背の低い少女が男を床に押し付けながら告げる。
「な、なにしやがる!」
男達が動揺する中、ポニーテールのウエイトレスが声をかける。
「やっと来たんだ。今回の主原因」
その声に反応して背の低い少女が言う。
「また、こんな所に居て、白牙様に怒られますよ」
ポニーテールのウエイトレスが気楽に言う。
「そういう事は、後回し。あんたがラグナログを落とした所為でこの世界がかなりピンチなんだから頑張りなよ」
背の低い少女が溜め息を吐く。
「あれは、不可抗力だと思うんですけど?」
背の高い少女、ヨシが言う。
「もう来ちゃったんだから諦めたら、ヤヤ」
背の低い少女、ヤヤが嫌そうな顔をして言う。
「何時帰れるんだろうな」
「ラグナログがあった場合の勢力図に戻るまで頑張ってね」
ポニーテールのウエイトレスが気楽に言う。
うら若きウエイトレスが驚いた顔をして言う。
「ヤオちゃん、お知り合い?」
ポニーテールのウエイトレス、ヤオは、頷く。
「うん、マンースさん。さっきから話題に上がってるラグナログを撃墜した張本人、おじさん達、恨むんだったらこの子を恨みなよ。あの光の柱は、この子がやったんだから」
「じょ、冗談は、よせ、あれをこんなガキが出来る訳が無い」
男たちの言葉にヤオが空中で手を振ると、二枚の映像が浮かぶ。
一つは、ラグナログが撃墜される場面、もう一つは、ヤヤとヨシって少女が居て、ヤヤという少女の手から光が放たれ、こちらの世界から溢れ出していた魔族を消し飛ばしているところであった。
「凄い、見事に撃墜してるね」
ヨシが気楽に言う中、ヤヤが沈痛な表情で言う。
「周りに被害が出ないように撃ったのが、まさかこんな事態になるなんて想定外だよ」
「この肉、美味しいよ。落ち込んでないで食べる」
ヨシが運ばれてきた肉をヤヤに勧める。
「あー本当だね」
「この世界って意外と料理が発達してるんだよ。食べたら魔族の撃退、頑張ってね」
ヤオも気楽に言う。
「もしかしてこれってとんでもないネタ晴らしされてないか?」
若い兵士の言葉にマンースが言う。
「そうみたいね、マムス」
若い兵士、マムスは、ヤヤに近づく。
「本当にお前が、ラグナログを撃墜したんだな?」
ヤヤは、面倒そうに言う。
「魔族をこっちの世界に押し付けようとしたんだから半分は、そっちの原因だよ」
一応の反論に男達が反発する。
「そんな言い訳するんじゃねえ! お前の所為で俺達の希望が無くなったんだぞ!」
「五月蝿い! あんな船一つで無くなる希望なんて最初から意味無かったんだよ」
ヨシが切って捨てる。
「ふざけやがって!」
再び殴りかかろうとする男たちに対してヤオが言う。
「喧嘩は、外でしてね。ここであの光を撃たれたく無いからね」
その一言で男達は、思い出す、目の前に居る少女は、ラグナログを撃墜する力を持っているって事実に。
「あの力があれば、魔族なんて簡単に倒せますよね」
マンースの問い掛けにヤヤが問い返す。
「あれで魔族を殲滅して良いんだったらそれでも構わないけど、本当に良いの?」
「どういう意味だよ」
意味が解らないマムスにヤオが説明する。
「あれ地面に向って撃てば、この世界がなくなるし、撃ち方向しだいでは、人の国を消滅させる可能性もあるよ」
「こっちの世界の精密な地図が無いから、下手に撃つと本気でどっかの国とかを巻き込む恐れがあるんだけど、それで良いんだったらあちきは、早くすむからそれで良いけど。良い?」
ヤヤは、あっさり言うとマンースが慌てる。
「そういうのは、止めてください!」
「だよね。そういう事で、生身で頑張りますか。それそろ、行こうか」
ヤヤが席を立つ。
「そうしますか」
ヨシも席を立ち、男たちに言う。
「あんたらは、そこですきなだけくさってなよ」
押し黙る男達を残して、ヤヤとヨシは、酒場を後にする。
「待てよ! 俺も戦う!」
マムスもその後を追う。
「さてさてどうなることやら」
見送るヤオであったが、その足元に白い子猫が居た。
「またお前は、こんなところに! 帰るぞ!」
「まだバイトの途中なの!」
もがくがヤオは、白い子猫と共に消え去るのであった。
「なんだったの?」
マンースの呟きは、その場に居た全員の気持ちであった。
「あの数、敵うわけねえ」
千を越す魔族に人々は、絶望を覚えていた。
巨大な狼の魔族が獲物を求める様に先陣をきろうとした。
『オーディーン』
ヤヤの手刀が狼の魔族の足を斬りおとした。
「多いね。ホワイトファング、必要?」
ヨシの問いにヤヤがその闘気を解き放ち答える。
「冗談! 正面からくる相手に自分の力で抗わないなんてありえないでしょ!」
駆け出しヤヤは、獣人の群れに入る。
『インドラ』
雷撃がその動きを封じる。
『タイフーン』
全身を回転させて発生させた風が突風になり獣人が吹き飛び、戦陣が崩れた。
ヤヤを強敵を認識した魔族。
巨人が巨石を回転させ、いきおいをつけて振り下ろす。
『タイタンアーム』
ヤヤは、それを受け止めた。
巨人が戸惑い、動きが止まった、その瞬間を見逃すヤヤでは、無い。
相手の腕を駆け上がり顔面に掌打を打ち込む。
『バハムートブレス』
気が篭ったその一撃は、巨人を一撃でダウンさせる。
倒れいく巨人に魔族が巻き込まれ、もはやまともな戦陣の維持は、不可能になっていた。
そんな中、戦陣があった中心から鎧を纏い、全身に紋様を浮き上がらせた魔族が現れる。
「人間にもお前の様な奴がいようとは、意外だ。しかし、人と魔族その差を思い知れ!」
暗き炎を纏った剣がヤヤに迫る。
後退しながら避けるヤヤ。
「甘いわ!」
剣から炎が飛び出し、ヤヤに迫る。
『カーバンクルシールド』
ヤヤは、炎を弾くが、更に接近してきた魔族の剣が目前にあった。
『オーディーンカタナ』
ヤヤの手刀が魔族の剣を切り裂き、そのまま相手を腹を薙いだ。
「まさか、これまでとは……」
その魔族が倒れると、魔族の軍は、一気に撤退していった。
「意外と、統率がとれてる事で」
感心するヤヤにヨシが近づく。
「ご苦労さん、楽勝って感じ?」
ヤヤが肩を竦める。
「まさか、最後の魔族、戦いなれしてる。このクラスがまだまだ居るとしたら、油断なんて出来ないね」
一連の様子を見ていたマムスが駆け寄って言う。
「お前、凄いな! そんな力をどうやって手に入れたんだ?」
ヤヤは、一言。
「実戦で」
強すぎる一言に、何も返せないマムス。
「さて、これからどうする?」
ヨシの言葉にヤヤが背後にあった王城を指差す。
「とりあえず、ここの王様にあう。話は、それからだよ」
ヤヤとヨシの異界での戦いがここに始まった。