9話 トンファン
「リトラ」
「ん?何よ」
「キミは……アザゼルのこと、本当に好きなの?」
彼女は足元の小石を軽く蹴りながら言った。
「好きっていうより、放っておけないって感じ
かしらね。子供だし、断るのも可哀想かなって」
「へぇ、優しいね。レオパルドはそういうこと考え
なさそう」
私がからかいながら言うと、レオパルドはいつになく
低い声で言った。
「……ベリアル。後で覚えておけ」
「はい、ごめんなさい!」
そんなやり取りをしているうちに、視界が開けて
遠くにレンガ造りの家々が見え始めた。
「あそこがトンファンね」
「トンファンか……どんな所なんだろう」
私が町を眺めながら呟くと、リトラは少し誇らしげに
言った。
「市場と競りが有名ね。市場は新鮮な物がいっぱい
買えるし、競りは安くで色んな物が買えるから
いいわよ」
「まあ、ベリアルは金がないから見るだけになる
だろうがな」
「そんなこと言わないで奢ってよ〜!」
トンファンの中は、想像以上の賑わいだった。
通りには人が溢れ、店の呼び声や笑い声があちこち
から聞こえてくる。レストラン、装備屋、雑貨屋……
数えきれないほどの店が所狭しと並び、奥の方では
競りをやっていた。
「うーん、まずは雑貨屋で何か買おうかしら。アンタ
たちもついて来なさい」
「えー。私、競りが見てみたいなあ」
「何言ってんのよ。荷物持ちよ荷物持ち!」
私とレオパルドは有無を言わさず彼女に連れられて
いった。
「へいらっしゃい!お嬢ちゃんたち、何をお探し
だい?」
店主の男が威勢よく声をかけてきた。
「そうね……下級ゴブリンの肉と干し肉を5つ。後は、
薬草とエニー草を10つずつ。それから、大・中・小
の魔力ポーションを3個ずつくれない?」
「まいど!」
男は慣れた手つきで商品を袋へ詰めていく。
「……レオパルド。女の人って、いっぱい物買う人が
多いよね」
「だな」
短い返事が返ってきた。
しかし、そんな言葉を聞き逃す彼女ではなかった。
「言っとくけど、これから装備屋とアクセサリー
専門店と魔法書の店も行く予定だからね」
「えー!?」
その後、私たちは昼過ぎになるまで買い物に付き合わ
された。昼食は取ったものの、さすがのレオパルド
にも疲れが見えている。
「2人とも。最後は競りに行くわよ」
「はぁ……私、もう疲れたよ」
「……まあ、荷物が全部アイツの袋に入っただけ
良しとしよう」
「ほら、とっとと歩いて!」
私はぐったりしたまま、彼女の後についていった。
競りは町のあちこちで開かれていた。武器、防具、
食料、雑貨……競られる物の種類によって場所が
分かれているらしい。
「あっ!何あの可愛いアクセサリー!2人とも、
ちょっとあっち行ってくる!」
彼女はそう言うと、人混みをかき分けて行って
しまった。
「あー……レオパルド、そこのベンチに座ろうよ」
「そうだな……」
私たちは近くの古びた木のベンチに腰を下ろした。
座った瞬間、今まで歩き回っていた疲れがどっと波の
ように押し寄せてきた。
「私が知っている限りだと、この辺りは海が近いから
貿易が盛んな場所だったんだ。それが今となっては
こんな状態になってるなんて……驚いたよ」
「そうだったのか」
レオパルドは行き交う人々を眺めながら言う。
「俺が初めて来た時からここはこんな感じだった
からな。それは初めて聞いた」
「……あれ?」
ふと、妙に静まり返っている場所があった。
「何であそこだけ人が居ないんだろう?」
「ほら、オーナーと競りに出されているものをよく
見てみろ」
私は目を凝らした。そこにいた男は、髪も髭も伸び
放題で、服もぼろぼろ。まるで何日も風呂に入って
いないようなみすぼらしい姿だった。
競りに出されているのは、土まみれでところどころ
壊れた人型のロボット。腕の装甲はひび割れ、片目の
レンズも割れている。
「あんなのを誰が買うんだ」
「………」
私はゆっくりと立ち上がった。
「お、おいベリアル……!」
「少し行ってくる」
私はそう言って、そのまま競り場へ歩いていった。
「すみませーん!」
男は驚いて顔を上げた。
「このロボットみたいなの、売っていただけ
ませんか?」
「……お前さん、本気でこんな物が欲しいのか」
ほとんど聞こえないような低く、淡々とした声
だった。
「――ああ。私はそれの使い道を知っている。
いくらだ」
すると、男はふっと口元を歪めた。
「金は要らん。持って行くといい」
「何だと?貴様、金が欲しいわけではないのか」
「いいや。ワシは商人だ。だが、
貰うのは金ではない。時間だ。お前さんがワシと
会話した時間。それだけで結構」
男はそれ以上何も言わず、私に背を向けた。
そのまま人混みを避けるように歩き、細い路地裏へ
消えていく。気づけば、もう姿は見えなくなって
いた。
「……何だあの男は」
私は疑問に思いながらも、ロボットを持ち上げた。
見た目に反して随分と重い。身長はリトラほどしか
ないというのに、重さは私よりもありそうだ。
「まさか、まだ残っているとは思わなかった。あの
2人もコレを見れば喜ぶだろう」




