表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

7話 初めてのゴブリンスープ


それにしても、この年であれほどの威力を出せるとは

恐ろしい少女だ。下手すれば、彼女1人で私を倒せる

ようになるかもしれない。


「ちょっと、何見てんのよ」


「え?いや……さっきの技、すごかったなと思って。

 誰かに教えてもらったの?」


「ううん、本とか読んで独学で勉強したのよ」


「……ほう」


才能か、それとも努力家か。


――どちらにせよ、成長が楽しみだ。


「アンタは魔法は使えないの?」


アザゼルはリトラを見上げながら笑った。


「ベリアル様は魔法じゃなくて、物理の方が得意

 なんだよね」


「へえ、まぁ魔法が得意そうな顔じゃなさそう

 だしね」


「す、少しはできるぞ少しは!」


声を荒げると、隣でレオパルドが呆れたように

こちらを見た。


「お前。メシは食わなくていいのか?」


「あっ」


言われてようやく気がついた。


「すっかり忘れてた。お腹空いたよ〜」


「仕方ないわね……ちょっと待ってなさい」


リトラは村長の家へ戻ると、布製の大きな袋を抱えて

戻ってきた。


「それはお前の物か?」


「そうよ。服とか食べ物とか入ってるの。本当は、

 この村の住民から食べ物を仕入れたかったけど……

 今回ばかりはよしとするわ」


彼女は苦笑しながら、肩をすくめた。


「起きた住民から助けてくれたお礼として貰えないの

 かな?」


アザゼルはぐるっと村全体を見た。


「それは難しいだろう。彼らにとっては少し眠って

 いた程度の感覚だから、まさか1ヶ月近く眠らされて

 いたとは夢にも思わないはずだ」


「ま、こればっかりは仕方ないわよ。今ある食材で

 何か作りましょ」


私たちは村から少し離れた所にある小川まで歩いて

いった。小川は夕日の光を受けてきらきらと輝き、

静かな流れの音が耳に心地よい。


「ごーはん、ごーはん!いや〜、楽しみだなぁ」


「ベリアル様。その変な喋り方だと、他の人にドン

 引きされるよ。僕はもうしてるけど」


「……仕方あるまい。あの女が居る以上、私が魔王

 だとバレるのは避けたいからな」


「ねえ、何の話してんのよ」


リトラが怪訝そうな顔で振り向いた。


「え?えーっと、ご飯が楽しみだなって話だよ。

 そうだよね、アザゼル!」


「……変なベリアル様」


リトラは軽く首を傾げると、地面に袋を置いて中を

がさごそと探り始めた。


「あっ、ゴブリンの肉だ」


私は横目でレオパルドを見る。


「なぜ俺を見る。ゴブリンの肉なんて、みんな

 だいたい持ってるぞ」


「リトラ。僕、甘い物が食べたい!」


アザゼルは真っ青な殻に包まれた、小さな丸い物を

指差した。


「……待て、アザゼル。こんな毒物みたいな色をした

 物を食べる気か?」


「あっ、そっか。ベリアル様はお城に引きこもってた

 から知らないのか。これはね、ウーマの実だよ」


「そうよ」


リトラは使い捨ての木でできたお椀とスプーンを配り

ながら言った。


「ウーマの実は、こんな見た目だけどほっぺが落ちる

 ぐらい甘いの。その分、高いんだけどね」


「そんな物があるのか。知らなかったな……」


「ねえ、アンタ」


リトラはレオパルドに視線を向ける。


「レオパルドだ」


「レオパルドね。悪いけど、ちょっとそこの川で

 水くんできてくれない?」


「分かった」


彼はリトラから鍋を受け取り、小川の方へ歩いて

いった。


「じゃ、2人はこの肉とキャベツをちぎっておいて。

 私は枝を拾って来るから」


「はーい」


少しすると、鍋いっぱいに水を入れたレオパルドと

大量の枝を抱えたリトラが戻ってきた。


「鍋に醤油を入れてっと……キロ・フレア!」


パチン、と音がして小さな炎がぱちぱちと音を立てて

燃え始めた。


「ベリアルだったかしら?これ着けて鍋の取っ手を

 持って」


「これは……」


差し出されたのは、鍋つかみのような手袋だった。


「火を遮断する手袋よ。ちょっと小さいかもしれない

 けど我慢して。一緒に持ち上げるわよ。せーの!」


私とリトラは鍋を持ち上げ、火の上に構える。


「いい?沸騰するまでこうしておくのよ。アザゼル、

 ゴブリンの肉を入れて」


「うん!」


肉が静かに鍋の中へ落ちる。


「後は肉に火が通ってから、キャベツを入れて

 完成ね」


鍋を持つ役割を交代しているうちに、肉とスープの

匂いが混ざった香ばしい匂いが漂い始めた。

ぐつぐつと煮える音が食欲をそそる。


「あっ、みてみて!ゴブリンの肉が薄赤色に

 変わってるよ……!」


アザゼルは嬉しそうに鍋を指差した。


「ちゃんと火が通った証拠ね。それなら、そろそろ

 キャベツを入れないと」


彼女はちぎったキャベツを鍋に放り込み、木の

スプーンで軽くかき混ぜた。その様子を見た

レオパルドが腕を組み、じっと鍋の中を見つめる。


「……美味そうだな」


「材料は足りないけど、美味しいと思うわよ。ダシも

 ちゃんと取れてるしね」


やがて鍋を切り株の上に置き、リトラが手際よく

お椀に入れてくれた。


「さっ、これでゴブリンスープの完成!みんな、

 食べてみて」


名前だけ聞くと、全く美味しそうに聞こえないが……

食べてみるとするか。


「いただきます」


スプーンで肉をすくい、かじる。


「ふむ。これは絶品だな」


肉がスープをたっぷり吸っている。噛めば噛むほど


旨みが口に広がっていく。


「ベリアル様!スープも飲んでみて!」


「言われずとも」


軽く一口すする。

肉のダシとキャベツの甘みがほどよく絡み合い、

そこに醤油の風味が重なっている。まるで、鶏団子

スープのような味わいだ。これだけの材料で、こんな

美味いものができるのか。

 

「……今度、アンゴルモアに作らせてみるか」


「え?アンゴルモアって、魔王ベリアルの………」


しまった。


「ど、同姓同名なだけだよ!」


私は慌てて否定した。


「ふぅん?ベリアルといいアンゴルモアといい、

 最近はそういう人の同姓同名も居るのね」


リトラはあっさり納得した様子でスープを飲んだ。


……危ない危ない。気を抜くと、つい素が出て

しまう。


「ベリアル」


椀の中身を飲み干したレオパルドが、こちらを見て

言った。


「これからどこへ行く気だ?」


「そっか、ベリアル様たちは幹部……じゃなくて、

 仲間を探してるんだっけ」


「ああ。彼らの居場所について何か知らない?」


アザゼルはスプーンを持ったまま、考え込むように

して腕の中を見つめた。


「うーん……僕はずっとこの森に居たから分かん

 ないや。でもさ、この森を抜けて北に行けば

 おっきな町があるよね。そこで情報収集して

 みたら?」


すると、リトラがぱっと顔を上げる。


「北にある町って、トンファンのことよね?私、

 あそこで色々買いたいかも。市場もやってるし」


「決まりだね。次はトンファンに行こう」


私は腕に残ったスープをすすり、夕焼けに染まった

空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ