6話 リトラ
村のすぐ近くまで来ると、アザゼルは私の服の袖を
引っ張り始めた。
「どうした、怖いのか?」
「……うん。すっごく」
何十、何百年と生きているとはいえ、彼は見た目も
中身もまだ子供だ。不安になるのも無理はない。
「大丈夫だ。私が近くで見守っている」
「一緒に行ってくれないの……?」
「なぜ私が行かねばならんだ。こういうのは、1人で
想いを伝えなければ意味がない」
アザゼルはさらに強く服の袖を引っ張った。
「一緒に行っても構わんが、私ができるのは黙って
隣に居ることだけだ。もうじき着く。覚悟を
決めろ」
結局、不安を抱えたまま村へ辿り着いてしまった。
「……行ってくる」
「ああ」
動きはぎこちなく、足取りもどこか頼りない。視線は
落ち着かず、あちこちを泳いでいる。
……見ているこっちが不安になってきた。
「こんな所に居たのか」
「おっ、いい所に来たなレオパルド」
「どういうことだ」
私は顎で前方を示した。
「あれを見ろ。今、まさに世紀の瞬間が見れるかも
しれない」
レオパルドは私の視線の先を見る。
「あの子供は誰だ?」
「彼がアザゼル。この住民昏睡事件の犯人だ」
「アイツがアザゼルか……思っていた以上に子供
だな」
アザゼルは何度も周囲を見渡し、落ち着かない様子で
扉をノックをした。
「はい……って、アンタこの前の……」
扉が開いた瞬間。
「す、す……好きです!」
花冠を渡すと、彼は俯いて動かなくなってしまった。
「好きって……よく分からないけどありがと。大事に
持っておくわ」
「……良ければさ、僕と付き合ってくれない?」
「は、はああああっ!?」
村に響き渡るほどの声が上がった。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!私とアンタは
あの時以来、1回も会ってないじゃない!」
「一目惚れしちゃって………ダメ?」
アザゼルはおそるおそる少女を見上げた。
「う、うーん。えっと……私ね、旅をしてるの」
「知ってるよ。魔法使いだって言ってたもん」
「それでね、世界中を回って植物とか魔法の研究を
してるのよ。だから、今は誰かと一緒にはいられ
ない」
アザゼルは肩を落とし、再び俯いた。
「でも。全部終わってここに戻って来れたら、
その時は付き合ってあげる」
「ほ、本当!?やったー!」
歓声が上がった途端、私は草むらから立ち上がった。
「良かったな、アザゼル」
「うん!じゃあ、ここの住民を眠らせる必要がなく
なったから、起こしてあげる」
彼は目を閉じ、手を合わせた。淡い魔力が村全体に
広がっていく。
「……よし。少ししたら、みんな起きてくるよ」
「え?じゃあ、もしかしてアンタが例のアザゼル?」
少女は目を丸くした。
「そうだよ。君の名前は?」
「私はリトラ。よろしくね、アザゼル」
リトラが笑顔で手を差し出すと、アザゼルは嬉し
そうにその手を握り返した。
握手を終えた彼は、くるりとこちらを振り向いて
レオパルドを見上げる。
「ベリアル様、そっちの人は誰なの?」
「悪い、紹介が遅れたな。この人が魔王城の再建の
手伝いをしてくれるレオパルドだ」
「へえ……ふぅん」
アザゼルは遠慮なく顔を覗き込み、値踏みするように
眺めた。
「イケメンは変な人が多いって聞いだけど、君は普通
そうだね」
「普通で悪かったな」
「――ところで」
私はアザゼルを見下ろす。
「貴様は、魔王城再建の手伝いをする気はない
のか?」
「もちろんあるよ!」
彼は堂々と胸を張った。
「今回、告白できたのはベリアル様のおかげ
だもん!」
「フッ、そうか……感謝する」
「え?魔王城再建………?」
リトラは私に突き刺さるような視線を向ける。
「あっ、いやほら模型の話だよ模型!」
彼女の眉が疑わしげに動く。
「模型ねぇ……ってかアンタ、さっきと話し方違く
ない?」
「そ、そんなことないって〜」
「……名前もベリアルだったし、アンタひょっとして
あの魔王なんじゃないの?」
痛い。視線が痛すぎる。
しかし、ここで認めれば確実に面倒事が増える。
「ただの偶然だよ偶然!ね、2人とも!」
「ノーコメント」
「んー……ベリアル様のキャラがキモくなったこと
しか分かんないや」
「ひどっ!」
リトラは腰に手を当てると、ちらりとレオパルドを
見て言った。
「ねえ。ずっと思ってたけど、アンタたちはどうして
ここに来たの?」
「……一言で言うなら、強い仲間を作るためだな。
コイツのために」
「へえ?」
再び彼女の視線がこちらに向かう。
「よく分かんないけど、仲間が欲しいってことね?」
「ま、まぁそういうこと……」
嫌な予感がする。この流れはまさか――
「じゃ、私もアンタたちについていくわ。1人で世界を
回るの大変だと思ってた所だし」
「待て。生半可な気持ちでついて来るのは危険だ。
これからは強力な魔物とも戦うことになるかも
しれない。俺たちもお前を守りながらの
戦いは……」
「あら?誰が守ってくれなんて言ったかしら?」
彼女は空に手を掲げた。
「クリムゾン・メガ・フレア!」
直後、轟音と共に巨大な炎柱が空を突き抜ける。
雲が焼け、熱風が草原を揺らした。
「……どう?結構すごいでしょ」
私はしばらくの間、呆然と空を見つめ続けていた。
ふと、焦げた匂いで我に返る。
「はぁ……仕方ない。一緒に行こう」
「ベリアル。本気なのか?」
「ああ。さっきの技もそこそこ威力はありそうだし、
魔法使いは欲しいと思ってたからさ」
「決まりね。これからよろしく」




