5話 花畑と彼女
「アザゼル。女性には手土産を持っていくといい」
「例えば?」
「今すぐ用意できそうな物だと……花か?」
「花かぁ……確か、あそこに綺麗な花畑があったはず
だから、そこで摘もうかな」
そう言われて、ふと思い出す。
アザゼルは城を抜け出して、よく花畑で昼寝をして
いた。
「ねえ、ベリアル様はお花って好き?」
「……興味はある」
私は視線を落とした。
「妻が好きでな、よく花を摘んできていた」
「あの綺麗な奥さんだよね。ラブラブだったな〜。
……それよりさ」
アザゼルは目だけで私を見た。
「教えてよ。僕に会いに来た理由」
「ああ、そうだったな。貴様も今の魔王城を知って
いるだろう?」
「うん、知ってる。今にも崩れそうなオンボロ屋敷
って感じ」
その言葉に、私は思わず苦笑した。
「さっき、勇者……レオパルドと名乗る人間が
来てな。魔王城を再建したいと言ってきたのだ」
「ふぅん?変な人だね」
「彼は再建する手伝いをする代わりに、私と一戦
交えたいと言ってな。そして今、魔王城再建の
ために幹部を集めている所だ」
「そっかぁ……それには僕も含まれてるんだね」
彼は足元の草を蹴りながら、小さく呟く。
「考えてみるよ」
それから歩くこと数分。ほのかな甘い香りが風に
乗って漂ってきた。
「あっ、ほら見てあそこ!」
「む?」
彼の指差す方を見ると、そこには花畑が広がって
いた。色とりどりの花々が揺れ、陽光を受けて宝石の
ように輝いている。
「ほう、見事だな……」
「摘んでくる!」
アザゼルは子供のように駆け出していった。私はその
後ろ姿を眺めながら、腕を組んだ。
花を見ると彼女を思い出す。白いドレスを翻しながら
笑う姿。花に囲まれて、子供のようにはしゃぐ声。
――あなた、綺麗でしょ?
彼女はそう言って、いつも花冠を差し出してきた。
「………私は、お前に会いたい」
「会いたいって、誰に?」
振り向くと、花を抱えたアザゼルが不思議そうに
立っていた。
「何でもない」
私は軽く咳払いをした。
「そんなことより、貴様はその花をそのまま渡す
つもりか?」
「うん」
「それは感心せんな。どれ、貸してみろ」
花を受け取り、茎と茎を絡めて形を作っていく。
地道な作業だが、できた時の達成感はある。
「ほら、これを持っていくといい」
「うわぁっ……!花冠だ!ベリアル様、こんなのが
作れたんだ!」
アザゼルが嬉しそうに花冠を抱える姿を見て、私は
小さく息を吐いた。
「妻によくせがまれてな。よく作らされていた」
「ありがと、ベリアル様!」
……昔は、部下に何かを作ってやろうなどと考えた
こともなかったな。偶にはこうして誰かが嬉しそうに
している姿を見るのも、悪くないものだ。
「さて、後はあの村まで帰るだけか」
花冠を大事そうに抱えたまま、アザゼルが隣に
並んだ。私たちは花畑に背を向け、森の道を歩き
出した。




