4話 アザゼル
急がなければ。
「……ベリアル」
一刻も早く、彼を見つけ出さなければ。
「聞いているのか、ベリアル」
「あっ、ごめん聞いてなかった」
「お前。アザゼルの場所は分かるのか?」
私は首を振った。
「この広大な森を適当に探せばとてつもない時間が
かかる。アザゼルが居そうな場所の見当はつかない
のか?」
「えー。私、あの子の親じゃないからそんなの知ら
ないよ」
私は彼とはあまり関わらなかった。
というより、部下と深く関係を持つことはなかった。
関係を持ってしまえば、悲しみや憎しみなどという
くだらない感情が生まれてしまうと考えていた
からだ。
「仕方ない。こうなったら、手分けして探そう」
「えっ!そんなの嫌だよ〜!一緒に探そうよ〜!」
「安心しろ。この森の魔物は弱い奴ばかりだ。死には
しない」
言い終わる前に、彼は歩き出していた。
「ちょっ、1人にしないでよ〜!」
情けない声が森中に響き渡る。
「はぁ……もういいや。探そう」
私は今になって後悔していた。もう少しアザゼルと
深い関係を持っていたなら、彼の居場所も想像
できたのかもしれない。もし、彼と再び会えるなら
一緒にワインでも酌み交わすとするか。
「出て来いアザゼル。私だ、ベリアルだ」
奥へ進むにつれ、魔物の気配が薄れていく。
しかし、どことなく空気が張り詰めている。
ーー居る。近くに彼が居る。
「アザエルちゃ〜ん、早く出て来ないと森ごと焼き
尽くすぞ〜?」
その瞬間、背中に鋭い視線を感じた。私はそれを
無視して続けた。
「3秒以内に出て来ないと、その羽をむしって
丸焼きにして食べちゃうぞ〜?」
ふむ。我ながら素晴らしい演技力だ。
この声で言うのは精神的にかなりキツイが、彼を
誘き寄せるためだと思えばどうということはない。
「――ベリアル様じゃん」
「む?」
不意に背後から声がした。だが、姿は見えない。
「今さら何しに来たの?僕、忙しいんだけど」
「フッ、あの村の住民を眠らせているからか?」
「違う」
彼は間髪入れずに否定した。
「……行ったんだね、あの村」
「ああ。ポニーテールの小娘が、眠り続けている
住民共の世話をしていた。顔色が悪く、目には
クマができていた。あのままではいつ倒れても
おかしくない」
返答はない。代わりに、森全体が息を潜めたように
静まり返った。
「貴様、何が目的だ。あの住民共に恨みでもある
のか?それとも、あの女を過労死させたいのか?」
「違う!どうせ、ベリアル様には分からない……!」
「………なるほどな」
私は近くの木の根に、腰を下ろした。
「事情があるのは理解した。では、手っ取り早く
解決してやろう」
ゆっくりと村の方へ手を掲げる。
「――あの村を消し飛ばす」
私の殺気が森を震わせ、鳥たちが一斉に飛び立った。
「そうすれば、貴様の迷いなど跡形もなくなくなる。
名案だろう?なぁに、可愛い部下のためだ。この
程度はどうということはない」
「止めて、ベリアル様!」
上空から影が落ち、少年が地面へ転がり出た。私は
手を下ろす。
「久しぶりだな。元気にしていたか?」
「……え?」
アザゼルは目を見開き、後退りした。
「本当にベリアル様、だよね……?」
「ああ、少し話さないか?」
彼は私を見つめたまま、隣に座った。
「手荒なマネをしてすまなかった。ああでも
しないと出て来ないと思ってな」
「……意外と僕のこと分かってるね。てっきり、僕の
ことなんてどうでもいいのかと思ってた」
「いや、思っていた」
私は大きく息を吐いた。
「私は、1人で世界を破壊できるほどの力がある。
だから、部下など駒程度にしか思っていなかった」
「……じゃあ、どうして僕に会いに来たの?」
「それは後ほど話そう。まずは一刻も早くあの住民
たちを目覚めさせて欲しい」
アザゼルはぷいっとそっぽを向いた。
「嫌だ」
「なぜだ。私はその理由が聞きたい」
しばらく沈黙が続き、やがて彼は観念したように口を
開いた。
「……だって、あの人たちが起きたらあの子が村を
出て行くから」
「あの子?ポニーテールの小娘のことか」
「うん。あの子は旅人で、あそこの住民じゃない」
彼は枝で地面をつつきながら続ける。
「僕、その……一目惚れしちゃって」
「ほう?まぁ気は強そうだが、美人なのは確かだな」
「住民を眠らせておけば、あの子がお世話し続け
なきゃいけない。だから、ここに居てくれると
思ったんだ」
私は腕を組み、言葉を選びながら言った。
「人間に恋愛感情を抱くのは悪くない」
アザゼルがわずかに顔を上げる。
「だがな、好きな者を困らせるようなことはするな。
あのままでは、あの小娘は本当に死ぬぞ」
「どうすればいいの?」
彼は目に涙を溜めている。
「思い切って伝えてみろ。好きだとな」
「……前、行ったことあるけど怖くて何も言え
なかった」
私は少しだけ考え、ため息混じりに言った。
「仕方ない。私も行こう」
「ほ、本当……!?ありがとうベリアル様!」
アザゼルの顔がぱっと明るくなる。
「行くぞ、アザゼル。ついて来い」




