15話 あの景色
夕食を済ませた私たちは、芝生の上にそのまま横に
なり、星空を眺めながら眠りについた。
そして、翌朝。
すぐ近くでガサガサと荷物を整理する音が聞こえる。
「あれも持ったし、魔力ポーションも十分っと……」
「ふわあ〜あ」
私は大きくあくびをしながら上半身を起こした。
「リトラって、朝起きるの早いよね」
「あっ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや。今さっき起きた所だよ」
周囲に敵の気配はない。寝込みを襲われなくて
良かった。
「それより、あのタヌキは?」
「これ置いてどっか行っちゃったみたいよ」
彼女は1枚の葉っぱを私に見せてきた。
「えーっと?『ご飯をくれてアリガトウ。いつか、
絶対にお礼するから待っててネ!タヌキのミヤマ
より』……」
文の最後には、小さな手形がぺたんと押されている。
私は苦笑しながら葉っぱを返した。
「タヌキのお礼って何だろうね?」
「さあ?ネズミでも持ってきてくれるんじゃない?
別に期待はしてないけど」
「まあ、所詮はタヌキだもんね」
私はそう言って、リトラの隣で準備を始めた。
それから少しして、私たちはグレイシア城へ続く
山道を歩き始めた。
「それにしても、標高はどのくらいなのかしら?」
「せいぜい500メートルかその辺だろう。すぐ着く」
「雪遊びする暇はないかぁ……」
私は道端の小石を遠くへ蹴った。
「雪合戦した〜い」
「アンタね……」
リトラが呆れた顔で私を見る。
「いい歳した大人が、そんなこと言ってんじゃない
わよ」
「じゃあ、キミはやりたくないの?」
「べ、別にやりたくなんかないっての!」
リトラは頰を膨らませて腕組みをしたが、しばらく
してぽつりと呟く。
「……私の住んでた所はね、雪が降らない地域
だったの。だからその………本当は、やってみたい
って気持ちはあるわ」
「ふうん。雪が降らない地域なんてあるんだね」
「ええ。春と夏と秋はあるけど、雪が降らないから
冬が無い感じ。アンタの住んでた所はどうなの?」
私は空を見上げながら言う。
「そうだなぁ、私の住んでいた場所は積もらないけど
降るって感じだったかな。だから、いつも妻が
積もって欲しいって言ってたよ」
「へえ?アンタって結婚してたんだ」
「そうだね」
私は軽く笑った。
「最初は乗り気じゃなかったけど、一緒に暮らしてる
うちに、こういう生活も悪くないなって思ったよ」
レオパルドが一瞬こちらを見たが、すぐ前を向いた。
「まぁ、もう2人とも居なくなったんだけどさ……」
「ねえねえ!」
リトラが興味津々で身を乗り出してきた。
「奥さんはどんな人だったの?」
「そう、だね………」
私はその質問をすぐに答えることができなかった。
「……どんな人だったんだろうね」
太陽よりも明るくて、眩しい女性………
いや、そんな言葉で終わらせてはいけない。そんな
者ならこの世に何人も居るだろう。彼女には私が
好きになる何かがあった。
「……ベリアル?」
「っと……強いて言うなら、キミに似てる人かな」
「え?私に似てるの?」
リトラはきょとんとした。
「うん。キミに高貴さと真面目さを足したら、彼女に
なるかな」
「ふぅん、じゃあ子供は?」
私は少しだけ視線を落とす。
「……それがさ、赤ん坊の時に色々あって会えて
ないんだ」
「ええっ!?そ、それって……」
「妻は王女でね。両親には無断で私の所へ遊びに
来ていたんだ」
少し間を置き、ゆっくりと続けた。
「……だけど、それがバレてしまった。
彼女の両親はこう言った。結婚を認める代わりに、
生まれた子供をよこせ、とね」
「何よそれ……ひどい」
リトラは強く拳を握る。
「私は仕方ないと思った………だから、大人しく
赤ん坊を渡した。それ以来あの子とは会って
いないんだ」
言い終わった瞬間。
「ベリアル!」
彼女が信じられないような大声を出した。
「親として、見に行かないのは絶対ダメ!育児放棄
みたいなもんよ!」
「えっ?いや、まあ………」
私は言葉に詰まった。
「グレイシア城の件がひと段落ついたら、その子に
会いに行きましょ!」
「待てリトラ。恐らく私の子供はもう――」
「……私、本当の親が居ない寂しさってのは人一倍
分かってるつもりよ」
そう言うリトラの横顔はどこか寂しそうだった。
「むぅ……分かった。それなら、フリージアを勧誘
したら会いに行ってみよう」
「本当!?きっと、アンタの子供も喜ぶはずよ〜!」
彼女はスキップしながら前へ走っていった。
「……ところで、ベリアル」
レオパルドが小声で聞いてきた。
「その子供を産んだのはいつの話だ?」
「もう何百年も前だ。だから、あの子が生きている
はずがない」
――尤も、あの子が私と同じ力を持っていなければの
話だが。
「どういう意味だ」
「フッ」
私は鼻で笑った。
「敵に自分の力を教えると思うか?」
「……フン」
その時、前から元気な声が飛んできた。
「2人とも!早く来ないと置いていくわよ〜!」




