14話 こんにちは、タヌキさん
「――さて」
暗闇に私の声が響く。
「時間も隙も与えた。貴様は私に何を与えて
くれる?」
返答はない。それどころか、物音すら聞こえない。
「……フン、今のが私の見せる最後の隙だ」
私は目を閉じ、ポケットに手を突っ込んだ。
「できれば、綺麗に死んでくれ」
その頃、洞窟から離れた場所でリトラとレオパルドは
私の様子を見守っていた。
「レオパルド。やっぱり私、ベリアルの所に戻る」
「ダメだ、ここに居ろ」
「……アンタ、仲間が死ぬのを見たいっての?」
レオパルドは少しだけ眉を動かした。
「俺はアイツを仲間とは思っていない。そもそも、
お前にとっての仲間の定義は何だ」
彼は何かを思い出すかのように目を細める。
「……利用するだけして、ボロ雑巾のように投げ
捨てるのが仲間か?それとも、鬱憤を晴らすための
道具か?」
「そんなわけないじゃない」
リトラは即座に否定した。
「仲間ってのは、困ったらお互いに思いやりを持って
助け合える人のことよ。綺麗事かもしれないけど、
私はそう思ってる」
それを聞いたレオパルドは、リトラから視線を
逸らした。
「……あぁ、綺麗事だ。そんなのは」
その時だった。
「あっ、見てあそこ!」
「!何だ……!?」
洞窟の方を見ると、洞窟が跡形もなく粉砕されて
いた。崩れ落ちた岩の粉塵が、白く舞い上がって
いる。
「リトラ!」
「うん!」
2人は慌てて洞窟へ走っていった。
「……けほっ」
私は瓦礫を押し除け、立ち上がる。
「こんな所で使う技ではなかったな……」
洞窟内の空気を膨張させ、破壊した。
ランプを壊したことから、声の主は光を嫌っていると
判断したからだ。洞窟を破壊して外の光を入れれば、
姿を現すはず……そう思ったが、姿は見えない。
「逃げたか、あるいは瓦礫の下か………どちらにせよ
無事ではあるまい」
「たーすーけーてー」
「……む?」
瓦礫の下から、間の抜けた声が聞こえてきた。
見回すと、岩の隙間から茶色い尻尾がぴょこんと出て
いる。私は理解できないまま、それを掴んで引っ張り
上げた。
「………何だ貴様は」
「タヌーン……」
瓦礫の中から出てきたのは、両手に抱えられる
ぐらいの小さなタヌキだった。
「まぁ、タヌキの1匹や2匹ぐらいは居るか。
ところで、貴様以外に変な奴を見ていないか?」
「………ボクしか居ないヨ。君が倒そうとしてたの、
ボクだもん」
「何だと?」
私が尻尾を離すと、タヌキは器用にくるりと回転して
着地した。
「最近、おもしろ半分でグレイシア城に行こうとする
人が増えててネ。危ないから、通らせないように
ああやって驚かしてたんだ」
「ほう……あの城は危険なのか」
「ウン。あの城の中には、とっても綺麗な人が
居るんだ」
タヌキはグレイシア城を見ながら続ける。
「中に入ってきた人を見定めて、気に入らない奴は
氷漬けにして外に追い出す。逆に気に入った
奴は……一生、城の中に閉じ込められる」
ーー間違いない、フリージアの仕業だ。
彼女は私と出会う前まで、平然とそういうことを
していた。
「……タヌキ。さっきはすまなかったな」
「いやいや、別にいいヨ。でも、君ぐらい強い人なら
あの城の主人を何とかできるかも」
「ああ、そのためにここへ来た。彼女は私のかつての
部下だからな」
そう言った時だった。
「ベリアル!」
振り向くと、レオパルドとリトラがこちらへ駆け
寄ってきていた。
「む、戻ってきたか。怪我はないか?」
「それはこっちのセリフよ!アンタ、大丈夫
なの!?」
リトラは私の肩を掴んで何度も揺さぶった。
「ああ、問題ない」
「……ベリアル。そのタヌキは何だ?」
「彼が洞窟の声の主だ。グレイシア城は危険だから
通らせないようにしていたらしい」
タヌキはつぶらな瞳でレオパルドたちを見つめた。
「コイツが……てっきり、今日はタヌキ鍋にするのか
と思ったぞ」
「ヤメテ!ボク、美味しくないから!」
「しゃ、喋った!」
リトラは驚いて、1歩後ろに下がった。
「タヌキだって喋るヨ!それにしても君、可愛いネ。
どう?ボクと一晩だけ寝るっていうのは」
「2人とも。やっぱり今日はタヌキ鍋になりそうよ」
「じょ、冗談だって!食べるのだけはマジ勘弁!」
「まあ……腹は減ったな。洞窟も無くなったこと
だし、今日はここで休むぞ」
レオパルドはそう言って、袋からサンドイッチを取り
出した。
「人数分あるから、遠慮せず食べろ」
「わーい、じゃあボクもいただこうかナ」
タヌキは凄まじい速さでサンドイッチを奪い取ると、
そのままリトラの隣で食べ始めた。
「アンタねぇ……」
「うまうま」
「やはり、今夜はタヌキ鍋にすべきだったか」
タヌキは食べる手を止めて、ぶんぶん首を振った。
「食べたら美味しくないって後悔するヨ!」
「いや。肉がついているヤツは大抵美味いだろう?」
「……ベリアル」
リトラが疑わしそうに私を見る。
「アンタってそんな喋り方だっけ?」
「!い、いやいや!こういう喋り方だよ〜」
「うーん。なんかアンタって、偶に喋り方が違う時が
あるような気がするのよね……気のせいかしら」
「き、気のせいだよ気のせい!」
私は慌ててサンドイッチを頬張った。
「そ……それよりさ、レオパルド。これってキミの
手作り?」
「いや、市販のものだ。さっき買ったばかりのな」
「今日は料理作るって、断言してたのに〜」
私がにやにやしながら言うと、レオパルドはぷいっと
そっぽを向いた。
「俺の手作りより、市販の方が美味いだろ」
「分からないよ。だって、キミの手料理なんて食べた
ことないし」
私は肩をすくめる。
「今度はちゃんと作ってね?」
「……ノーコメント」




