12話 不思議な氷の像
「すみません。白髪で水色の目をした女性を知り
ませんか?」
「いや、知らないな」
「そうですか……」
これで何人目だろうか。声をかけるたびに
「知らない」「分からない」と首を振られる。
彼女は、この辺には来ていないのだろうか。
「続いての商品はこちら!」
「……ん?」
私は顔を上げた。
「氷で造ったと思われる人間の像です!」
競り場の中心で、司会の男が高らかに叫んでいる。
私は何となく気になり、声のする方へ行った。
「この像は非常に精巧に作られていて、長時間太陽の
光に当たっても溶けることはありません!さあ、
10,000ゴールドからスタートです!」
人ごみをかき分け、ようやく見えた。
それはまるで、生きたまま凍らせられたかのような像
だった。片手を前に伸ばし、何かから逃れようとした
ようなポーズのまま固まっている。表情、指の造り、
足の形……どこを取っても気持ち悪いぐらいに完璧
だった。
「……あんな像を作れる者が居るのか」
そう呟くと、隣から声がした。
「何だ知らないのかいオヤジさん」
見下ろすと、猫背で杖をつき、黒いフードを被った
男が居た。
「あの氷の像は、グレイシア城付近に捨てられていた
そうだ」
「グレイシア城?どこだそこは」
「えっ!オヤジさん、あんな観光名所も知らない
のか!?」
男は声を弾ませた。
「グレイシア城は、東の山の頂上にある氷の城さ。
年中溶けないってんで、この辺りじゃ有名なんだ」
「……氷の城、か」
「ただな」
彼は声を潜めた。
「噂だと、中に入った奴は誰も帰って来てない
らしいぞ」
「ほう……それで、城の主人はどんな者なのだ」
「さあ?そこまでは知らねぇなあ」
氷でできたグレイシア城。何百年も前だが、私が
この辺りを歩いた時は無かったはずだ。
そして、あの異常なまでに精巧に作られた氷の像……
「……念のため、あの2人には伝えておくとするか」
私は競り場を後にした。
それから、1時間後。集合場所には既にリトラと
レオパルドが待っていた。
「来たか。何か情報は得られたか?」
「おじさんから聞いたんだけど、あの山の頂上に
グレイシア城ってのがあるらしいね」
「あっ、それ私も言われた!」
「俺も全く同じことを言われたな」
レオパルドは腕を組んだ。
「俺はこの辺りの人間じゃないから分からないが、
何十年も前からあるそうだ」
「彼女……フリージアが居るとは断定はできない
けど、一応行ってみない?」
「そうね。氷の城ってのも見てみたいし」
「うん。じゃ、日が暮れないうちに東の山に登ろう」
フリージア。彼女は、最後まで魔王城に残ろうとして
いた幹部だ。彼女が歩く場所は凍りつき、天候をも
変化させられるほどの力を持っている。性格に難は
あるが、部下の中ではトップクラスに強い。
「……ねえ、リトラ。キミは炎系の魔法はどこまで
使えるの?」
「ギガまでなら使えるわよ。何なら、2属性魔法も
使えるし」
彼女は自慢げに笑ってみせた。
魔法の威力は4段階に分かれている。上からテラ、
ギガ、メガ、キロ。しかし、私は最上級のテラを
使えている者を見たことがない。それほどまでに
習得難易度が難しいのだ。
「2人ともよく聞いて」
私は声を低くした。
「フリージアは主に氷の技を使うんだけど、恐らく
その威力はテラを超えている」
「えっ……!?」
「そんなことがあり得るのか……?」
リトラとレオパルドの表情が、わずかに引き締まる。
「だから、彼女とはなるべく戦わないようにしたい。
全滅の可能性もゼロじゃないからね」
私はうっすら見える東の山を見上げた。山の頂上
付近は雪で白くなっている。あそこに、フリージアが
居るのだろうか。
「ところでさ、あの山はどこから登れるの?」
「あそこにある洞窟を抜けると山道がある」
レオパルドは遠くに見える大きな洞窟を指差した。
「そこを登っていけば辿り着けるそうだ。さっき
雑貨屋の店主に言われた」
「そうなんだ。とりあえず、山は寒いだろうから
防寒具を買ってから向かおう」




