4.練習と赦し
『ハタタカ様、これは練習だと思われます』
擬人3号が言った。といっても、本体は修理工場に送られている。擬人同士のネットワークを使い、擬人1号の身体を借りているのだ。
「練習…?」
『そうです、急なことで我々も驚きましたが、カンクロ様は貴方に、自分を打ちのめす練習をさせたのだと思います』
「え…⁈」
『カンクロ様は敵国の罪人です。もし彼がまた罪を重ねようとした時、誰かが止めねばなりません。責任は、連れて歩くハタタカ様に生じますから』
「……あ」
(イヤでもやれなきゃ、大事な奴らが死ぬぜ)
カンクロの言葉を思い出す。実際、止めるのが遅れたら、カンクロはミシマの腕を折った。でも。
「なら最初から練習って言えばいいのだ!」
『私もそう思いますね』
ハタタカが擬人1号とやって来た。
「泣き止んだかガキ」
「イーだ」
そんな仕草を見るのは久しぶりだったので、カンクロは思わず頬を緩ませた。
「なんでえ」
「カンクロ、意地悪なのだ。嫌いなのだ!」
「はっ、嫌いで結構だあ」
やっと嫌われて、カンクロは大きく笑った。
一方ハタタカは、嫌いとまで言ったのに笑うカンクロに引いた。
「…変な人なのだ…」
「そうさ、だから用心しな」
カンクロをジロジロ見ながら、ハタタカは同じ食卓についた。悪党はまた笑った。
「めんこい用心だなあ」
ハタタカは「めんこい」の意味を知らず、なんとなくバカにされてる気がした。
「今日のカンクロすごく意地悪なのだ」
「俺ぁ昔っから意地悪さあ」
夕食を食べてから、ハタタカは改めて言った。
「カンクロ、みんなに謝るのだぞ」
「やだね」
「なんで謝らないのだ?」
「謝るだけ無駄だろ。どうせ誰も許しゃしねえ」
更にギャーギャーいうと思いきや、ハタタカはいったん黙った。
「謝って…許さないこと、あるのだ…?」
「そりゃあるさ。誰でも許せねぇこたぁあるもんだ。オメェだって、もし親を殺されたら許せねえだろうが」
「……」
小さな勇者は、膝の上で手を握りしめた。
「…許してもらえないなら、どうしたらいいのだ?」
「だから謝んねっつってんだろうが」
「じゃあ…私は、お母様から許してもらえないかもしれないのだ…?」
「あ?」
ハタタカは走って出て行った。
カンクロは(4号からお叱りの言葉を山ほど浴びながら)1号から事情を聞いた。不用意に母に触れ、寝たきりにしてしまったこと。父は金こそ出すものの、会いにくることを禁じたこと。
「雷っ子にゃ、昔からよくあるこった」
「はい。ですが、ハタタカ様はご両親を愛し、苦しんでおられます。勇者の使命を全うした暁には、ご両親に改めて謝罪したいと考えておられるのです」
1号は、心もちカンクロに顔を近づけた。
「ですから、好き放題やらかした上、謝らない・謝っても許さない大人の姿は、ハタタカ様に希望を失わせる行為なのです」
古の勇者は、天井を仰ぎため息をついた。