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4.背中と帽子(終)

 ゲンゴロは、ハタタカの横を歩いていた。畑を眺め、ポツリと言う。

「…今も、苦労してるんだな」

「え?」

「この村の人たち、は」

 古の勇者は、あたりを見回した。誰もいない。

「…俺が昔、ここに来た時は、ちょうど北の民との揉め事が一段落した頃だった。ここにいたいなら北の言葉と信仰を捨てろ、と決まったらしい。中央の民の集落だ、郷に従うのは筋だろう、と。俺も、村にいる間はそうするよう、頼まれた。

 この二つは……捨てにくかったろう」

 誰もいなかったが、ゲンゴロは標準語で話した。

「…俺が捕まって……きっとこの村でも、北の民の立場はもっと、悪くなったろう。なのに、署長さんから何も言われなかったくらいで、今は違うと思いこんだ……軽率だった。とても」

 ハタタカは、ゲンゴロがさっき、祠を見てほほえんだことを思い出した。きっと、とても嬉しかったのだ。ハタタカが思うより、ずっと、すごく。

 標準語で話し続けるゲンゴロは、とても聞き取りやすいけど、ひとごとのようにも聞こえた。はじめて伝統衣装のことを話してくれた時の、全然わからないけど何かがわかる、あの感じはない。

 だから、言った。

「いま誰もいないから、いつもみたいに話していいのだ。なんだか、知らない人みたいなのだ」

 ゲンゴロは「…ありがとよ、勇者様」と薄く笑った。

 悲しそうだった。



 向こうから軽トラが走ってきたので、二人は端に寄った。

「わ」

「なしたぃ?」

「え、あ、いや」

 軽トラの窓が開いて、おじさんが顔を出した。

「おお勇者様、会えて良かった。ソータんちにいるって聞いたから」

「? 何かありましたのだ?」

「これ、さっき落としてったろ」

 ハタタカの帽子だった。

「あ、ありがとうございますのだ!」

「空まで飛ばなきゃいけないなんて、勇者様は大変だねえ」

「あ、それは」

 若き勇者は赤面し、隣の下男を少しにらんだ。

「まだ暑いから、お気をつけて」

「ありがとうございましたのだー!」

 軽トラが走り去り、ゲンゴロはまた、ハタタカの横に立ったが、若き勇者はすかさず反対側に回った。帽子を高くかかげる。

「んだよ」

「日よけになるのだ」

 さっきゲンゴロがよけた時、ハタタカは、強い西陽に驚いた。それではじめて、下男が日差しから守ってくれてた、と気がついたのだった。きっと、日中からずっと。

 ゲンゴロはしゃがんだ。ギリギリ影に入る。

「あーめんこい日よけ、助からぁ」

 からかうような口調に、ハタタカはムッとした。悔しい。

「そんな顔すんなって。そういうことぁ、体がでっかくなってからやりゃあいい」

「でも」

「なら、俺の帽子探してくれよ。きっとこの辺だと思うんだよな」

「あんな危ないこと、するからなのだ」

「しゃあねえだろ、車も馬もねえんだから……まいったなぁ、俺このままじゃ4号に大目玉くらっちまぁ」

「帽子、見つけても、汚れてたらやっぱり怒られると思うのだ」

「ええ、冗談じゃねぇや」

 ゲンゴロはイヤそうな顔をしたが、さっきみたいに悲しそうではなくなった。ハタタカは、少しホッとして、一緒に探しはじめた。


(了)

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