星みる二人
「ああ? 星が勝手に動いてやがらぁ」
「あれは飛行機なのだ」
勇者二人は、夜の空を見ていた。
ハタタカの別荘は田舎の山側にある。それでも百年前の勇者にとっては、夜は昔より明るく、星も少なく見えていた。そんな折の、動く星。
飛行機。この前、大陸の外で(調査研究用という名目で)髪を少し切られた時に、乗せられたやつ。ゲンゴロは顔をしかめた。
「アレか…神の領地に勝手しやがんなぁ」
「勝手じゃないのだ。ちゃんと進む道が決まってるのだ」
「……へえ」
夜の空は神の領地。それは、テマリの神話。
いつも世界を選び駆け巡る三叉路の神は、夜に動かぬ星に帰って休む。
住まいへの道は、神しか知らぬ。神しか行けないようになっている。だから星もその周りを巡るだけなのだ。
「人間様も偉くなったもんで…したら今ぁ、神様のお住まいにも行けちまうのかぃ」
「月には行けたのだ」
「んぁ⁈」
半分冗談で聞いたのに、まさかの返事を受けてゲンゴロは度肝を抜かれた。
「月⁈ 月にか⁈」
「そうなのだ」
「……やっぱり、一面麦の粉が」
「岩だったのだ」
「ああ⁈」
大人なのに、こんなことにいちいち驚くゲンゴロが面白くて、ハタタカはニンマリ笑った。
月は神の麦。これも神話のひとつ。
麦は少しづつ食べられ、また少しづつ麦が蓄えられていく。
「月の光は麦粉の色じゃなくて、太陽の光なのだ」
「いやまぁ…そりゃあ聞いたことあっけどよぉ…」
ゲンゴロ…カンクロの時代すでに、月に麦粉はないし月の光は太陽光を受けたもの、と言われてはいた。だが。
「そうか…あれ、食いもんじゃねぇのか…」
「違うのだ。ゲンゴロ、食べたかったのだ?」
「ああ。少しは分けろ、ってずっと思ってた」
ハタタカは笑うのをやめた。百年以上昔は、今みたいになんでも食べれる世界ではなかった。なんか悪いことをした気持ちで、足をプラプラさせる。
「おっと。いらねぇコト言っちまった」
ゲンゴロは立ち上がって伸びをした。
「昔も今も、夜は冷えら。4号にあったかいもん淹れてもらおうぜ」
「…うん」
『ゲンゴロは、やっぱり大人なのだ』
ハタタカは古の勇者の後について、建物に入って行った。
(了)