4. 助けてくれ。育ててくれ。守ってくれ。(終)
「コレで最後だ」
ミシマは電信板を操作して、新しい文書を出した。
「……?」
これまでの文書とは毛色が違った。
[今期ヲLかよ最高だな]
[神は我らを見捨てなかった!]
[ゴnしちゃう?]
[いやむしろ使命だろそれが]
[ザッkkの準備はいいか?]
……といった会話がダラダラ続いている。
ヲL? ゴn? ザッkk?
カンクロには覚えのない言葉や文字列だった。と、ミシマが電信板の横にひと回り小さな電信板を置き、ものすごい速さで文字入力をした。
【今期(勇者)】
【ヲL…少女】
【コn…誘拐】
【ザッkk…散髪】
【我々が発見した、仮想空間上の文字会話のやり取りだ。彼女には聞かせたくない】
カンクロは無感動に画面を見、一呼吸おいて、言った。
「これも綴りが違うぜ」
「どこだ?」
「ここ、と…ここと…」
古の勇者は、爪で電信板を妙なリズムで叩くと、ミシマがまた文字を打ち込んだ。
【音暗号は苦手だ】
カンクロは少し考えて聞いた。
「…さっき文書も送れるって言ったよな。ならこの板で直接書き直せねぇのか?」
「よくわかったな。できる。ただ、公文書を書き直すには許可と手続きが要る。まずメモ帳のページに打ちこんでもらおう。こちらを見てくれ」
ミシマは小さな電信板を操作した。
「下のボタンを押すと画面が変わる。四角い枠が並んでるだろう。この中の「ト」の四角を押すと、白い画面と文字盤が出る」
【不死身の少女を欲しがる者がいる。類似のやり取りを数件確認している】
「あとは画面の文字盤を打てば表示される。このように。やってみたまえ」
「画面を押すのか?…へぇ…うわ、どうなってんだ? こ、こうか?」
【触れないやつ盗めるか】
「そうだ。点や丸は左下のボタンで入力できる。区切りは白いボタンだ」
【髪さえ切れば術も使えない、反抗も出来なくなる。あとは好き放題だ】
「なるほど」
【犯人の目星は】
「覚えが早くて助かる」
【会話の信憑性も含めて不明。今まで三度不法侵入があった。関連不明。要警戒】
「そうか?…よくわかんねぇ」
【不法侵入は聞いた。文とお前の話は信用できるか】
「慣れれば私のように早く打てるようになる」
【私を信用しなくていい。対魔庁も一枚岩ではない。ハタタカにも信じるなと言ってある。ただ可能性だけ頭の隅に入れておけ。きみなら彼女を守れる。子供を生贄にしないし、我々より悪党に慣れている。期待している】
「…買い被りすぎだろ」
「もう帰るのか?」
「まだ本庁で業務がありますので。近いうちに支給品を持ってまた伺います。では」
外は暗かった。
手を振るハタタカに頭を下げ、ミシマは帰って行った。夜道に明かりがつき、大きな物が走っていった。車だとハタタカが教えた。
「カンクロ、目が赤いのだ」
「ああ…あの電信板だかいうの、面白れぇが疲れんのな」
「画面の見過ぎはよくないのだ。ご飯の後は早く寝るのだ」
「あいよ勇者様」
「カンクロも勇者だぞ」
もう違う、と答える前に、晩御飯だと4号に呼ばれた。
「……どいつも、こいつも」
助けてくれ。育ててくれ。守ってくれ。
百年前と少し違う種類の期待に戸惑いながら、ハタタカの後を追ってカンクロは食堂に向かった。
(了)