表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/78

3.「助けてもらった」(終)

「ウチの一族はカンクロに助けてもらったんですよ」



 じいさんから聞いた話だ。タンタがテルテマルテに占領されて、すぐくらいでさ。

 街は見る影もなかったらしいけど、勇者が来るってなったら、テルテのやつら急に復興にチカラ入れ出したんだってさ。見栄っ張りな国のおかげで、まず生き残った奴らに仕事が出来た。

 ひいじいさんひいばあさんも、倉庫の干し果物と酒をかき集めて、テルテの兵隊や大工たちに食べ物飲み物売って、必死に家族を養ってたんだと。


 勇者御一行、まぁビックリしてたってさ。

 当然さね、ひいじいさんたち地元民だって、あんまり大通りが綺麗になったもんでビックリしてたんだから。テルテの役人から楽しそうにしてろって言われてたから、顔作るの大変だったってさ。ハハハ!

 けど、赤ら顔の北の民が真っ白になって、ガタガタ震えてるもんだから、ひいじいさん見てらんなかったんだと。ちょうどマッテンが少し残ってたから、熱い酒に丸ごと入れてやって…昔の北東の民は、ラターリァそうやって飲んだらしいよ。

 ああそういや勇者様も、そのとき旧語でなんか言ったらしいね。北東の民は飲む時、神に祈るんだって。下男さんも北東の生まれかい?(「ああ」)あれなんて言ったんだい?(「『暗き道に陽を通らせ、光の恩恵をもたらしたまえ』ってさ」)へえ?

 ひいじいさんも旧語はサッパリだったけど「ありがとう」と「タンタ」はわかったんだと。もしかしたら、別のこと言ったのかもしれないね。

 とにかく何か言って、泣きながら飲んでたってさ。


 勇者を泣かせた飲み物、ってことで、ひいじいさんのラターリァは売れに売れた!

 おかげで一族は飢えずに済んだし、タンタ極夜祭の名物にまでなった。コレがタンタのラターリァだと思われてるくらいさ。今じゃ北東の人もマッテン刻んで入れるだろ?

 勇者カンクロは、自国民も殺してたロクデナシだけど……そんな訳で、ウチは頭が上がんないんですよ。



「そ、そうなのだ……」

 ハタタカは、そっと下男…元勇者カンクロ…を見た。無表情で、何を考えているか分からない。



「いけねぇ勇者様、そんなに震えて。寒いのかぃ」


 あの時、震える自分にラタリァを差し出した男。

「カルカナデじゃ、マッテン丸ごと入れて飲むんだろ。コレ飲んであったまりな」

 そして、小声で。

「しっかりしなせえ勇者様。そんなじゃ北国は全滅しちまぁ。アンタが真っ先に折れてどうすんだぃ」

 そして、バンバンと肩を叩きながら、大声で。

「魔物しっかり倒してってくれよ!」


 自分が情けなかった。恥ずかしかった。



 時は過ぎた。

 北部諸国は全てテルテマルテ領となり、故郷はマッテンを丸ごと入れたラタリァすら忘れた。

 だが、タンタには残っている。残してくれた。


 ゲンゴロは、マッテンの実を噛んだ。

 そして、百年以上前にタンタでラタリァを貰った時と同じ祈りを、旧語で捧げた。


【ここに来なば、浅はかな己は何も知らぬまま心を騒がせていたことでしょう。神よ、導き心より感謝します。タンタと彼の一族の行先に幸在らんことを】


 酔いも手伝い溢れる涙を押し込みながら、下男は呟いた。

「辛ぇ……」

「よーし、正直に言った!」


 震える手で、故郷の味を受け取る。暖かかった。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ