3.「助けてもらった」(終)
「ウチの一族はカンクロに助けてもらったんですよ」
※
じいさんから聞いた話だ。タンタがテルテマルテに占領されて、すぐくらいでさ。
街は見る影もなかったらしいけど、勇者が来るってなったら、テルテのやつら急に復興にチカラ入れ出したんだってさ。見栄っ張りな国のおかげで、まず生き残った奴らに仕事が出来た。
ひいじいさんひいばあさんも、倉庫の干し果物と酒をかき集めて、テルテの兵隊や大工たちに食べ物飲み物売って、必死に家族を養ってたんだと。
勇者御一行、まぁビックリしてたってさ。
当然さね、ひいじいさんたち地元民だって、あんまり大通りが綺麗になったもんでビックリしてたんだから。テルテの役人から楽しそうにしてろって言われてたから、顔作るの大変だったってさ。ハハハ!
けど、赤ら顔の北の民が真っ白になって、ガタガタ震えてるもんだから、ひいじいさん見てらんなかったんだと。ちょうどマッテンが少し残ってたから、熱い酒に丸ごと入れてやって…昔の北東の民は、ラターリァそうやって飲んだらしいよ。
ああそういや勇者様も、そのとき旧語でなんか言ったらしいね。北東の民は飲む時、神に祈るんだって。下男さんも北東の生まれかい?(「ああ」)あれなんて言ったんだい?(「『暗き道に陽を通らせ、光の恩恵をもたらしたまえ』ってさ」)へえ?
ひいじいさんも旧語はサッパリだったけど「ありがとう」と「タンタ」はわかったんだと。もしかしたら、別のこと言ったのかもしれないね。
とにかく何か言って、泣きながら飲んでたってさ。
勇者を泣かせた飲み物、ってことで、ひいじいさんのラターリァは売れに売れた!
おかげで一族は飢えずに済んだし、タンタ極夜祭の名物にまでなった。コレがタンタのラターリァだと思われてるくらいさ。今じゃ北東の人もマッテン刻んで入れるだろ?
勇者カンクロは、自国民も殺してたロクデナシだけど……そんな訳で、ウチは頭が上がんないんですよ。
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「そ、そうなのだ……」
ハタタカは、そっと下男…元勇者カンクロ…を見た。無表情で、何を考えているか分からない。
※
「いけねぇ勇者様、そんなに震えて。寒いのかぃ」
あの時、震える自分にラタリァを差し出した男。
「カルカナデじゃ、マッテン丸ごと入れて飲むんだろ。コレ飲んであったまりな」
そして、小声で。
「しっかりしなせえ勇者様。そんなじゃ北国は全滅しちまぁ。アンタが真っ先に折れてどうすんだぃ」
そして、バンバンと肩を叩きながら、大声で。
「魔物しっかり倒してってくれよ!」
自分が情けなかった。恥ずかしかった。
※
時は過ぎた。
北部諸国は全てテルテマルテ領となり、故郷はマッテンを丸ごと入れたラタリァすら忘れた。
だが、タンタには残っている。残してくれた。
ゲンゴロは、マッテンの実を噛んだ。
そして、百年以上前にタンタでラタリァを貰った時と同じ祈りを、旧語で捧げた。
【ここに来なば、浅はかな己は何も知らぬまま心を騒がせていたことでしょう。神よ、導き心より感謝します。タンタと彼の一族の行先に幸在らんことを】
酔いも手伝い溢れる涙を押し込みながら、下男は呟いた。
「辛ぇ……」
「よーし、正直に言った!」
震える手で、故郷の味を受け取る。暖かかった。
(了)