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2.前科と過去

「本当に、カンクロの、隠し金、なのだ…?」

「んなわけあるかぃ」


 ふたりは、灯台の狭い階段を登っていた。

 ハタタカが初めて灯台に来たと言うと、サザナミは上の踊り場への扉を開けてくれたのだ(鍵を使ってないように見えたが、ゲンゴロが黙ってたのでハタタカも黙ってた)。勧めた本人は暖かい食卓に残り、茶を啜っている。

「違う、のだ?」

 長い螺旋階段に、ハタタカは疲れてきた。でも下男は、主人のペースに合わせて登りながら、普通に話している。

「ただでさえ大陸中回って年がら年中スカンピンだった奴が、まとまった金なんて残せるかぃ。くだらねぇガセだ」

「ご…ご両親の、残した、お金…では、ないのだ?」

「ねぇよ」

 踊り場に着いた。ドアを開けると冷たい風が勇者をあおる。

「…そんな金ありゃ、殺し屋なんかやってねぇ」

 古の勇者の呟きは、風に吹かれて遠くに消えた。


「わ…わあ〜…」

「声震えてんぞ、ビビってんのかよ」

「び、ビビってなんか、いないのだ!」

 とは言ったが、勇者ハタタカは心底ビビっていた。高い。風も強くて飛ばされそうだし寒い。耳がちぎれないように、マントのフードをしっかりとかぶる。

 でも、景色はとても美しかった。

 賑わいを取り戻しつつある港、それに伴い人口が増えてきた町、青く冷たい色の海。

 これが、勇者カンクロが生まれた土地。

 チラリ、と横にいる本人を見る。百年ぶりに封印から解かれた勇者は柵に寄りかかり、つまらなそうに景色を見ていた。

『久しぶりの故郷は……つまらないのだ?』

 十歳の少女に、その心境ははかりかねた。


「おっ」

 ゲンゴロの視線を追うと、灯台への階段をヌルヌル登ってくる巨大なヤスデ。

「もう二戦目か。勇者様、杖は?」

「あっ、宿舎に置いてきたのだ…」

「取りに戻る暇ぁねぇな。俺のこたぁ触んねえでくれよ、よっ」

「えっ?」

 ゲンゴロはハタタカの胴体を抱えて柵に駆け上り、跳んだ。

「えっ待っひゃああああああ‼︎」

 勇者ふたりは、勢いつけてヤスデの頭に着地した。


 倒された魔物の魂が、灯台に向かって飛んでいく。

「魔物使いも来てるみてえだな」


 勇者ふたりが宿舎に入ると、暖炉の前で男がサザナミを押さえつけ何か怒鳴っていた。

「あっ勇者様たすけて!」

 男が大きなナイフを勇者達に向け、部屋いっぱいにヤスデの魔物が現れた。

「近寄んな、コイツがどうなってもいいのか!」

「ああ、好きにしな」

 ゲンゴロはスタスタ近寄り、一瞬驚いた男を雑に叩いて腕を捻り、ナイフを取り上げ床に押さえつけた。魔物はハタタカが直接触って灰にする。

「離せチクショウ!……くそ、なんで魔物がでねぇんだ! オレはただ、取り分を貰いに来ただけだ!」

「へえ…オメェ、コイツの昔の仲間か」

 こっそり離れようとしたサザナミを、ゲンゴロは器用に足で押さえた。

「コイツ、今まで盗んだ金銀宝石を山分けする前に捕まっちまいやがった。オレの分寄越せや!」

「んなもん全部没収されたわい!」

「お前がそんなヘマするか! 本当に没収されたならもっと刑期長いだろ! 寄越せ!」

 そんな言い合いの最中も、下男は主人にロープを取ってもらって男を縛っていた。ついでにサザナミの手足も縛ってニヤリとする。

「へえ…つまり、この灯台に隠してあんなぁ勇者の遺産じゃなく、オメェが盗んだカネってことかぃ」

「し…知らん、そんなもん知らんわい‼︎」

「そうかぃ、じゃ、ここの財宝は見っけたモン勝ちってこったなぁ」

 ゲンゴロはテーブルを蹴っ飛ばした。

「や、やめろ! ワシのモンだぞ!」

「ふざけんなオレのだ!」

 泥棒二人を尻目に、ゲンゴロは椅子もどけて、壁から飛び出た石を踏んだ。

 カチッ。


 床の一部が開くようになっていた。中に鞄や袋が幾つか入っている。ゲンゴロが袋を取り出して開けると、光る石と紙幣が床に散らばった。

「百年前の財宝にしちゃ、今時の金だなぁオイ」

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