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1.灯台と泥棒

「次から次と、しつけぇな!」

「えいっ!」

 若き勇者ハタタカとその下男ゲンゴロは、海崖からゾワゾワ登ってくるデカいフナムシを、片っ端から叩きのめしていた。

「勇者様、あんな不届な魔物ども雷落としてしまえ!」

「それやっとオメェも感電すっし、灯台の電気と水も止まるってよ。いいかぃ?」

「この寒空の下、老人になんと酷なことを! わしはただ、静かに余生を送りたいだけなのに」

「なら中に入ってあったまってろジジイ!」

 ゲンゴロは怒りを込めてフナムシを蹴り飛ばし、ハタタカが杖で直に雷を打ち込んで、灰にする。

 二人はいつもより少し、攻撃強めで戦っていた。


 ハタタカは依頼の場所を聞き、思わず下男を見た。

「なんで俺の方見んだよ。依頼だろ、行こうぜ」

 目的地に着いても、ゲンゴロは少しイラついた態度は取っていたが…それは組織の機密を警察に教える代わりに灯台に隠されたと噂の財宝を総取りしたい、という依頼人の元泥棒のせいかもしれない…いつも通りではあった。

『なにも思わないのだ……?』

 ハタタカは建物を見上げた。長い間雨風に晒されて、彼らが来る前に魔物に襲われた白い灯塔は、だいぶ汚れ傷ついている。

 旧カルカナデ地区東部・エールエーデ灯台。

 百年前の勇者カンクロ…いま彼女の横で、十手でフナムシをぶん殴ってる男…が、生まれた所。


 フナムシの襲撃が一旦止んだ。程なく、海軍から不審船と乗組員…フナムシの魔物使い…を捕まえたと連絡が入る。

 灯台のお宝を狙っているのは他にもいるようだが、フナムシの件は一段落だ。勇者ふたりは灯台にくっついた宿舎に入った。


 元泥棒サザナミは勇者を暖かくもてなした。

「寒かったでしょう。ささ、勇者様、お茶をどうぞ。焼き菓子も作りましたぞ。暖炉に近い席へ…コラ下男、そこぁ目下の人間が座るとこじゃねえ、どけな。しっしっ」

「なんでえ。なら勇者様こっちじゃねえか」

「こん馬鹿野郎、足元ば見ろ。少し石が出っ張っとるだろが。勇者様を危ねえとこ座らすんでねえ」

「けっ、面倒くせえ」

 下男ゲンゴロはガタガタと乱暴に椅子を出して、窓際の席に座った。サザナミは、最近の若者は礼儀を知らんとかブツブツ言いつつ、壁際の危ない席に座った。

「あたしゃ長いこと人様のもんかすめて来ましたが、刑期も終えて今度こそ、マトモなお宝を手に入れて余生をのんびり過ごせますわ。勇者様ありがとうございます」

「ど、どういたしましてなのだ…」

 ハタタカは礼儀正しく返事はしたが、今回の仕事に納得はしていなかった。宝が誰のものかもわからないのに、この人にあげていいのだろうか。

 下男は、ハタタカのように礼儀正しくはなかった。

「はん、宝ったって、どうせ別の泥棒の隠し金だろ。マトモが聞いて呆れらあ」

「これだから若造は。地元の歴史くらい勉強せえ。エールエーデ灯台といえば、あの『殺し屋勇者カンクロ』の生まれた地じゃぞ。カンクロの隠し金に決まっとろうが。勇者の遺産じゃ」

 ニヤリと笑う元泥棒を、勇者ふたりは真顔で見返した。

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