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「おそらく、これではないかと」

 師長は図書室から、古びたノートを持ってきた。包み紙に「荒唐無稽な内容」とあった。

 手記だった。

 本当の正義とは、ガラの能力とは、魔王のカケラの本当の意味とは。その中に、カケラを分け与えて「仲間を増やす」ことも書いてあった。カケラは身体深くに埋めることでバレにくくなることも。

「……」

 手記に名前はなかったが、それはカンクロが知っている文字だった。

『タタラ…』

 ハタタカが覗き込んで聞いた。

「これは、なんなのだ?」

 師長は首を横に振った。

「いつ誰が書いたものかはわかりません。記録によれば60年ほど前、導師部屋の隠し棚から出てきたそうです」

 勇者の下男は、手で左目を覆った。

「魔王の忘れ物じゃねぇのか」

「忘れ物?」

「百年以上前、タタラ……魔王が来たんだよな? 他に魔王が来たことは」

「私の知る限り、ありません。勇者様は何度もお見えになっていますが」

「じゃあタ…魔王が、忘れてったのかもな。カケラの使い方なんぞ、魔王じゃなきゃわかんねぇ」

「それが、今になって禍を招いた…と」

「俺がアンタなら、コッソリ燃やすね」


 例のノートは、結局ハタタカが受け取った。今後の魔王討伐の助けになるかもしれない、内密に対魔庁に渡して欲しい、と師長が頼んだのだ。



 ハタタカは、部屋の片付けをしている下男にコッソリ聞いた。

「これ本当に魔王のノートなのだ…?」

「ああ、アイツの字だ。筆マメな奴だった」

「そうなのか。大変なものを忘れてったのだ…」

 下男はあるじに背を向けた。

「……忘れてったんじゃ、ねぇかもな」

「え?」


 昔、ガラの外で合流した時。

 他の仲間の話だと、随分と歓待を受けたらしいのだが、タタラは不満顔だった。

『勇者を拒むことが本当に正しいのか、誰も疑問に思わない。判断を聖地の力に委ねるあまり、おのれの頭で考えることも忘れてしまったボンクラ集団だ。怠惰の罪を重ねながら聖地の番人とは聞いて呆れる。滅べばいい』

『言葉がすぎるぜ見習い導師さんよ。魔王のカケラを正しく拒んだじゃねぇか。何がそんなに不満だぃ』

 タタラは大きな丸眼鏡をクイっと上げた。

『あなたの中の正義を見ず、ガラに入れないくらいで軽率に悪と決めつけているところです』

 眼鏡越しでも衰えることのない、真っ直ぐな美しい瞳に、思わず目を逸らした。

 俺ぁ本物の悪だ、と、その場で伝えていたら、結末が変わっていただろうか。


「……アイツは神職だったが、組織に納得してなかった。ガラに不満も言っていた。いつか今回みたいなことが起きるように、ワザと置いて行った…かも、な。そんな真似ができる奴だった」

 まだ十歳のハタタカには、百年越しの悪意は途方がなさすぎてピンと来なかった。

 ただ、百年前にその魔王と戦った男が、背中を丸めて話すくらいにはしんどいことだ、とだけ理解した。

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