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 何が起きてるかはわからなくても、ゲンゴロがここまで怒るのはどんな時か、ハタタカは知っていた。北の民が「ナァーデ」と馬鹿にする呼び方をされた時だ。居酒屋の酔っ払いがそれを言った時、店はめちゃくちゃになったし、言った人も(命に別状は無かったけど)めちゃくちゃになった。

「ゲンゴロ、やめるのだ! お前は誇り高く優しい北の民なのだ!」

「だから怒ってんだろうが!」

 誇り高く優しい北の民は、準導師の襟首を乱暴に掴んで持ち上げた。

「北の民か…アギも半分北の民です」

 師長の声に、ゲンゴロの手が止まった。

「ガラで一番長く修行し、知識も多く徳も高かったのに、ただ北の民の血統だからという理由で師長に選ばれませんでした。今は私の付き人をしてくれているが、未熟者の私に、文句ひとつ言わずに長年尽くしてくれています。此度の間も……先程、アギが魔物に屈したと聞きました。ですが、誰も怪我なく収まりました。北の民には感謝しかありません」

 ゲンゴロは、先程老師が言った旧語の祈りの言葉を伝えた。

「…おお、アギ…」

 袖で顔を覆う師長を見ながら、ゲンゴロは準導師を掴んでいた手を離した。

「師長と老師に感謝しろよ。北の民の名誉を傷つけた奴ぁ、普通は良くて半殺しだからな。

 勇者様、コイツの舌だ。もう余計なこと言わねぇよう、しっかり雷落としてくれ」

「しっかり落としたら危ないのだ」

 そして、ハタタカがカケラを壊すのを見ながら、老師の魔物が発した言葉の方は忘れてやろう、とゲンゴロは思った。


「勇者様とその付き人殿よ、此度の魔物退治は本当にありがとうございました。これで古文書修練堂も平穏に戻ります」

 師長は右手を開き深く頭をつけた。

「よかったですのだ」

「今後も、ここは昔と変わらない日々を続けます。ですが…修練について我々は皆、改める必要があります」

 師長は天を仰いだ。

「長い間、楽をしすぎましたから」



 カケラを無くした準導師は一転、しどろもどろになり話ができなくなった。医師に預けたら、舌は問題ないが、さっきカンクロが踏んだ手にヒビが入ってることがわかった。

 アギ老師は眠っていた。古の北の民は、彼ともう少し話がしたかったが、起こすのはやめた。

 二人の治療をお願いして、離れを出た。


 同僚などの話によれば、入って間もなくの準導師は、内向的であまり喋らなかったらしい。だんだん喋れるようになったのは、修練堂に慣れてきたからだと思われていた。

「カケラに屈しただけでなく、人を操るとは…」

「気持ち悪い奴だと思ってたが、やはり金で来たような者はこの場にふさわしくない」

「アイツのせいで若衆の印象が悪くなる。いい迷惑だ」

 お勤めそっちのけでさざめく導師たちを眺めながら、ハタタカはゲンゴロに聞いた。

「あの人、これからどうなるのだ?」

「なるようになるだけさ。そこまで勇者様が背負い込むこたぁねぇ。……なんだよ?」

 主の視線を感じ、従者は顔を顰めた。

「ゲンゴロ、もう泣いてないか?」

「ああ…ありゃあ、カケラに縛られたら勝手に出ただけだ」

「悲しくないか?」

「悲しかねぇよ」

 袋で隠れててもわかる笑顔の勇者に、下男はため息をついた。

「勇者様にゃ、情けねぇとこ見せてばっかだなぁ。男の沽券に関わらぁ」

 ハタタカは、コケンが何かは知らなかったが、泣いてるゲンゴロを情けないと思ってもいなかったので、付け足した。

「大人も泣いていいのだ。1号が言ってたのだ、大人も悲しい時があるって。普通のことなのだ」

 百歳以上としが離れた子供のフォローに、ゲンゴロはもう一度ため息をついた。

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