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※虫が体を這ったり体内に入ったりするから注意

「!」

舌から生まれた小さなムカデが、ゲンゴロの喉に滑り込んだ。

準導師はウットリと十手を眺めた。

「うわぁ旧そう……聖十手、キレイだなぁ」

そして持ち主にそっと囁く。

「禁書に、カケラで人を操る方法が書いてあったんだ。君もこれで僕の家来だ」


ハタタカは図書室から走り出た。

「ゲンゴロ、いま少しカケラの気配が…ゲンゴロ?」

「…なんでもねぇ」

何でもなくなかった。ゲンゴロが人前で泣いている。いつもならコッソリ涙を飛ばしてしまうのに。

「なにしてたのだ?」

なぜか準導師がゲンゴロの十手を持っている。

「この素晴らしい聖十手を見せて頂いていたのです。コレがどんなに価値のあるものかをお話しましたら感極まれて…」

誰よりもその十手を持つ意味を知ってるゲンゴロが、人から価値を言われて泣いた?

ハタタカはゲンゴロを見たが、目を合わせてくれない。やっぱりおかしい。

「魔物は出なかったのだ?」

「何も出ておりません」

下男が弱々しく言った。

「図書室に戻りな、勇者様。こっちは俺が調べとくから」

「…わかったのだ。けど、なんかあったらすぐ呼ぶのだぞ。今のゲンゴロは心配なのだ」

ゲンゴロは目を閉じた。涙がもう一筋流れた。


「は、心配だってさ。子供のくせに」

下男の横腹に、十手を押しつける。

「でももう勇者の下男じゃない、僕の下男だ。あとでカケラをもう少し分けてあげるけど」

もう片手でゲンゴロに触れる。

「君は勇者なんかと別れて、これからずっと僕に仕えるんだ。どんな時も必ず僕を守って、僕をいじめる奴らもやっつけて、僕に何でもしてくれて、何されても従って、僕に永遠に身を捧げるん…」

「そろそろ面倒くせぇな」

ゲンゴロは準導師をビンタした。



「なっ…⁈」

「もう効かねぇぜ」

 湯呑みに吐き出した水の中に、ムカデが固まっていた。

「たまにゃ白湯も悪くねぇな」

「馬鹿な、確かにカケラを埋めたのに、なんで…⁈」

 確かに埋められた。祝福で開いた古傷にカケラをねじ込まれ、抵抗できなかった。魔力と言霊と後悔と慕情と罪悪感とで魂がひしゃげた。


『今のゲンゴロは心配なのだ』

 勇者の言葉と、子供に心配される情けなさが、ゲンゴロを正気に戻した。


 正気にさえ戻れば、喉に水の力を流し、カケラを取り出すくらい容易い。壊せばさすがに正体がバレるので、ムカデと共に固めた。

 説明代わりに、舌を出してやった。

「オメェにゃ教えねぇ」


「なんでだよ⁉︎」

 準導師が、叫びと共に大ムカデを吐き出した。昨晩見た奴だ。

「最初はあんなに優しく話してくれただろ⁈ なんだよお前もクソ田舎の馬鹿かよ! みんな都合悪いことは隠して、勝手に規律を歪めて僕に威張り散らしてくる! みんな旧い決まりと心中すればいい! ワー…ゴブッ⁈」

 呪いの言葉を白湯で遮り、ついでに十手も取り返した。かえす刀でムカデも殴る。

「ゴボッ、ゴホッ……許さない! 君も、あの爺さんも、北の奴らはどいつもこいつも! 朝食も覚えてられない耄碌ナァーデのくせに、僕に説教しやがっ…」


 部屋に飛び込んできたハタタカと師長は、大ムカデが輪切りにされ灰になる瞬間を見た。

 そして、怒り心頭のゲンゴロを。

 彼は、準導師がまた吐き出したムカデも瞬時に灰燼に帰し、呪いを言いかけたのをグーで殴り、伸ばした手を容赦なく踏みつけた。

「覚悟はいいな、クソ野郎」

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