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 ハタタカはキョトンとした。

 耳飾り?

 なんでそんなことを言ったのだろう。

 よくわからないまま、袋を脱いで右耳に触れる。ない。

「あ」

 そうだ。

『勇者様、その耳飾り片方渡してやんなよ。離れてても大事な仲間だって証になる』

 ガラに入る前に、片方を1号に渡したのだ。

 ハタタカの耳飾りは、ゲンゴロが襟につけてる水生石とリンクさせてあり、通信ができる。耳飾りの炎雷晶は、炎や雷の力が動力源だが、電気で動く擬人たちも使えるかもしれない。


 左の耳飾りを外し、使えなくする。

 そして、手を耐雷マントで包んで、ゲンゴロの手を持ち、襟の石を押させる。気を失ってても、水の力は身体に流れているはずだ。

「1号? 1号?」

『……ハタタカ様?』

 安堵で泣きそうになった。


 小声で、状況を説明した。

『なんと…ではゲンゴロ様は今』

「さっき『みみかざり』って言ってまた気を失ったのだ」

『お二人とも、なんと大変な目にあわれて…我々がそちらに居られないことが悔しい!』

『ハタタカ様』

 別の声が入った。擬人たち4体は独自の通信網で会話ができる。1号が耳飾りと連結させたのだ。

「3号?」

『はい。先程ハタタカ様がおっしゃっていた魔物の鳴き声の件ですが…もし予想通りなら、確かにゲンゴロ様にはおつらいことかと』

「え⁈ なぜなのだ?」

『先程伺った鳴き声、旧語でかなり近い発音の文章が作れます。ゲンゴロ様の耳元ゆえ、旧語で言うのは避けますが…。

《悪しき民よ、滅べ》と言う意味の言葉です』

「⁈」

『北の民のゲンゴロ様にとって、旧語は神の言葉。大変に重いものです。そのうえ滅べとの内容。その深刻さは、テマリ新教徒の我々より遥かに重いでしょう』


 ムカデの笑顔を思い出し、ハタタカはゾッとした。

そんなことを言って、喜んだのか。


☆☆☆


 初めて殺したのは、魔物使いになった仲間だった。


 魔王のカケラが右目を、カケラが降るドサクサで襲撃してきたテルテマルテが両親と我が家たる灯台を、それぞれ奪っていった。似たような奴らと連んで必死に生き延びた。


 その時の奇襲はカルカナデの一地区を占領して終わったが、これで終わるとは、誰も思ってなかった。

 勇者がまだ現れていない。カケラを取り除ける医者もカルカナデには少ない。暴れる魔物に自国民が犠牲になっていく。軍隊を国防に回すためにも、魔物使いになった者を早々に処分する民間人が必要だった。

 左利きの孤児だったカンクロは、その実行者のひとりに選ばれた。

 カルカナデ旧教徒の間で、左利きは「悪魔と手を繋ぎやすい」つまり悪さが得意、という迷信が信じられていた。

 生きるには、他の道がなかった。


 医者にかかる金がない人達に、楽にしてほしい、楽にしてやってほしい、と請われるようにもなった。

 敵国の兵を手にかけることも増えた。

 いつのまにか、そういう職業になっていた。


 ある日「勇者の印」が発現した。

 慟哭した。

 どうして、魔物使いたちを手にかける前に出てくれなかったのか。


 テルテマルテは、カンクロの国内行脚を特例で許した。代わりに、自国の同行者を3人押し付けてきた。

 その中の一人、神官タタラに温かい感情を抱いた。

 彼が、魔王だった。


 魔王を倒した時、もう、慟哭する涙も残ってなかった。

 機械的に、喉の魔王の種を取り出す。

 さっさと人間に戻って、全てを終わらせるつもりだった。

 が、瞬間、種が燃えて灰になった。

 以前殺した魔物使いの家族だった。

「人殺しのくせに、勇者のくせに、私の家族を殺したくせに、何も苦しまず、何も償いもせず死に逃げるのか! せめて苦しめ! 私たちの何百倍も苦しめ!」


 それもそうだな、と思った。

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