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 三人はガラ古文書修練堂教導師長・メラニの前に跪き、頭を下げた。

「ご足労感謝します。

 この聖域に魔物が出る事態に、我々だけでは解決の道筋を見いだせずにいます。十三人の同志が魔物に傷つけられました。どうか勇者様…」

「十三人?」

 勇者二人は思わず、頭も声も上げた。

「無礼者、師長様の御前で…」

「よい、コノワ。お前も頭を上げよ。何か?」

「…おそれながら」

 ハタタカは居住いを正して答えた。

「私たちは依頼を受けて、ハナオからここへ一晩かけて駆けつけましたのだ。2日でケガ人が3人と聞いてたから…一晩で急にたくさんの被害が出たのですか?」

「対魔庁に依頼の手紙を出したのは十五日前です。ここの集配は十日に一度。時間がかかったのでしょう」

「おい待て」

 ゲンゴロを咎めようとしたコノワを、師長は目で制した。

「門にゃ通信機があるはずだろ、なんで使わねぇ?」

「よくご存知で。門に電話はありますが、客人用です。我々が使うことは規律で許されていないのです」

「仲間がやられてもか」

 師長は悲しげに微笑んだ。

「だから勇者様を呼びました」


 色々聞きたいことがあったが、師長に付いていた老師が、一方的に面会の終了を申し渡した。



「腐ってら。だらしがねぇな」

 古の水使いは、水甕を覗き込んで顔を顰めた。

 それは雨漏りを受ける甕だとコノワが返した。

「絶対飲まないように」

「飲まねぇよ。俺を誰だと……」

 なぜか途中で勢いが落ちた下男を、コノワは面倒そうに見た。


 勇者二人は、準導師のための空き部屋に通されていた。

「本来ならば、現代設備が入った来客用の離れを使って頂くのですが、今そちらは傷病者のために使っています。俗世の方々には不便でしょうが」

「いえ、何かあった時に駆けつけやすくて、助かりますのだ」

「恐れ入ります。あと5分ほどで我々は祈りの時間になりますので、30分ほど部屋から出ず、お静かになさっててください。皆から話を聞くのはその後にお願いします。では後ほど」

 コノワが扉を開けると、扉の前に群がっていた準導師達が一斉に逃げていった。


「来る途中に井戸があったっけ、ちょっと水汲んでくら。勇者様は休んでな」

「でも、部屋から出るなと…」

「5分もかからねぇよ。鍵かけときな」

 古の勇者は桶や水差を手に飛び出していった。なんであんなに元気なのか。

「ふぅ」

 山を掘ってできた街は意外に涼しかったが、やっぱり袋は暑かった。

『誰もいないから、取ってもいいかな…?』

 ハタタカは人の気配に手を止めた。

 誰かが、扉の前にいる。

「どなたなのだ?」

 声をかけたが、返事がない。

 しばらく扉の前を彷徨いてから、気配は去った。


 百年前を生きていたカンクロにとって、井戸の水汲みはむしろ故郷の日常だった。素早く桶を満杯にする。

「上手ですね」

 若い準導師が感嘆し、近づいてきた。

「昔やったことあんだ」

「あなた、北の民ですね。信仰はやはり、北部新教ですか」

「ん、まぁ」

 さすがにカルカナデ旧教とは言えない。濁した。

「その腰の聖十手は北部新教のですね。でもデザインは中央新教っぽい」

「中央の坊さんに託されたのさ。コレで勇者様を守れって」

「興味深いですね、北部の武器をテマリ新教の導師から受け取るなんて。あなたの話を伺ってみたいです」

 準導師が顔を覗き込んだ。若い瞳を好奇心で輝かせている。

「勉強熱心だな」

「ええ、とても興味があります」

「時間がありゃ話すよ。じゃ」

 腰の十手にのびた手を自然にかわして、ゲンゴロは桶と水差を手に部屋へと走った。

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