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「ここより先は聖なる地。勇者さまといえど、悪しき心根はお捨てになってください」

 門番の誘導に従い、ハタタカは一歩踏み出した。

「……っ⁈」

 向かい風の中を歩くように、前に進みにくい。

 今まで怪我をさせてしまった人たちのこと、母のことが、脳裏をよぎる。

『…悪い子、だから…』

 でも。ゲンゴロの言葉もよぎる。

『魔物使いを見つけて、カケラを壊さなきゃ、もっとケガ人が出る…‼︎』

 途端、不思議と進む足が軽く感じた。


「お付きの方もどうぞ」

 ゲンゴロは、一歩進みかけ、止まった。

「……」

 古の殺し屋は動かない。だが、不敵に笑った。

「今更、だよなぁ」

「あ!」

 ゲンゴロは、今の勇者より重い足取りながら、聖域の門をくぐった。


 若い男が二人に歩み寄った。

「はじめまして。準導師コノワと申します。ここでの勇者様のお世話などさせて頂きます。

まず勇者様はこちらを」

 ハタタカに袋のようなものを渡した。

「ここは本来、女人禁制の地。堂内ではコレで顔を隠して頂きます」

 袋を頭からかぶる。目のところが開いているが、視界は悪い。

「お付きの方はこちらを。たとえ術師でも、堂内で無帽は禁じられています。術も極力使いませんよう」

「……あいよ」

 黒い頭巾をかぶる。すでに汗だくだったカンクロは、布の端で顔を拭いた。



「お付きの方、お戻りになった方がよいのでは?」

「……るせぇ、こんなん、慣れりゃ……」

 ガラ修練堂へ向かう、崖沿いの階段。

 延々と続くその道は、普通であっても厳しいものだった。

 ただでさえ視界が悪いハタタカ、ただでさえ前科者のゲンゴロは、階段に苦労していた。

「慣れ? いいえ、必要なのは悪の誘惑に勝ち、自らを悔い改めることです」

「……へっ、軽々しく聞いたクチききやがる、まだ日が浅いお坊ちゃんか?」

 コノワの顔色が変わった。

「ゲンゴロ!」

 ハタタカが注意したが、下男はニヤニヤしている。

「私を侮辱する気か!…これはガラが代々守ってきた教え、侮辱するのは許しません!」

「へへ…怒ったなぁ、図星かよ」

「これは侮辱への正当な怒りです!」

 コノワは早足で階段を降り、下男を思いきり平手打ちした。

「次に我らの教えを侮辱したら、たとえ勇者様の付き人であっても、出て行ってもらいます」

「…あいよ」

 若い準導師は「野蛮人が」と吐き捨てて、早足で階段を登っていった。

「ゲンゴロ、ケンカ売っちゃダメなのだ」

「野蛮人…野蛮人ねぇ…へへ」

 カンクロは、急に背筋を伸ばすと、階段を軽々とのぼりだした。

「えっ? どうした急に⁈」

「なるほど」

 古の殺し屋は、凄みのある笑顔を見せて振り向いた。

「ここは聖域なんかじゃねぇぜ。堂々としようや勇者様」



 山の頂の、すり鉢状に窪み凹んだ真ん中に、岩を彫って作られた建物群があった。ガラ古文書修練堂の施設と、導師たちの住居である。

 下男は階段でガクッとなった。

「さっきと段の幅が違ぇや。勇者様も足元に気ぃつけな」

「う、うむ」

 杖を使いながら、ハタタカは慎重に降りた。ゲンゴロが前を歩いてくれているのが心強かった。でも、どうしてゲンゴロは普通に動けるようになったのだろう。

『堂々とすればいいのか…?』

 若き勇者は、ちょっとだけ胸を張ってみた。足元が見えにくくて、ちょっと怖かった。


「あんだけ登ったのに、今度ぁ延々降りるのかよ」

「そうです」

 ゲンゴロのボヤきにコノワが答えた。

 さっきまで歩くことすら難儀してた男が、急にスタスタ階段を上ってきて驚きはしたが、先程の平手打ちが彼の悪を吹き飛ばしたのだろうと思い直した。ガラの人間として、この野蛮人を導いてやらねばならない。

「此度の魔物は呪いもかけると聞きます。階段程度でボヤく心持では勝てません」

「呪い?」

 魔物は、カケラと刺さった人間の暗い心から生まれるもの。呪いをかける魔物なんて、二人とも初めて聞くものだった。

「私は魔物に遭ってないので、詳しくは皆に聞いてください。なにか怪しげな術を使うらしいです」

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