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夜。
だが部屋は明るかった。
夜に明かりをつけ続けるなんて、昔は沢山の燃料や術師を買える金持ちの特権だったが、今や科学技術の発展により、こんな田舎の家まで明るくできるという。たいしたもんだ。
カンクロは部屋で一人、対魔庁の役人・ミシマ氏との会話を反芻していた。
話はこうだった。
ハタタカは幼くて怪物とうまく戦えないうえ、雷の力が強すぎて、一般民や仲間もケガをする。中古の耐雷仕様の擬人4体をつけたが、彼らは戦闘に適さない。
そこで、九十年前に王政が倒された時(古の勇者は大変に驚いた後「ざまぁみろ」と言った)にカンクロ封印の管理を引き継いでいた、テマリ新教の最高機関・慈悲庁と相談して、カンクロを『こっそり』起こして手伝わせることを許可されたという。
「こっそり……ね」
入れ知恵した輩の存在はとっくに予想していたので、カンクロは驚かなかった。
『はい。いくら髪を剃って弱体化してるといえ、テルテに恨みをもつだろう不死身の殺し屋を起こしたなど、バレたら騒ぎになります』
「……だろうな」
『ですから、ハタタカに付くときも決して正体がバレないように…』
「その前に、ひとつ聞かせろ」
古の勇者は、役人の話を荒っぽく遮った。
豆の煮汁をもう一杯もらって飲み干す。
まだ頭が回ってない。時代の変化についても行けてない。身体も鈍ってるし術の力も弱い。味方もいない。
すごぶる不利だ。だが、今のうちにハッキリさせておかなければならない。
「俺がコイツを手伝って、なんかいいことあんのか? もちろん、オメェらは何かしらの見返りを用意してるんだよな?
…それとも、もう一度俺の髪を剃るかぃ? 今度ぁ大人しくしねぇぞ」
かつて荒くれ者どもにそうしたように、カンクロはミシマ氏を睨め付けた。
隣の小さな勇者は見ないようにした。いま気にしたら負ける。
『今後の人生を保障します。生活費用と住宅……』
「んなもん今更どうすんだ‼︎ 俺の故郷を滅ぼしたなぁオメェらドッデだろうが‼︎」
食卓を叩く音とカンクロの本気の怒声に、ハタタカは震えた。
見返り。考えてなかった。
カンクロは、いつもハタタカの質問には答えてくれていた。だからお願いすれば、助けてもらえると思ってた。甘かった。
ミシマ氏は、無表情のまま眼鏡を直した。
『死ぬことができる、とすれば?』
「……なんだと?」
『あなたは魔王の『種』を燃やされて死ねなくなった。ですから、現在の魔王を倒して『種』を手に入れれば…』
「バカ野郎、んなことすりゃ今の勇者が不死身のままになっちまぁ」
『それならそれで。ハタタカの雷の力は甚大です。この娘ひとりで役所の電力が賄える。それが永遠にできるなら、こんな便利なことはない』
「なっ……⁈」
『我々としては、そちらの方が好都合…』
会話はそこで終わった。
カンクロが電話を(食卓ごと)叩き割ったからだ。