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2

 魂は、人が集まっている古風な家の前で、打ち合わせをしている青年の中に入って行った。水色の長い髪が目立つ。

「なんだありゃ。変な髪だな」

「『技師』は変な色ならカツラ被っていいのだ。あの人きっと技師なのだ」

「へえ…『技師』ね」

 生まれつき髪すなわち術力を持たない人間も、テマリ大陸には存在する。カンクロの時代は『ハゲ』と呼んでたが、現代は差別語に当たるとして禁止され、術師に対して『技師』と呼ぶ。術は使えないが、職人技や技術力に長けた人間が多いので、新しくついた名称だ。


 2号に番をお願いして、勇者ふたりは車を降りた。勇者の登場に、見物客がざわめく。

「俺の後ろにいな」

 水色の髪の男は普通の青年に見えるが、下着を欲しがり道路も壊せるほど強力な魔物を生んだ野郎でもある。ゲンゴロは用心した。

 民家の周囲には、作業をしている人達が沢山いた。その中の一人がハタタカに気がつき、水色髪の男に声をかけると、男は満面の笑みで勇者達に駆け寄った。

「わぁもう来てくれた、勇者さま、ありがとうございます‼︎ ああ思った通りの人だ!」

「?」

 青年はゲンゴロをしげしげと見、彼の顔を手ではさみ「素晴らしい!」と言って抱きついた。

「ベタベタ触んなや」

 ゲンゴロが男の頬を引っ叩いたので、ハタタカ含め周囲の人間が騒然となった。



「……うん、つまり、行き違いなんですね」

 水色髪の青年が、腫れた顔を冷やしながら言った。

「そうなのだ。私たちは貴方からの依頼は聞いてないのだ」

「そうなのですか……対魔庁の人ひどいよ、あんなにお伝えしてほしいと念押ししたのに」

「けどなんでオメェが俺なんかに用事あんだよ、だいたい誰だオメェ」

 ベタベタされて不機嫌になったゲンゴロに、青年は目を輝かせ、顔に当ててた布巾を取った。

「さっき言ったじゃないですか、僕は服飾研究家、ヤード・ミームのジュアンと申します。伝統衣装を着れる北の民を探してたら貴方を見て」

 ゲンゴロが更に怒りそうな気配を感じて、ハタタカが割って入った。

「あのジュアン様」

「ジュアンでいいですよ」

「……ジュアン…さん、お話はわかりましたのだ。でもゲンゴロはその……服に、えーっと、こだわり? があって、この服以外は絶対に着ないですのだ。だからご希望には沿えないですのだ」

 若い服飾研究家は、目に見えて落胆した。

「えー……着ないんですか?」

「着ねぇ。着れねぇ」

 ジュアンはゲンゴロの服を見た。

「でもその耐雷服、右胴と左肩に飾り、腰帯も右で結んでて、旧カルカナデ区の着こなしではないですか。全然着れますよ! 貴方が復元したタラントを着たら、抜群に映え」

 ハタタカが止める前に、ジュアンはもう一度殴られた。



「……わかりました、とても残念だし暴力に屈するようでイヤですが、貴方に着ていただくのは諦めます」

「わかってくれて嬉しいぜ」

 さらに腫れた頬を冷やしながら、ジュアンはため息をついた。まさかこんな奴とは。まともな会話ができる気がしない。ハタタカの方を向いた。

「ところで勇者様は、何故こちらに?」

「ハタタカでいいのだ。ジュアンさんに魔物の魂が戻ったから」

「えっバカな! 左手に刺さったカケラなら、病院で取り除きましたよ」

「じゃあその医者がヤブだったんだろ」

 下男が口を挟んだ。

「下着が欲しいって魔物が町中走り回ってたぜ。溜まってんのかよ」

「下品な言い方はよしてください、勇者様の前ですよ! それに僕が欲しいのは百年前の勇者カンクロの下着です!」

 勇者とその下男は、それぞれとんでもない表情になった。

「勘違いしないでください、あくまでも学術的関心の話です! 下着類は消耗品ですから、古いものはなかなか残ってません! カルカナデのものは尚更です! けど、カンクロはタラントを着て封印されています、百年前の貴重なタラントと男性下着がテンデ山に眠っているのです!」

 思い返せば、あの蜘蛛が走っていた先にはテンデ山がある。ゲンゴロは顔をしかめた。

「封印の技術は未解明なことが多く、衣服の劣化についての研究なんてありません! 百年も経った今、服が無事残っているかどうかわからないのです! もしかしたら最後の一枚かもしれない、大事な下着です! なのに対魔庁は僕の要請を何度も蹴って」

 ジュアンは唐突に、下男に肩を掴まれ地面に押し倒された。

 背後から湧き出た蜘蛛が脚をふるい、家の軒下と、庭に生えてた木を削った。ゲンゴロがどつき上げ、その隙に皆を逃し、ハタタカが雷を流す。

 そしてすごくちょっとだけ、ジュアンにも流して、背中のカケラを壊した。

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