悪魔に告げ口 1
※下着注意
※ビロウな話注意(小の方)
「2号、急ぐのだ!」
「安全、運転」
「チンタラしてっと逃げられちまうぜ?」
少し寂れた住宅街の中を、勇者たちを乗せた車が走っている。運転する擬人2号は、頑丈でパワーはあるが融通がきかない。
勇者一行は、ハタタカの別荘で久しぶりに過ごす予定で、途中の町に買い出しに寄ったところだった。買い物を1号に、別荘のメンテナンスを3号と4号に託して、彼らは魔物を追っていた。
屋根の上を、大きな蜘蛛の魔物が叫びながら爆走している。
「したぎがほしい! したぎがほしい!」
今日はいい天気だったが、住人たちは、みな慌てて家に避難し洗濯物をしまった。魔物は脇目も振らずに走っている。
勇者の車に無線が入った。
『勇者様、マイト町警察です。この先に広場がありますので、我々がそこに魔物を誘導し足止めを試みます』
後ろから警察車が猛スピードで近づいてくる。
「ありがとうございますのだ。私達も急いで行きますのだ」
「誘導と足止めね…じゃあ俺あっち行くわ」
勇者の下男ゲンゴロは、オープンカーから身を乗り出し、横を走り抜ける警察車の屋根に飛び乗った。
「えええ⁈」
遠ざかる車と下男を見送りながら、ハタタカは2号に聞いた。
「勇者の私も、ああいうこと出来なきゃダメなのだ……?」
「……出来なくても、いいと思う」
⭐︎
走る車に飛び乗り窓から入ってきた男に、平和な町の警察官3人は慄いた。運転してる最年少の警官が聞いた。
「あなたが噂の幽霊ですか? 名前の割にやる事が派手ですね……」
「噂のって何でぃ…っわ⁉︎」
子供達が道路の真ん中に立ちすくんでいたので、警察車が急停止した。
蜘蛛は屋根を降り、子供達の方に走ってくる。
「したぎがほしい!」
車から3人、走り出た。
ゲンゴロは魔物の伸ばした腕を、十手で遮った。足が硬い。弾くのがやっとだ。
ひとりの警官が、魔物に火球をぶつけた。蜘蛛が怯んだ隙に、子供を守りながら近くの家に誘導していく。
そしてもうひとりは。
「こっちだ化物!」
蜘蛛が、下着姿になった警官の方を向く。
ゲンゴロは蜘蛛がよそ見した瞬間、足を引っ掛け横っ面を十手で張り倒し、下着姿の警官と共に車に飛び乗った。
車の発車から一拍おいて、蜘蛛が足を振り下ろす。道路が陥没した。
「助かったけど二度とやんな馬鹿野郎‼︎ 」
この蜘蛛は足の力が強い。先刻も対魔軍が下着をばら撒いて足止めを図ったが、下着ごと道路を切り刻んでしまった。死傷者こそ出なかったが、道路が使えなくなったことで援軍も遅れ、勇者の車も遠回りすることになったのだ。
蜘蛛が、子供達と警官の逃げた方を向く。
「だがこのままじゃ」
下着の警官に、ゲンゴロは自分の耐雷服を脱いで渡した。
「大事な服なんだ、守ってくれや」
勇者の車が広場に着いた時、ゲンゴロは下着姿で蜘蛛に十手をふるっていた。少し離れた所から、警官達が火球を飛ばして援護している。
ハタタカは淑女なので、下男をなるべく見ないようにして蜘蛛にトドメをさした。
☆
「何のための広場の泉だよ、水出しとけってんだチクショウめ」
車内で服を着ながらゲンゴロはボヤいた。勇者の車は魔物の魂を追って、ハタタカの別荘とは逆方向の隣村まで来ている。
「いま泉なんて使わないのだ。ゲンゴロも術で水を出せばいいのだ」
「水使いはオメェら雷使いみてぇに力をそのままぶつけらんねぇの。水か水生石を通さねぇと何もできやしねぇ。無力なもんだぜ」
ハタタカは助手席から、元勇者カンクロを覗き込んだ。
「……昔はどうやって戦ってたのだ?」
「昔はもっとあっちこっちに水場があったんだよ。井戸も沢山あった。長旅だから、必ず水持ち歩いてたしな」
ゲンゴロは嫌な笑顔で若き勇者を見た。
「まぁなんもない時ゃ、血反吐でもションベンでも身体から出しゃいい」
ハタタカは嫌な顔で古の勇者を見た。
「……オシッコで戦うのだ……⁈」
「どうしょうもねぇ時ぁな。けど勇者ん時は一度やってやめた。旅の仲間がしばらく口きいてくれなくってよぉ」
「私はずっと口きいてやんないのだ!」
「はは、じゃあ今度やってやっかなぁ」
ゲンゴロの意地悪な笑顔はすぐ引っ込んだ。勇者だった頃の記憶が胸を焼く。
『……タタラの奴、あん時も怒らなかったよな……』
そしてハタタカがずっとコッチを見ていることに気がついて、魂の方見ろと叱りつけた。
 




