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トートーもメリも伸縮性のある布でできているが、出された服は少し大きかった。
「手間がかかるね」
4号が、裾や袖の長さを整えて、小さなツマミで仮止めした。
「裾上げしてあげるから一旦脱いで。ああもう、そのツマミは外さないで。2号、コレ一揃い譲ってもいいかい」
「いい」
「…すまねぇな、ありがとうよ」
言われるままに服を脱ごうとして無意識に右肩に手が行き、カンクロは狼狽えた。
カルカナデの服を脱ぐときの仕草。
着る資格もないと、こんなに強く思っていながら、どうして。
4号は、あっという間に裾や袖の長さを直してくれた。身体にピッタリする生地に不快感はなかった。着るのも楽だ。
だが。
「どうだ?」
「ああ悪かぁね…悪くない。ありがとうな。その…擬人…?だかも」
ハタタカに見つめられて、カンクロは左を向いた。そうしないと隠せないくらい戸惑っていた。
服の右胸に触れる。ボタンも飾りも合わせもない。
「これもあげるのだ」
ハタタカが小さな箱をよこした。
青い水生石のついたブローチが入っていた。
「追跡機能つきの術石なのだ。対魔庁のミシマが、カンクロにこれ付けてて欲しいって言ってたのだ」
「……追跡機能たぁ、なんでぃ?」
「え、えーと……なんか場所がわかるのだ」
主に変わって1号が説明した。
「貴方の身体が持つ微弱な術力を電波信号に変えて送り、貴方がどこにいるか、我々がすぐ調べられるようになっています」
「へぇ……要は首輪か」
仕組みはよくわからないし癪だが、敵国の悪党を見張りも付けずに放っておくわけもない。勝手につけてないのが意外ですらある。
だが何故そんな厄介な奴を起こすのか。やはり気にかかったが、まだ頭も冴え切らない。カンクロはひとまず従うことにした。
右の襟元につける。
無意識だったが、たったそれだけのことで、カンクロは目が潤むほど安心した。
⭐︎
「耐雷服作るから身体測らせて」
4号に肩やら腕やら胴回りやら、身体中を触られる。擬人4号には計測システムを持っているのだ。
「耐雷服だぁ? 俺ぁ水使いだぜ」
「あんたが何使いでも、ハタタカ様と一緒にいるなら必要だろ」
「俺も不死身なのにか」
気が利くようにと思考回路を魔改造された結果、やたらと短気になってしまった中古擬人4号は、イライラして言った。
「頭の悪い殺し屋だね、あんたの身元は隠すに決まってるだろ! 普通の人間として仕えるなら耐雷服が要るの、わかったかい!」
「……わかった」
4号たちが部屋を出て行っても、カンクロはボンヤリした顔で立っていた。ハタタカは心配になった。
「大丈夫なのだ、4号すぐ怒るけど、素敵な服を作ってくれるのだ。この服も4号に作ってもらったのだ。カワイイのだ」
カンクロはボンヤリした左目を少女に向けた。
「随分薄くて短ぇ耐雷服だな……色気付くにゃ早ぇだろガキ……」
ハタタカのシャツは長袖だし、スカートも膝下だったし、厚い耐雷布と重ね着で同年代の子よりずっと服は重い。ぶっちゃけカンクロの方が薄着だ。
なので「どこがなのだ?」と聞こうとしたが、その前にカンクロが気を失って倒れた。
カンクロを2号に寝かせてもらってから、ハタタカは1号にグチった(4号には内緒にしてもらった)。
「私の服が薄くて短いって変なこと言うのだ、カンクロの方がずっと薄いのに!」
「その通りですね。ところで」
1号はタブレットを取り出した。
「百年前の耐雷服は今よりもっと厚くて長かったのです、こんな風に」
タブレットに出した雷使いの映像は、無骨な服の上に避雷鋲だらけのフードコートを着ていて、手袋もしている。顔もよく見えない。これで動くのは大変そうだ。
自分の服を見る。
外出時にはこれに避雷鋲のついたマントを羽織る。マントは重いけど、顔も髪も出せている。手袋も、必要な時だけだ。
「百年前より薄くて短いのだ…」
ハタタカはムッとしたのを少し反省した。