オマケ(終)
通帳には、信じられない数字が並んでいる。
「何だこりゃあ」
「対魔庁があなたに払った給料です。カンクロ様の時代より高く見えるでしょうが、昔と相場が違います。ハタタカ様の2/3程度です」
夜の旅館。
ハタタカと別部屋のカンクロは、自分に『給料』があることを、擬人1号から初めて知らされた。
「……いま水割り一杯ナンボだ」
「大体500ムール前後です」
カンクロはざっくり計算した。ひと月なんとか生きられそうな金が五か月間に五回入っている。昔より払いがいい。
「しばらくは内緒にするようにと、対魔庁より命じられておりました。引かれている分は生活諸経費です」
確かに色々引かれている。だが残高もそこそこあった。必要な分しか取ってない。
「黙ってろって言われたんだろ。なんで教えた?」
「我々は貴方を信頼すると決めました」
1号は言った。
「殺し屋をか」
「この5か月間観察の結果、貴方はご自身を粗末に扱う側面こそあるものの、人を助けようとはする、というのが我々の結論です」
カンクロは苦笑した。
「貴方はハタタカ様を助けてくださる。我々もその働きに応えたい。我々なりの信頼の証です」
「…そりゃどうも」
ここ最近やけに褒められ信じられて、どうも居心地が悪い。カンクロは、くすぐったい気持ちから逃げるように聞いた。
「対魔庁が隠せ言ってたなぁアレか、テルテマルテを潰す資金にされっと面倒とか、そんなトコか?」
その場の思いつきだったが、嘘がつけない1号は黙った。どうやら当たったらしい。
カンクロは短くなった髪と現代に慣れるのに精一杯で、今は反乱どころではなかった。だが、これからも考えないとは限らない。
なのに、信頼、か。
カンクロは、通帳を1号に返した。
「すまねぇが、引き続き管理してくれや。俺ぁ金のやりくりがわからねぇ」
「……いいのですか?」
「ああ。んで、ここに金を送ってほしい」
カンクロは、先程まで見ていた新聞記事を1号に向けた。
『戦争の歴史残す新教堂、保存の声高まる』
その後。
マールン5区教堂の保存再興を目指す団体に「カルカナデ・サン・エールエーデ・マイヤート・カンクロ」氏から寄付があった、というニュースが話題となった。
それがキッカケとなり、あのカンクロがマールン5区初代教堂師長夫妻を救った意外な歴史や、中庭の小部屋の歴史的価値が広く知られ、教堂保存運動は一層の盛り上がりを見せている。
(本当にこの章終わり)