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※虫(G)注意
光。
視界にかかる白い髪。
壊れて散乱する石造物。
そして、目の前に座る少女。
「わ、私はテルテマルテ・ハロードローのハタタカ。今の勇者なのだ。
ころ……勇者カンクロ、どうか魔物退治を手伝ってほしいのだ」
「カルカナデは無事か⁈」
百年ぶりに目覚めた不死身の極悪人が聞いたのは、彼が封印されて間も無く滅んだ国の安否だった。
※※※
田舎道を走る通園バス。今日も大騒ぎだ。見守りの助手アクアは座る間もないが、子供たちは誰一人気にしない。先輩見守りも一緒に遊んでるからだ。
「窓から手を出さないで、ね、危ないから座って。ダメよ叩いちゃ。よしよし痛かったね」
「あー! 勇者様だ!」
ひとりが声を上げて、皆一斉に窓に向かう。窓から子供らが落ちないように時々引っ張りながら、アクアも外を見た。
バスの前を走る大きめのオープンカー。運転しているのは擬人だ。勇者は助手席で、真っ白いマントに長く黒い髪をなびかせている。
バスが車の横につき、喧騒に気がついたのだろう。勇者様はバスの方を向いて手を振った。
「おはようなのだー!」
齢十歳にして勇者の少女・ハタタカの元気な挨拶に、バスは一層沸きたった。
勇者様は慌てて、バスから体を出さないように呼びかけた。
と、オープンカー後部座席の荷物にかかっていた毛布がめくれ、中から人が出てきた。
髪は白いが若い男だ。右胸と左肩に留め具をつけた、古くさい田舎の服を着ている。男は左目だけをすがめてバスに怒鳴った。
「おいそこの…なんたっけ、バスか⁈」
少し遅れて勇者も叫んだ。
「バスはここで止まるのだ! 魔物が来るのだ!」
前方から超高速で飛んでくる巨大ゴキブリに向かって、オープンカーは速度を上げた。
☆
「ゴキブリ?」
「はい」
オーエイ村教堂幼年園。
戦前からある古い教堂…ここテマリ大陸の信仰たるテマリ新教の施設…だが、5歳以下の有髪児童を預かる園も併設している。
バスに乗っていた見守り二人は、通園中の出来事を師長から聞かれていた。話すのはもっぱら先輩の方で、アクアは後ろに控えている。
「そうですか…では、当園に現れた魔物とは別なのですね…勇者様は?」
「魔物を倒して、魂を追っていきました」
魔物使いの産んだ魔物は、倒すと魂が魔物使いに戻ろうとする。勇者にはその魂が見えるので、魔物使いを見つけるために追いかけるのだ。魔物使いの体内にある魔王のカケラを壊さなければ、魂がまた魔物となって溢れ出る。
「ウチに出たのはカミキリだと伝えてありますから、きっと後で来てくれるでしょう。わかりました、ありがとう…アクア、なにしてるの。子供たちを鎮めてちょうだい」
ひとり師長室を出て、教室に向かう。
朝から魔物が爆発四散するのを生で見た園児たちを鎮めるのは、なかなか難しい指令だった。
アクア自身、まだ頭がボウっとしていた。
まさに電光石火だった。
白髪の男が避雷針を打ち込み、勇者様が雷を打ち込む。瞬く間に魔物は灰と化した。灰の中を車で進みながら、男は器用に避雷針を回収までして行った。
『あれが、魔物退治…』
目の前で見たのは、初めてだった。