①
早速ブクマや評価ありがとうございます(o_ _)o))
序盤は殆ど恋愛要素がありませんが、徐々に甘くなっていくのでよろしくお願いいたします。
あれから二週間が経ち。
名を『ディア・レンダール』とした彼女は片手に地図を持って巨大な屋敷が建ち並ぶ通りを歩いていた。
ここはエストルンド国にある貴族専用の住居区域。貴族のほとんどは領地に屋敷を構えるが、国で重鎮として働く貴族もいる。そういう者たちの邸はここに建ち並んでいる。また、近辺には貴族の別邸が建ち並ぶ区域もあり、こちらは社交期以外は閑散とした場所だ。一転、社交期となると昼夜問わず社交が行われ灯りが消えることはない。
今回ディアがメイドとして働くのは名門貴族ハルハーゲン伯爵家だった。ハルハーゲン家は代々大臣や文官として国の中枢を支えており、本宅は王都にある。
(護衛対象は当主エイドール・ハルハーゲンさま、か)
年齢はディアよりも十ほど上だと聞いている。
独自のルートで護衛対象の調査をしたのだが、聞こえてきたのは『虫も殺せそうにないほど優しく穏やかな人』という評価だった。正直、どうしてディアが雇われたのかわからない。
(本当に優しくて穏やかな人なら、こんな裏組織に護衛をお願いするわけないじゃない)
それとも、表沙汰には出来ない事情があるのか……。
(まぁ、完璧に任務を達成するのが私の役目。それ以外は考えないほうがいいわね)
手に持った地図をくしゃっと握りしめた。
そして、顔を上げる。そこには大きな屋敷が建っている。白を基調とした建物は、遠くからでもその大きさに圧倒されてしまいそうだ。
ディアは呼吸を整えて、敷地の前にいる二人の門番に笑いかけた。
「あの……今日からこちらでメイドとして働くことになっているディア・レンダールと申します」
田舎娘らしく、たどたどしく礼をした。二人は顔を見合わせ、片方が敷地に入っていく。
「話は聞いています。今迎えの者が来ますので、少々お待ちください」
「わかりました」
ディアの緊張を和らげようとしているのか、門番がニコリと笑う。
「緊張しているかもしれませんが、大丈夫ですよ。うちの主人はとてもお優しいので」
「……お優しい、ですか」
この門番からなにか情報を引き出せないだろうか?
わずかに思案して、ディアは彼と話をしてみることにした。
「すみません、かなり緊張していて。落ち着くためにも、お話していただけませんか?」
眉を下げると、門番は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。なにか気になることとかありますかね?」
「では、伯爵さまのお人柄など……」
年頃の娘なら、若い男性が当主だと聞けば興味を示すはずだ。だから、なにもおかしなことではない――はず。
「そう来ましたか。エイドールさまはとても穏やかな人でね、こんな末端の使用人にも優しくしてくださるのです」
「まぁ、そんな立派な人なのですね」
「えぇ。貴族とは傲慢な人も多い中、エイドールさまは稀有な人でね。いつも笑っていらっしゃって、不機嫌なところを見たことがないほどですよ」
門番の言葉を、ディアは頭の中に記録していく。
(この様子だと、使用人に恨まれることはなさそうね)
ディアは人の感情に鋭い。彼が嘘をついているのなら、その時点でわかるはずだ。
プロの詐欺師ならともかく、一般人の嘘を見抜けないわけがない。
「なので、多少の失敗は笑って見逃してもらえますよ。あ、もちろんわざと失敗しないでくださいね」
「それくらいはわかっていますよ」
笑みを作って、門番と言葉を交わす。
それから五分ほど彼と話をしたが、彼の話した内容は事前に調べた内容とほとんど一致していた。
一致していない部分も、話が伝わるうちに多少ズレた――と考えると、自然なものだ。
(この依頼の狙いがわからないわね)
護衛というだけでもはじめての任務なのに――これはかなり訳ありの任務のようだ。
漏れそうなため息を呑み込んで、ディアは笑みを浮かべた。