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デッドキューブ  作者: 丹野海里
第1章 死因追及裁判編
2/2

第2話 文字化けしたメッセージ

—1—


 放課後、ウエイトルームで宇陀川うだがわと筋トレをしていると担任の天達あまたつ先生が気怠そうに扉を叩いて注目を集めた。


「野球部とバスケ部と新体操部だな? 下校時間だぞ。早く帰れ」


 寝癖なのか癖毛なのか渦を巻いている頭を掻きながら生徒が出ていく様子を見届ける天達先生。

 側から見れば面倒見の良い先生に映るだろう。

 だが実際は違う。

 自分が早く帰りたいから校内の見回りをして生徒を外に追い出しているのだ。

 教え子が部活で成績を残そうが負けようがまるで関心を示さない。

 去年この高校に赴任してきたのだが、なんというか掴みどころのない人だ。


叶羽とわ、部室寄るか?」


「いや、今日はポジション別の練習だったから大丈夫。帰ろうぜ」


「おう」


 昇降口で靴を履き替えて、徒歩15分圏内の最寄り駅に向かう。

 5月に入って日が出ている時間が伸びたとはいえ、19時を過ぎれば辺りは暗い。

 いじめ抜いた筋肉が夜風に当たって心地良い。


 オレの通う高校は生徒の半数以上が部活に未所属でアルバイトをしたり、遊んだり青春を謳歌している。

 元々女子校だった名残りが今でも残っていて女子が圧倒的に多い。

 毎年男子が1〜3人しか在籍しない家政科もあるしな。


 だから部活は団体競技よりも個人競技の方が結果を出している。

 頭ひとつ抜けているのが新体操部で大会では毎回誰かしらが表彰台に立っている。

 唯花も陸上の中距離で期待されている選手の1人だ。


 野球部は3学年合わせてもベンチ入りの20人に満たない。

 バスケ部も宇陀川の代が抜けたら10人を切るらしい。

 少子高齢化の影響も大きいがインターネットの発達でSNSやゲームなどの娯楽が普及したから部活に入る人が減った。

 動画投稿をしてバズれば広告収入や案件費で学生でも手軽にお金を稼げるようになったし、SNSで数字を持っているいわゆるインフルエンサーと呼ばれる存在が各学校に1人はいる時代だ。

 ショート動画を投稿する高校公式のアカウントがあるくらいだしな。


 汗水垂らしてチームメイトや対戦相手と切磋琢磨するスポーツも面白いとは思うが時代の流れには逆らえないのだろう。


「昼間の話を掘り返すわけじゃ無いけどよ、最近人が死に過ぎてないか?」


 電車に乗り込んで程なくして宇陀川が口を開いた。


「まあな、桜庭理央が死んだのも宮城だしな」


「同時多発不審死が起きたのも1週間前だろ」


「不審死の方はよく考えれば毎日どこかしらで起きてる話と言えばそれで説明がつくんだよなー。電車の人身事故とか火災とか」


「それでも1週間で13人って冷静にやばくねーか?」


「どっかのサイトで近年自殺者が増えてるって統計が出てたな」


「ったく、毎日誰かが死んだニュースばっかり目に入ってきてうんざりする」


 スマホに視線を落とす学生やサラリーマンも口にする話題は桜庭理央の集団自殺に関するニュース。

 ネット掲示板やSNSを利用して自殺志願者を募る事件が過去にもあったが、今回もそれに近い事件だと警察は見ているようだ。


 部活でSNSから離れていた数時間の間に情報が拡散され、集団自殺の現場となったのが八木山橋であることが明らかになった。

 地元の人なら知る人ぞ知る心霊スポットだ。

 自殺者が後を絶たないことから橋の両端に2メートル近い柵が建てられたのだが、今も尚自殺者は後を絶たない。


 まとめ記事を読んでいると唯花からメッセージが入った。


『唯花:ごめんね叶羽。私もうダメだ。耐えられない。叶羽には心配させたくなかったから連絡するかどうか迷ったんだけど、これだけは伝えたくて。今まで一緒にいてくれてありがとう。楽しかったよ。私がおかしくなっちゃったのは全部■■■■のせい』


「なんだこれ?」


 唯花から届いたメッセージの一部が文字化けしていて読むことができない。


「どうした?」


「いや、唯花からメッセージが来たんだけど文章がおかしくてな」


 電車が止まり、足早に改札を抜けながら唯花に電話をかける。

 いたずらではない。

 唯花はサプライズをすることはあっても相手を不安にさせるようなことはしない。


 クソ。

 呼び出し音が永遠と繰り返されるだけで唯花が電話に出る気配はない。

 駐輪場で自転車に跨り、電話をスピーカーに切り替えてカゴに投げ入れる。


「おい、どうしたんだよ。唯花に何かあったのか?」


「分からない。でもなんか嫌な予感がする」


 宇陀川に事情を説明している暇はない。

 優先すべきは唯花の安否を確認することだ。

 全力で自転車を漕ぎながら唯花の家の方向を目指していると救急車がオレ達を追い越して行った。

 その後をパトカーが追いかけて行く。


 荒くなった呼吸。

 粘り気のある唾液が口内に纏わり付く。

 頼むから無事でいてくれ。

 そう願いながらペダルを漕ぐ。


 しかし、


「怖いわねー。ベランダから飛び降りたんだって」

「まだ高校生だったんでしょ?」

「夏目さん家の唯花ちゃん、愛嬌良くて可愛かったんだけどねー」

「女優の桜庭理央も自殺したでしょ? ニュース見た?」

「うん、一緒に亡くなった6人も宮城出身の人みたいよ」


 マンションの下に集まった野次馬の声が耳に届いているはずなのに脳がうまく処理できないでいた。

 現場は先行して到着していた警察によって規制線が貼られ、ブルーシートで覆われていた。


「なんで、なんでだよ」


 自転車を倒してブルーシートの近くまで駆け寄るも警察に止められてしまった。


「君、ちょっと危ないから下がりなさい」


 警察に体を掴まれながら強引に前進するとブルーシートの隙間から泣き崩れる唯花の母親の姿が見えた。

 胸が締め付けられて頭が真っ白になる。


 唯花が死んだ?

 自殺?


 そんなはずがない。

 宇陀川の家で卵焼きを教わる約束だってしたばかりだ。


黒瀧くろたき?」


 野次馬の中に黒いフードを被ったクラスメイトがいた。

 騒ぎを聞きつけて見に来たのだろうか。

 宇陀川も黒瀧に気が付き、声を掛けようと近づく。

 が、次の瞬間、黒瀧が人混みに紛れて消えていった。

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