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デッドキューブ  作者: 丹野海里
第1章 死因追及裁判編
1/2

第1話 国民的女優の死

—1—


『女優の桜庭理央さくらばりおさんを含む男女7人が宮城県の山中で死亡しているのが見つかりました。警察は集団自殺の可能性もあるとみて調べています』


 国民的女優の死を知らせるニュースが世間を悲しみに包む。

 すぐに追悼特番が組まれ、桜庭理央が生前出演していた映画の再放送が決まった。

 SNSのトレンドも上位を独占し、承認欲求に飢えた怪物達が陰謀論だの呪いだのと力強い言葉で思いを綴り、インプレッションを稼いでいる。

 まあ、彼等が騒ぎたくなる気持ちも分からなくもない。


 1週間前に発生した同時多発不審死。

 ほぼ同時刻に複数箇所で計6人が亡くなったこの事件は連日世間を騒がせていた。

 心臓麻痺、八つ裂き、電車への飛び込み、溺死、火災、窒息。

 警察は非公表にしているがインターネットが発達した現代では情報のほとんどが筒抜けとなる。

 突撃系の動画配信者が現場を訪れて生配信を行ったり、匿名性の高いSNSを利用した内部からの情報漏洩など、次々と燃料が投下されて収拾がつかなくなっていた。


 ネガティブな情報が人々の心を蝕み、意識的にそれらの情報から目を逸らし始めていた時、誰もが知る国民的女優が亡くなった。

 それも集団自殺ときた。

 まったく物騒な世の中になったものだ。


「桜庭理央ちゃん、可愛くて演技も上手だったから好きだったのにな。まだ22歳だよ。やっぱり芸能関係のお仕事は闇が深いのかな?」


 オレのスマホを覗き見していた唯花ゆいかがガクッと肩を落とした。

 初めて唯花と映画館デートで観た作品が桜庭理央主演の恋愛映画だった。

 あれは高校1年生の時だからもう2年前になるのか。


「業界的に古い体制が残ってるんだろうな。昔のテレビはコンプラゆるゆるで過激だっただろ。その時代を生きてきた人達が管理職に就いていれば世間の常識とはズレてるわな」


 暴露系の配信者が芸能界の闇を話す動画が切り抜きで回ってきたが、大物タレントが番組の出演者に手を出す事はよくあったらしい。

 数年の時を経て被害者が告発動画を上げたり、SNSで暴露したりと毎日のように誰かしらのゴシップが出ている。

 もちろん実際にその場を見た訳でもないから真実かどうかは分からないが、そういう事が行われていたとしても不思議じゃないと思えるくらい業界の印象は悪い。


「お前ら憶測だけで有る事無い事話すなよ」


 宇陀川うだがわが廊下側の席で下品な笑い声を上げる女子グループを注意した。

 バスケ部で体格の良い宇陀川に凄まれると空気がピリッとする。


「うっさいなー。冗談じゃん、そんなマジになんなよ」


「ねえ、向こう行こう」


 居心地の悪くなった女子グループは廊下へと出て行った。


「ったく、男に捨てられたとか、裏でヤリまくってたとか女子のする話か?」


 オレと唯花の席に机を合わせた宇陀川は弁当箱を広げてウィンナーを口に放り込んだ。


「桜庭理央は演技の才能があって、人を惹きつける魅力があって、欠点らしい欠点が無かったからな。せめてプライベートの恋愛絡みで拗れてて欲しいっていう願望なんじゃないか?」


「単なる嫉妬だな」


「あ、理央ちゃんのドラマ打ち切りだって」


「主演が不在となると仕方ないだろうな」


 日曜のゴールデンタイムに放送されている新米弁護士モノのドラマで視聴率も高かったが主役がいないと何かと辻褄が合わなくなるからな。

 これで月曜日に唯花から感想を聞かされることもなくなる。

 オレもリアタイするくらい楽しみにしていただけに残念だ。


「ほら唯花、これやるから元気出せって」


 宇陀川が唯花の弁当箱の蓋に卵焼きを置いた。


「ありがと。慶ちゃんママの卵焼き甘くて美味しいよね。今度レシピ教えてもらおうかな」


「母ちゃんに言っとくわ」


 オレと唯花と宇陀川は小学生からの付き合いだ。

 1年生の時にクラスが同じで家も同じ方向だったからお互いの家を行き来してよく遊んだものだ。

 中学に上がってからはそれぞれ部活が忙しくなり遊ぶ頻度は落ちたが、学校で毎日顔を合わせていたし、テスト期間になれば集まって勉強会をしていた。

 同じ高校に進学してオレと唯花が付き合うようになってからもこうして昼休みは一緒に弁当を食べている。


「ねぇ、叶羽とわも一緒にレシピ教えてもらおう?」


「なんでオレもなんだよ。料理経験なんてほぼないぞ」


「誰だって最初は初心者だから大丈夫だよ。慶ちゃんママ優しいし」


「んじゃ、叶羽も来るって言っとくわ。日にちが決まったらまた教えてくれ」


「おい、勝手に進めるな」


 流れるようにオレの料理教室への参加が決まった。

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