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8.『型』と『技』

毎日は厳しいことに気がついてしまった...

「...!テメェ!どんな汚い手を使いやがった!?テメェみたいなチビがあのデカブツ3人を瞬殺なんて...ありえねぇだろうが!!」


と斗真はほざいているが、僕の知ったこっちゃない。


「ん、ルール改変やら何やらしてた人が言うんだーって感じ」

「...!テメェ、許さねぇ...!全員だ!全員でかかれ!!」


そう斗真が指示を出したことで、相手の残り48人が僕を取り囲み、じりじりと近づいてくる。




剣術の稽古をする上で、僕はずっと相手がいない状態で、1人で稽古をしてきた。

ただ素振りをするとか、打ち込みをするとかではなく、1人しかいないけと、相手が目の前にいることを想像して、相手の姿を、動きを、考えを...細かく考えながら行っていた。それは、実戦を想定したものであり、僕がいかなる状況においても正しい判断を下し、正しく剣を振るための練習だった。


その中には、当然多対一の状況も考えたことがある。1人で、自分を取り囲む大勢を相手取る時、1番やってはいけないことは、足を止めることだ。もしその場で全方位対応しようとなんてしたらそれで終わり、対応しきれずに負ける。だから、自身が移動することによって、同時に多方向から攻撃されることを避けることが勝利へ繋がる...そう考えた。


ただ、これはあくまで僕の想像上の戦術であり、本当に上手くいくかどうかはやってみないと分からないが。




少しずつ包囲の陣が狭まる。今はまだ我慢だ。もう少しで、奴らは必ず...


「...殺れぇ!」


バッ!


全員が一斉に飛び出す。攻撃の合図だ。

まずは、正面に飛び込む。正面からの攻撃は...確実に止めるべきは、3人か。あとは大したことなさそうだし、無視でいいだろう。


バカみたいに突っ込んでくるコイツらに対し、こちらから距離を詰めてあげれば、コイツらは反応できずそのままこちらに突っ込んでくる。だから、軽く木刀を振るだけで、向こうが当たりにくる分で相当なダメージが入るはず...ということで、実行。すると...


バキッ!


「ぐはっ...!?」


見事命中。狙いも完璧で、特に速くて重そうな3人を落とせた。

こうなると、正面組は一瞬何が起こったかわからず、混乱状態になる。それで迷いが生じた瞬間こそ...掃討のチャンスだ。

一気に木刀を振り抜く。すると、足を止めていた奴ら全員に衝撃波が当たり、吹き飛ぶ。これで正面にいた15人ほどは殲滅完了。


こうなったらあとは簡単だ。右側、左側、後ろから迫ってくる敵を、ゆっくり倒すだけだ。

それにしても...やけにトロいな、コイツら。もう既に正面にいたやつらを吹き飛ばしてから1秒以上経っているにも関わらず、なんの考えもなしに突っ込んできている。そんなにゆっくりしてるんなら──


「えいっ」


正面にいた敵がいなくなったことで、向きを180°変えて残りの敵全員を視界内に入れることができるようになった。そこからさらに2歩下がり...もう一度、木刀を振り抜き...その衝撃波で、残っていたやつらを吹き飛ばした。


「.........」


気がついたら、試合場内で立っているのは僕とシェルラとジール、そして他のやつらに指示を出していた斗真と、その仲間3人のみになっていた。


「.......?」

「え.....?」


残っている他のみんなは、何故か1歩も動かない。それどころか、口を開けたまま微動だにしない。


「ん、何してるの?戦場でそんなアホみたいな顔して」

「お前...今、何をした?何が起きたんだ?」

「いや、見ての通りだけど」

「.....」


なんだ、どうしたんだ...?また唖然とした表情に戻ってしまったのだが...


「ねぇ、もう先輩たち4人しかいないけど。かかってこないの?」

「.....!!テメェ.....!」


いつもの怒った顔に戻った。どうやらやる気を出したようで──


「審判!あいつは反則だ!失格にしろ!!」

「ん?」


何を言い出すんだ、急に...?


「見ただろ今の...!一瞬で、50人近くいたやつらを吹き飛ばしたんだ!きっと、何か変な力を使ったに違いねぇ!これはれっきとした不正だ!反則だ!」

「ん、証拠あるの?さっきから全く具体性ないけど...」

「分かりました、彼の不正を認め、失格処分とします」

「...!」


そうだった、この場所における正義は...アイツなんだった。はぁ、ほんとめんどくさい...


「ハハハッ!ざまあねぇ、ズルするからそうなるんだ!これでお前の負けで──」

「ん、じゃあ帰っていい?」

「は?」

「だって僕たち負けなんでしょ?負けたらなにかあるとか、そんなルールないし、僕たちは降参した訳でもないし...だから、帰っていいよねって」


まぁ無傷で帰れるんならそれはそれでアリかも。そう考えると、さっさと帰るのが正解な気がしてきたな。


「な、それは...」

「ほんとはおま...じゃない、先輩もボコボコにしようと思ってたけど...シェルラたちもこんなとこにはいたくないだろうし、さっさと帰ろっかなって」

「.....」

「じゃ、そういうことだから。じゃあね、先ぱ──」


と洞窟に帰ろうと背を向けた時、斗真は小さい声で呟いた。


「審判、どうやら不正は俺の見間違いだった。アイツとの試合を続行させろ」


えぇ...?なんだアイツほんとに、めんどくさいなぁ...こっちのやる気がなくなった途端に...


「分かりました、それでは試合続行です」

「テメェだけは許さん...ここでぶち殺してやる」

「んー...めんどくさいなぁ...」


そうして、第2ラウンドが始まろうとしていた。


「お前ら...アイツは、意味分かんねぇレベルの素早さが取り柄だ。攻撃力は大したことねぇが、スピードがそのまま攻撃につながってる。あと、あいつは確実に弱点...首か腹を狙ってくる。だから、そこに注意して一撃受け止めることさえできれば、あとはフルボッコだ」

「了解だぜ、リーダー」


...って考えるだろうな、向こうは。

うーん、そうだなあ...本当はまだ完成できてないからあんまり使いたくないんだけど...実は、僕は自己流の『剣術型』を編み出している。まだ『技』の種類が少ないが...何個かは、完全にマスターして実用化できるレベルまで持ってこれた。


ちなみに...『型』とは、いくつかの『技』を組み合わせて作る、戦闘におけるある種のテンプレートのようなものだ。これを完璧に戦闘の中で使いこなせるようになると、とてつもなく正確に敵を倒す最適解を取り続けることができる...と父さんから聞いた。


この世界にはいくつもの『型』と、型に使う『技』が存在しており、一般的には、めちゃくちゃ強い昔の人が作った『基本型』を覚えて使うのだが、僕の場合は違う。

まだ完成こそしてないが、自分で『技』を考えて、自分で『型』をつくる。こうして、僕自身にとって最適な戦闘スタイルを身につけたいと思っている。まぁ、まだ完成には程遠いが...。


剣術で相手を圧倒するために必要なことは、駆け引きと判断力だと僕は思っている。

圧倒的な力強さも、素早い振りも、正しい太刀筋も...相手に当てなければ、なんの意味も成さない。

相手の心を、動きを、弱みを読みきり、あらゆる状況において先に対応することが、剣術で敵を倒すことに繋がる。


そのために、僕は自分で『型』を編み出そうとしている。僕の体格や筋力は、他者より遥かに劣ってるから...『基本型』では対処できないケースが多く存在している。


ただ、あまり『型』を戦闘で使うのは避けたい。完全に全状況に対応出来るほどの多彩な技によって編み出された『型』ならまだしも、現時点では、僕はまだ3つしか技を使えないから。


ただ...僕が現時点で使える、この3つの技は、ただがむしゃらに剣を振るのとは違い、条件が整えば正確無比かつ一瞬で敵を倒せる、強力な必殺技だ。だから...決まれば、一瞬で落とせるだろう。


そして、今回の敵の作戦を予想した場合...僕の持つ技のうちの1つが、ドンピシャで使えそうなのだ。

だから、動きを見つつにはなるが、せっかくだし試してみようということで、技をハメるための戦いに持っていこうと思う。


「さぁ...覚悟しろ、クソガキが。俺たちが...テメェを殺してやる」

「ん。やれるもんならやってみてほしいな、是非」

「その余裕を...ぶっ壊してやる!うぉりゃあああああぁっ!」


うん、予想通り。

僕の強みである速さを封じるため、向こうから一気に距離を詰めてきた。


僕の打突が速さによるエネルギーを中心にしているならば、僕が最高速度に至る前に近寄り、貧弱な僕をボコボコにする...そういう作戦を取るだろう、という予想通りに動いてくれた。


しかも、適当に煽って、かつその場で立ちつくして相手を誘ったおかげで、ご丁寧に4人いっぺんに動いてくれた。これで、僕の『技』が完璧にハマりそうだ。


これはあくまで僕の美学なんだけど...やっぱりせっかく『型』として作るのなら、『技』の名前に共通点をつくって揃えた方がかっこいいと思う。だから、僕の型は『天気』に揃えようと考えている。そして、そんな僕の『型』の名前は...


「《天恵剣(てんけいのつるぎ)》...『突風』」

「...!?ぐぁっ!」


持っていた木刀を握りしめ、4人が迫り来る方向へ勢いよく突き出す。すると...突っ込んできていた4人がその場で勢いを失い...そのまま、倒れた。


『突風』は、あまり効果範囲が広くない上、威力自体も大したことがない。だが...この技は、絶対に効果範囲内では威力が落ちない振り方...もとい、突き方をしている。そのため、相手がものすごい勢いを持っている場合、衝突時の抵抗力がとんでもないことになり、かなりのダメージを与えることが出来る技だ。


さっき囲まれた時、はじめに使った、相手の勢いを利用する技の超発展版で、条件が整わないと使えない代わりに、整いさえすれば確実に相手を落とせる技。


これが...『型』を編み出すために生み出した、僕だけの『技』である。


「クソっ、テメェ、何をしやがった...!」

「ん、先輩、起きてたんだ。他の3人の後ろにいたからかな。で、どうする?まだやる?降参する?それとも...審判に、助けを求める?」

「.......」


だんまり、か。ま、僕は当初の目的通り自分の剣術がちゃんと通用することを確かめられたし、このまま帰っても何の問題もな──


「俺は認めない」

「ん?」


そう言って斗真は、何を思ったか試合場から出た──と思ったら、なんとどこから取り出したか分からない真剣を持ってきて、それを振り回しながら近づいてきた。


「お前は...お前だけは許さない!絶対殺してやる...!」


頭に血が上っている。回りが見えなくなっているみたいだな...

でも、おかげでもう1つ、技を試せそうだ。


「《天恵剣》...『通り雨』」


パァン!!


「っ!?ぐぁっ...」


カシャンッ!


「ん、さすがに真剣使うのは見過ごせない。危険すぎる」


『通り雨』は、比較的汎用性が高い技だが、範囲が狭く、敵が1人の時しか使えない技だ。

相手に近づき、すれ違う瞬間に、相手の全身を斬って、そのまま走り抜ける技...なのだが、今回は真剣を持っている手と、一応反対の手だけを打った。これで、真剣を振る力も出ないだろう。


「お前...お前は、なんでそんなに強いんだよ...ふざけんな!ここで1番強いのは俺じゃなきゃダメなんだよ!!」

「ん、何を言ってるか分からない」

「俺は...俺は!一族の汚点になんてなりたくないんだ!!」


斗真は突然、そう叫び、泣きながら話し始めた。あいつの...今までの人生の話を。

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