5.苦悩と未来
5話目です。
「え、え?」
「長官様...!?」
「ん...?」
第一声、どんな罵声を浴びせられるか...と身構えていた僕たちは、唐突な謝罪に面食らってしまっていた。
「...俺は、無力だ。監督長官なんて名だけの役職もらっといて、子どもたちを守ることすらままならないんだ。本当に、すまない...」
「...どういうこと?」
「俺は、所詮は人質だ。大和帝国の人間には逆らえない。だから...俺は、大和帝国でも位の高い庵一族の命令には逆らえない。だから...庵一族の斗真も、止めることができないんだ...!」
「...え?」
えっと...どういうことだろ?さっぱり状況が掴めない...そうなら、なんであんなこと...
「あの洞窟は、いくら斗真であれ手を出しには来ないであろう場所だ。なんせ、何の意味もないんだからな...でも、あそこは魔銀まみれで、どうやっても成果は出せない。だから、少量の食事と水を持っていくことしか叶わない...俺に出来ることは、これくらいだった...本当に、すまない」
「...つまり、アインは僕たちを守るために、あえてあそこに閉じ込めて、無視してたってことか」
「...そうだ」
そっか、だから...やっと、全部理解できた。
「だからずっと、見張ってたんだね」
「え、見張り...?」
「あの洞窟、この監視塔からも、メインの作業場からもかなりの距離がある。にも関わらず、わざわざ洞窟まで来て魔銀の使用を止めた。おかしいと思ってたんだよね。でも、これで納得。アインは、ずっと僕たちが危険な目に遭わないように見守ってたんだね」
「...お前、本当に8歳か?」
「ん。そのとおり」
「...そうか」
アインも、権力に抗えず、苦悩を抱えた人間関係だった。まるで、昔の僕の両親みたいに...
...今どうしてるかな、2人とも。あの事件の後、結局一度も2人に会うことすら叶わず、ここに連れてこられた。今頃、悲しんでるだろうな...
この世界は、あまりにも非情だ。権力が全て、権力が無い者は何の抵抗もなく踏み潰される。本当に、くだらない世界...!
ゾクッ
「「「...!」」」
「...ん?どうしたの?」
「いや、今なんか...」
「長官様、覇気を使われましたか...?」
「...俺じゃない。別のだれかが、覇気を使ったんだろう。一体誰が──」
ガタン!
「...!」
「おいおいアイン、お前こんなところで何してんだ?3人も囚人を引き連れて」
「...啓史監督官」
急に、部屋の中に知らない男が入ってきた。服装的に、ここの監督官っぽいけど...
「オイオイ、こいつら例の洞窟のヤツらじゃねぇか?まさか...贔屓ってやつか?しかも確か...斗真サマのおもちゃどもじゃねぇか!こいつぁ反乱か?庵一族に伝えなきゃなぁ?」
「そんなもの、お前の憶測に過ぎな──」
「将一様に、反逆者が4人いる、ってなぁ!」
「...!待て、こいつらは関係ない!」
「へへっ、庇ったってことはやっぱり反乱か。おい、聞いたかお前ら?」
「...ん、いっぱい来たな」
ゾロゾロゾロ...
「...!監督官が全員...!」
「おいおめぇら!こいつらを取り抑えろ!将一様んとこに連れてくぞ!」
「くっ...!」
34人もの監督官が、武装して待機している。このままでは、アインの話を聞くどころではないだろう。
コイツらはきっと、庵一族に僕たちを連れていくことで、冤罪で吊し上げて、自分たちの手柄にして...それで、位をあげる。そんな利己的欲求で動いているのだろう。
僕たちを心から心配してくれた、アインと違って...
「...ない」
「あ?なんだ、お前新入りだったなぁ?斗真サマに可愛がられてたし、お前だけは斗真サマへのプレゼントってことにしといてやっても──」
「許せない」
ゾッ
「!?こ、これは...!」
「覇気...こんな強い...!」
「かっ、は...」
バタバタッ
「...これは、さっきの覇気...!」
「シシル、覇気が使えたの...!?」
「信じられん、これは、俺より遥かに強い...!」
「...帰れ、下衆共。僕たちは今、アインの話を聞いてんだ。邪魔するなら...殺す」
「...クソ!この反逆者どもが!これ以上は容赦しな──」
「そこまで」
「!?」
「ん...?」
「あ、か...看守長!」
何の気配もなく現れたのは、白髪の杖をついた老人だった。どうやら、看守長らしい。
「荒井啓史監督官。誰が反逆者なのかね?私はずっと話を聞いていたが、そんな人物はどこにもいなかったと思うが?」
「そ、それは...!違うんです、看守長!俺は、ここの平和のために...」
「もうよい。お前はクビじゃ。二度と私の前に姿を現すな」
「そんな...!どうか、どうか考え直して──」
「そういえば、君は庵一族との癒着があったそうだね?これが世に出たら庵一族もタダでは済むまい。そして、これが世に出たら庵一族は...君を、どうするかな?」
「...!あっ、あ...」
「とっとと失せなさい。私は、君に用はない」
...その後、武装した監督官たちは全員クビになったらしい。人員が確実に不足しているが、どうするつもりなのか...
「さて...シシル、じゃったか?」
「...ん」
「お主の、目的は何じゃ?」
「...?」
「お主は、他の子どもとは違う。明確に、未来を見ているじゃろう?お主にとって、望む未来は何じゃ?」
「...僕は、弟を助けることだけが目的だった。でも、今、僕の目的は増えた。僕は...」
「この、腐った国を変える」
「...!?何だと...!?」
「シシル、一体どういう...」
「国を変えるって...!」
「そのままの意味。具体的には、国の上層部を全部消して、権力が全てのこの国の態勢を変える。それは、アインのためでもあるし...僕の両親のためでもある」
権力に負けて、僕を助けられなくて...僕のために、苦しんでくれた両親。少しでも、この国を変えることで助けになれるかもしれない。
「...そうか。立派じゃな」
「立派じゃないよ。結局僕の望みも、自分と、自分の知ってる人を助けたいっていうエゴ」
「...そうか、そうか。よく分かったよ。アイン」
「はっ!」
「お主は、今後魔銀の洞窟の監視を任せる。期間は2年。いいな?」
「はっ、仰せのままに!」
アインは、看守長に頭を下げ、そう宣言した。これで安心してこれからここで生活できる。
「シシル。お主は今後2年間、あの洞窟で働け」
「ん。それは残りの刑期って認識でいい?」
「よい。2年後、お主を解放する。いいな?」
「ん...ありがとう」
2年...長いような、短いような...
どうか...どうか、2年間は耐えててね、シルル。すぐに助けに行くから...!!
「感謝される謂れはない。キリキリ働くことじゃな。そして...シェルラ、ジール」
「「...!は、はい!」」
「お主らはどうする?」
「どう...」
「と、言いますと...?」
「お主らは、変わった。シシルのおかげでな。これからも、シシルについて行く気はあるか?」
「...!それは...」
「きっと茨の道になる。なんせ、国家転覆を目論んどるんじゃからな」
ついてくる...なんて選択、この2人は取るわけない。2人とも、頭いいから。でも...一応、釘だけ刺しとこうかな。
「...2人とも、分かってると思うけど、ついてきたらダメ。2人はここから出たら、自由に過ごさなきゃいけない。いい?」
「だそうじゃが、どうする?」
「はぁ...言うまでもないです」
「私たちは...シシルについて行きます」
僕の予想に反して、2人は淡々とそう告げた。
「...!?な...!ダメだよ、2人とも!2人は僕とは違う、優しい心を持ってる。だから、国家転覆なんてことに付き合わせる訳には...」
「...私たちからしたら、あなたがそれ言う?って感じなんだけど...」
「私たちは、あなたに救われた。希望を貰った。だから、私たちは一生ついていく。少しでも、あなたの助けになりたいから」
「ま、そういうことだから...よろしくね、シシル」
「...!2人とも...ありがとう...!」
2人とも...本当に優しいな。本当は、そんな優しい子たち巻き込みたくないけど...
そこまで言われたら、断るなんてできない。2人も、仲間として一緒に頑張るべきだ。
「じゃあ、決まりじゃな。2人とも、シシルと共に洞窟で働くとよい。2年後、出してやる」
「はい...ありがとうございます」
「さて...では喋りたいことも済んだし、私はこれで失礼──」
「待って。まだ聞きたいことが残ってる」
「なんじゃ?国家転覆の方法でも聞きたいのか?そんなものまで教える義理は──」
「自己紹介、聞いてない」
「.......」
「は?」
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