4.自己紹介
この作品は、15歳未満の方が閲覧する場合に相応しくない描写(残酷な描写)があります。15歳未満の方、残酷な描写が苦手な方はお控えください。
この物語はフィクションです。
「監督長官様...なぜここに?」
「あれだけ大きな音がしたのだ、様子を見に来るに決まっているだろう。それともなんだ、俺がこの場所を無視しているとでも言いたいのか?」
「...っ、いえ、そういう訳では...」
なんだ...?コイツ、いきなり出てきてなんでこんな偉そうなんだ?
この魔銀は僕が割ったんだから、僕の手柄。なのに...全部回収するだと?
というか、コイツ...今まで、この子たちの事情を知ってたくせに、なにも行動してなかったってことになるよな...?
「フン、まぁいい。とにかく、拾える分は全て回収し──」
「ふざけるなよ」
「ん...?なんだ、お前。俺に反抗する気か?」
「ちょ、あなた、やめ──」
「この場所の、この子たちの存在を知っていながら、なんで放置してるんだ?それでも監督長官か?」
この2人の言動を聞けば誰でもわかる。この2人も、あいつ──斗真と呼ばれていたヤツに、いじめられてここに来させられたのだろう、と。
「いじめを認識しているにも関わらず放置...いや、そもそも認識できてないのか?どちらにしろ、監督長官を名乗っておきながら随分とテキトーな管理だな」
「...お前、そういえば昨日ここに来たばかりだったな。いいだろう、俺に逆らうとどうなるか、教えてやろう」
「危な──」
ズァッ
「...ぐっ...!」
「...くっ、息が...!」
「フン、どうだ?これが...俺の覇気だ」
「...?」
監督長官が全身に力を入れた途端、2人の様子がおかしくなった。
「...2人に何をした?」
「2人に...?誰と誰のことか知らんが、そんなすずしい顔をしていられるのも今のうちだ。何せ、俺の覇気を浴びているのだからな...!」
「...?さっきからずっと何をしているんだ?というか、ハキってなんだ?」
「は?」
途端に、長官が力を抜く。すると、2人の様子ももとに戻った。
「お前、覇気を知らないのか...?お前の体にかかっていた重圧だ」
「...そんなのなかったんだけど」
「.....」
「「「は?」」」
「う、嘘をつくな!そんな訳ないだろう!痩せ我慢もいい加減にしろ!」
そんなこと言われても、ほんとに心当たりがないんだけど...
「そうだよ、えっと、君も感じてたでしょ?息が詰まるような重圧が...」
「ううん、感じなかった。2人が苦しんでること以外、何も」
「...どういうこと...?」
「...100万年だ」
「?」
「100万年に1人の確率で、覇気に対して耐性を持った人間が生まれると言われている」
「...も、もしかして、君は...」
「覇気耐性を持っている人間...!?」
「ん...?」
みんなの困惑ぶりを見るに、恐らくまぁまぁすごいことなのだろう。まぁ、僕にはその凄さがさっぱり分からないけど。
「...こうしてはいられない。とにかく、魔銀は全て回収する!いいな!!」
「ん...ちゃんと僕の手柄にしてくれるんならいいよ」
「...いいだろう。お前の手柄として、記録しておく」
そう言って、長官は僕が割った魔銀を携えて洞窟を出ていった。
「...君、すごいね。魔銀を割るほどの魔力に加え、覇気耐性なんて...」
「うん、未だに信じられない...」
「ん...そうなんだ。ところで、自己紹介したいんだけど。名前分からないの不便だから」
「...呑気すぎない?結構すごいんだけど、アンタの能力...」
「へー」
「へーって!」
僕には理解できないし、露ほども興味ないからね。
「まぁまぁ、この子の言うことも一理あるから...ね?だから、私から自己紹介するよ」
まずは赤髪の少女、次に金髪の少女、そして僕の順で自己紹介することになった。
「はじめまして。私はシェルラ、14歳。アルテマラから来た」
「アルテマラ...ってどこだっけ」
「アンタ...知識量少な過ぎない?」
「地理嫌い...」
曰く、アルテマラとは、オドにおける4大国のうちの1つで、アルテマラ魔導王国というらしい。それから4大国は他に龍の国ラザリオ、エデン共和国、そして、僕の故郷であり、ここ魔天銀山の存在する、大和帝国がある、とのことだった。
「ん...多分覚えた」
「頼むわよ...」
「...紹介に戻るね。私は、アルテマラで起きた、王族殺人事件の容疑をかけられて、ここにいる。でも...」
そこまで言って、彼女はぽろぽろと泣き出した。
「私じゃない。やったのは、私じゃないの。本当に、やってないのに...みんなに疑われて、信じてくれなくて。拷問に近い尋問を受けて、抵抗する気力も失せて、ここに来て...それで、斗真にいじめられて、ここに連れてこられて、誰も助けてくれなくて...もう、限界で...!」
「そっか...僕と、同じだ」
きっと...いや、絶対に、とてもじゃないけど耐えられる苦しみじゃなかったんだろうな。僕にもよく分かる。その、想像を絶する苦しみが...
「辛かったね。本当に...今まで、よく、頑張ったね」
そう言って手を握ると、彼女はより一層泣き出した。
「うっ、うぅっ...!ありがとう、ありがとう...!慰めてくれて、手を握ってくれて...私に、希望をくれて...!」
「ん...そこまで感謝されることしてないけど。でも、喜んでくれてなにより」
そんな感じで、しばらくシェルラは泣いていた。
「...さて、次は私の番ね。一応だけど...シェルラはそのままでいいの?」
「ん...僕はいいよ」
「同じく」
シェルラは、今なお半泣きで僕の腕にしがみついている。まぁ、話を聞く分には問題ないので、このままでいいだろう。
「そう...ならいいけど。んじゃ、改めて...私はジール。14歳、シェルラと同い年よ。出身はエデン共和国。はエデン共和国の戦争に駆り出されてて、後方での回復役として連れていかれてたんだけど...その際、敵方に負けて、人質として連れていかれた。んで、私は脱走のためにそこで2人を殺した。結果脱走はできたけど、外で警官に捕まって、ここに送られたってわけ」
「...ジールも、とても大変な人生だね」
幼い頃から戦争に参加させられて、敵国の人質に取られるなんて...本当に怖かったろうに、平然と話すなんて...ジールは、すごく強いんだろうな。
「ま、シェルラに比べれば大したことないわ。戦争に出る以上、これくらい覚悟してたし」
「...でも、辛かったでしょ?」
「そんな事ない。覚悟さえ出来てれば、辛くなんて...って、なんで私の手まで握ってるのよ」
シェルラと同じように、ジールの手も優しく握る。
「一応、握っとこうかなって。それにこうすると、相手の気持ちがよく分かるんだ」
「そんな必要は...え、あれ?なんで、私、泣いて...」
ポロポロと、ジールの瞳から涙がこぼれる。
まぁ、かなり酷い境遇を、ずっとひとりで抱えてきたんだろうから...当然の反応だと思う。
「やっぱり辛かったんでしょ?辛くない人間は、あんな虚ろな目はしないから分かってた」
「嘘、嘘...止まらない...なんで...?」
「...今まで必死に隠してきたんだから、今くらい泣いたらいいと思う」
「うっ、うっ...こんなの、私じゃない...」
「違う。それが、紛れもない君だよ」
その後、ジールも僕の手を握ったまま、しばらくは泣きじゃくっていた。
「じゃ、あとは僕だね。ところで...2人は、このままでいいのかな」
「うん、このままで」
「なんだか、あなたに触れてると...心が温かくなる」
「そ、そう...?ならいいけど...」
今の短時間で、随分と懐かれてしまった。2人とも年上なのに、なんだか妹みたいで可愛い。
「じゃ、改めて...僕はシシル、8歳」
「は、8歳!?」
「6つも年下なの!?こんな貫禄あるのに!?いやまぁちっちゃくて可愛いなとは思ったけど...!」
む...今の発言は、ちょっと失礼だな。
「ん...ちっちゃいは余計。まぁいいけど。で、僕は外で友達と遊んでたら、急に黒い服の男が複数現れて、みんなを殺した。で、その場にいた弟は多分そいつらに連れていかれた。気がついたら審問官って人のとこにいて、殺人の容疑を全部被せられて、ここに連れてこられた」
「...ほんとに、私とほとんど一緒なのね。でも...」
「...なんで、そんなに落ち着いてられるの?私もシェルラも...あなたより6つも上なのに、その苦しみに耐えられなかったのに...」
なんで...なんで、かぁ...難しい質問が来ちゃったな...
「...年齢は関係ないと思う。大人でも、2人の境遇だったら、耐えられない。寧ろ、位の高い大人がそんな目に遭ったら、2人よりも早く全部投げ出す」
「それはシシルも同じだと思うんだけど...」
となると...やっぱりあれかなぁ...
「僕は...2つ理由があると思う。ひとつは、僕は弟を助けなきゃいけないから、こんなとこで立ち止まってる暇はないってこと。もうひとつは...正直、この程度ならもう慣れてるから...」
「え?」
「あ、いや...こんなこと言ったらシェルラに失礼だった、ごめん」
「いや、それはいいんだけど...この程度、って?あなたまだ8歳よね?」
「ん」
「そんな人生知り尽くしてるみたいな顔できる8歳、他にいないと思うんだけど...」
「ん...まぁ、確かに」
「何があったの?シジルの身に...」
「...ん、じゃあ話すけど...楽しいもんじゃないよ」
その後、僕の今までの人生について話した。主に...魔瘴にかかっていたことについて。
「...本当に、辛かったわね」
「よく...本当によく、生き延びれたね」
「ん...そうだね」
「ていうか、そっか...それで、魔力が高いんだ」
「覇気耐性もその影響なのかも...?」
「ん、それは知らない...けど、普通の子よりは元気」
「そ、そう...ま、とりあえずこれでお互いのこと、ある程度は知れたわね」
お互いのことを知るには、やっぱり自己紹介が1番早いね。
あ、でも...1人、この場にはいないやつのことを聞きたいんだった。
「ん、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたの?シシル」
「2人とも、あの斗真ってやつにここに連れてこさせられたんだよね。あいつはなんなの?」
「あぁ、アイツは...庵一族なのよ」
「ん....なにそれ...?」
「アンタ、ほんとに大和の人間なの...?まぁいいわ。庵一族は、この国における皇帝──庵将一を筆頭とする、権力者の血筋よ。なんでも、とんでもない武勇を誇る一族で、強さを追い求めるうちに皇帝の座まで登りつめたんだとか...ま、今の皇帝も、あの斗真の野郎も、ただの権力に溺れたバカだけどね」
「ん...なるほど、だからあんな偉そうなんだ」
「そういうこと。ま、気をつけた方がいいわよ?庵一族...特に、皇帝に目をつけられたら何されるか分かんないから」
と、そんな会話をしていると...
ゴーン、ゴーン
「あ、鐘...今日は終わりか」
「私たち、今日何もしてないわね...」
「まぁ、たまにはいいんじゃない?」
「そうだ、2人とも、これいる?」
ポケットに隠していたあるものを取りだし、2人に見せる。よろこんでくれるといいんだけど...
「うん?何か...って、魔銀!?」
「ん。さっきちょっとだけとった」
「アンタ、ほんとに...まぁでも、これを使えば私たちも魔銀を掘れるくらいの魔力が手に入るわ...」
「そうだね...よし、使おう」
「でも、ほんとに使っていいの?なんか危険だったりしないの?」
「...ええ、何もないわ」
一瞬の沈黙の後、そう答えた。
「じゃあ安心だね。がんばるものじゃないと思うけどがんばって──」
「ダメだ!使うな!」
「!!」
大きな声が響き渡る。今の声は...
「あっ、あ...」
「ん...また来たの、監督長官」
やっぱり、コイツか。また邪魔しに来るとは...何が目的なんだ?
「お前たち、さっき全て渡せと...!何故持っている!」
「それは──」
「僕が盗った」
「...全く、なぜお前はそうも逆らう...?その行動の危険性が分からないのか!?」
「危険性?」
それはさっき、シェルラが安全だって...
「...魔銀を取り込むと、確かに魔力が増大する。だが、増大した魔力は、個人の保持容量を超え...死に至る場合だってあるんだ!」
「...え?」
「それをお前は...!なぜ知ってて使おうとしたんだ、シェルラ、ジール!」
「え...?2人とも、知ってたの...?」
「.....」
そっか、僕にそのことを伝えたら、止められると思って...わざと嘘をついたんだ。自分たちが、強くなるために...
「はぁ、だから全て回収したのに...おい、シシルだったか?」
「...ん」
「お前、今日は一晩かけてきっちり叱ってやる。お前に覇気は効かないからな」
これに関しては、僕が100%悪い。甘んじて受け入れるしかないね。
「ん...分かった。ごめんなさい」
「待って、長官様!シシルは副作用を知らなかった!ほんとに善意で、私たちにくれたの!だから、悪いのは私たちで...」
「だからお願いします、シシルじゃなくて、叱るなら私たちを...」
「ん、その必要はない」
知らなかったとはいえ、2人を危険に晒したのは僕。だから、怒られるのは僕だけでいい。
「...お前たち、変わったな」
「え...?」
「そうだな...お前ら全員、俺についてきてくれ」
「ん...」
そう言って、長官に連れられ、僕たちは久しぶりに洞窟を出た。
外に出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。洞窟の中にいると、時間感覚が全く掴めないんだよね...
「...ここは、俺の部屋だ」
そのまま僕たちは、監督長官に連れられて、管理棟の3階にある、長官の部屋に来た。
「...結局、3人まとめて説教か」
「えへへ...」
2人は、かなり緊張しているようだった。手と足が震え、顔は引きつっている。
「...殺されはしないから、大丈夫。多分」
そう言って2人の手を握ると、安心したかのように震えが収まっていた。僕の手って、意外と凄いのかも?
「さて...まずはお前たちに、言わなければならないことがある」
「その前に、いい?」
「...?なんだ?」
「ん。自己紹介してほしい」
「「「...は?」」」
「ちょ、シシル!何言ってんのよ!」
「アンタあの人が誰かも知らないの?」
と小さな声で話しかけてきた。
「監督長官、以外のことは知らないから。あ、名前はチラッと聞いた気もするけど、その程度だし。一応聞いとこうかな、って」
「...分かった。じゃあ、自己紹介から始めるとしよう」
「「...!」」
ということで、監督長官様の自己紹介タイムが始まった。
「俺は、魔天銀山監督長官、アイン。今年で34になる。出身はエデン、大和帝国との戦争で人質になり、ここで働かされている。こんなもんでいいか?」
「ん、オッケー」
サッパリした説明だったけど、分かりやすかったからまぁいっか。
「...じゃあ、本題に入ろうか」
2人はごくり、と唾をのむ。怒られる覚悟を決めたようだ。しかし、その後アインから発せられた言葉は...
「...今まで、本当にすまなかった」
「「...え?」」
怒り...ではなく、謝罪の言葉だった。
4話目でした!