3.鉱山監獄『魔天銀山』
この作品は、15歳未満の方が閲覧する場合に相応しくない描写(残酷な描写)があります。15歳未満の方、残酷な描写が苦手な方はお控えください。
この物語はフィクションです。
「...ここは...」
審問官からの暴行を交えた5時間の拷問の後、僕は「矯正施設」に送られることになった。傷まみれ、血まみれの状態で送られた場所は、学校のような場所──ではなく、奴隷の強制労働施設に近い場所だった。
『魔天銀山』と呼ばれるその鉱山は、罪を犯した子供たちを集め、閉じ込め、採掘を強いる...という、まさしく地獄のような場所だった。
「お前はここで働くことになる」
「ん...いつまで?」
「さぁ?俺は知らんが...まぁ、働きぶりによっては5年くらいで出れるんじゃないか?ま、お前の罪ならば一生ここに居させられてもおかしくないがな。では、私はこんな汚らわしい場所からはとっとと帰らせてもらおう」
そう言って、審問官は僕を置いて、馬車で来た道を戻って行った。
その後、この施設で監督官を務める男によって、施設の説明をされた。この施設では、働きによって食事や寝床、あまつさえ減刑までもが決定されるという。働けば働くほど食事が増え、広めの部屋で寝ることができ、早くにここを出られる。逆に、働かなければ食事はナシ、寝床は外、懲役期間も伸びる。正に結果主義の社会の縮図と言えるだろう、と説明を受けた。
「お前はこの区間をやれ。やり方やら道具やらは現場に行けば分かるだろう」
そう言われて向かった先には、僕以外にも多くの子供たちが作業をしていた。どうやらこの場所は、最も重い罪──即ち「殺人」を犯した子供たちが集められているらしい。雰囲気は殺伐としていて、足を踏み入れた瞬間にものすごい殺気を感じた。
「道具は...これか。作業のやり方は──」
「おい、お前、新入りか?」
僕が作業を始めようと準備していると、数人の少年たちが僕に近づき、声をかけてきた。
「ん、そうだけど。何か用──」
「おいおい、新入りのくせに、先輩に対して敬語も使えねぇのか、あぁ?」
「...?」
何の話だろうか...?先輩も何も、初対面なのだが...
「...おい、お前俺のことナメてんだろ?俺は9つの時に村一つ壊滅させてここに来た、ここのリーダーだ。お前みたいなガキとは出来が違ぇんだよ。それなのになんだ、その生意気な態度は?あぁ?」
「ん...君の事情はどうでもいいんだけど、僕に作業のやり方教えてくれない?先輩なんでしょ?」
「...は?」
ガンッ!
「ん...いたた」
急に殴ってきたぞ、こいつ。情緒どうなってるんだ...?
「テメェ、黙って聞いてりゃ調子乗りやがってよォ...!ちょうどいい、テメェのそのボコボコの顔面がひしゃげるまで殴ってやる...!」
ドカッ、バキッ、ベシャッ
その後も、元々審問官に殴られて腫れていた顔を何回も殴られた。まぁ、正直そんなに痛くないから別にいいんだけど...
「へへっ、兄貴キレさせる馬鹿がいるなんてな...」
「ありゃ死んだな、あいつ...」
「クククッ...なんだ?生意気なこと言ってた割に反撃もなしかよ?それでも殺人者か?あぁ?」
ドカッ、ドカッ、ドカッ!
こいつ...よく飽きもせずこんなに何回も殴れるな。僕はそろそろ飽きてきたんだけど...
「カカカッ!オラオラ、さっさと謝れや、クソガキが!殺されたくなきゃなぁ!」
「...ん、いい加減飽きた」
パシッ!
「...っ!?」
「なっ、兄貴の拳を...」
「素手で止めやがった...!」
「僕はこんなことしてる場合じゃない。早くここから出なきゃいけない。だから、作業の仕方を教えてほしい」
「...なっ...こいつ、いい加減にしやが──」
また拳を振り上げる。いい加減にしてほしいんだけど──
「そこまでだ!」
ガシッ!
急に現れた大男が、振り上げた腕を掴む。誰だ...?
「なっ!?お、お前...」
「斗真、お前には警告したはずだが?これ以上問題を起こすようなら──」
「監督長官のアインが、指導する、とな」
「ち、違うんだ、今のは...」
「黙れ。お前はこれから俺が指導してやる。覚悟しておけ」
「...!クソッ!」
よく分からないが、どうやら終わったらしい。
それにしても...このアインって人、すごい体つきだな。人目で強いとわかる。この人さっき監督長官と言っていたし、この人なら作業のやり方を教えてくれるかもしれない。
「あの、監督長か──」
ゴーン、ゴーン
「...?鐘...?」
「ふむ、今日の作業は終わりか。全員、成果を管理棟に報告するように」
「え、僕まだ作業出来てないのに...」
とりあえず、他の人たちについていって、管理棟という場所に行くことにした。もしかしたら、何かしらの対応が──
「成果なしなら、あなたは食事も布団もナシです。」
.....
ようやくここがどんな場所か分かった。ここは...
自分の力で、生き抜かなければならない...戦場だ。
「ん...」
結局、飲まず食わずでその日を終え、ボコボコの体の僕は、その辺の地面で寝ることとなった。当然だが、寝て起きても尚、顔の腫れや全身の傷は欠片も治っていなかった。
「さて、今日こそ作業を──」
「おい、テメェ。こっち来いや」
...またあいつか。
「...ん、なんの用?先輩」
「ハン、今日は殴りゃしねぇよ。ただ...先輩として、後輩に仕事を教えてやろうと思って、な?」
先輩に連れられ、鉱山の洞窟の奥までやってきた。
奥に行く最中、入口付近はたくさんいた作業者が、奥へ行けば行くほど人が減っていった。そして、洞窟の奥深くまでいくと...かなり広い場所に出た。
「ここだ。お前の作業場所は、今日からはここだ」
「...ここ?」
そこは、広いにも関わらず作業者が2人しかいなかった。そして、その空間の壁一面には...キラキラと輝く、美しい鉱石が至るところに確認できた。
「ここ、鉱石いっぱい」
「そうだ。ここはサービスゾーンだ。なんせ、無限と言えるほどの鉱石が採れるんだからな」
「ん...ありがと、先輩」
「んじゃ、俺はお前のことを管理棟で登録してきてやるよ」
「ん、意外と親切だね、先輩」
「あぁ、ちなみにだか...登録すると、刑期が終わるか鉱石を採るまでここからは出れねぇ。最低限の食事と水は届くが...布団や着替え、風呂は入れねぇ。あとついでに教えといてやるが...ここにある鉱石のほとんどは、魔銀だ」
「ん...?えと、魔銀だと何か違うの?」
「ま、あとはアイツらに聞けや。んじゃ、せいぜい頑張れよ、後輩?」
そう言って、先輩はこの空間を離れた。途端──
ギギギギッ...バタン!
ここに来る時に通った道が、重そうな扉で閉められた。
「ん...開かない。」
押しても引いてもビクともしない扉を見て、ようやく察した。恐らく、ハメられたのだろう、と。
まぁ食料と水分はもらえるらしいので、昨日よりはマシだろう。
とりあえず仕事をしなければ何も始まらないので、ここで作業している2人に話を聞くことにした。
「...あの、僕ここに来たばかりで、作業の仕方分からないから教えてほしいんだけど──」
「「...」」
カンッ、カンッ
そこで作業をしていたのは、2人の少女だった。ボロボロで汚れた服と、やつれて隈の浮き出た顔を見るに、かなり長い間この空間にいるのが分かる。2人とも瞳から光が失われており、どこか無気力だった。
1人は、赤髪の少女。ブルーとスカーレットのオッドアイで、かなり小柄な体格の上に、やせ細っているせいでとても弱々しく感じられた。
もう1人は、薄い金髪の少女。グレーの瞳をしており、赤髪の少女に比べて身長が高い分、とてもすらりとした身体だという印象を受けた。
2人とも、自分の体より大きなツルハシを必死に持ち上げては振り下ろしているが、壁には傷1つ付いていない。もうほとんど気力も残ってないようで、ツルハシを振る姿はまるでからくり人形のようだった。
とりあえず、僕も見様見真似でやってみようと、ツルハシを手に取る。と、
「重...」
見た目通りの重量感。振るのにはかなり苦労しそうだ、と感じた。だが、持てない訳では無い。輝く壁に向かって力強くツルハシを振りかぶり、振り下ろそう──とした時、声が聞こえた。
「やめた方がいいよ」
「...!」
見ると、2人の少女がこちらに近づいてきていた。
「...あなたも、斗真に嵌められたようね」
「ここではどれだけ努力しても無駄。魔銀は...魔力を大量に込めないと割れないから」
「...?なんで?」
「ほんとに、何も知らないのね...」
「魔銀は、通常の銀行が魔力を吸収してできたもの。通常だと、硬すぎてどうやっても割れない。でも...」
「そこに大量の魔力を注ぐと、魔力が飽和する。そうして弱くなったタイミングで、衝撃を加えることによって、やっと割れる」
あぁ...だから、斗真はここに閉じ込めたんだ。僕が鉱石を採れず、一生苦しみながら生きさせるために...
「ん...理解した。ありがとう」
そう言って、一度振りかぶったツルハシを戻す。
「...その傷、斗真だけじゃない。ずいぶん酷い目にあったのね」
「見せて...治してあげる」
そう言って金髪の少女が手をかざすと、手から緑色の光が放たれる。そして...
「...治った。すごい」
「治癒魔法よ。私には、これくらいしか出来ないけど」
「魔法が使えるから、魔力も扱えるんじゃないの?」
「言ったでしょ、大量の魔力が必要って。私の分じゃ、足りないの」
「魔力は、大人になればなるほど増えるから...子どもの魔力じゃ、割れない」
「ん...なるほど。教えてくれてありがとう」
「...気にしなくていいよ。私たちは、仲間だから」
「うん、そうね。私たちは仲間...ここで、共に死ぬ仲間だから」
2人は、虚ろな目でそう話した。
きっとこの2人は、この酷い環境で長時間戦った末、疲れきってしまった。そうして、諦めてしまったのだろう。まるで、昔の僕のように。
「...でも、僕は安心した」
「...?何が?」
「2人が、話してくれて。てっきり、話すことさえ許されてないのかと思ったから」
僕は、ここで立ち止まる訳には行かない。早くここから出て、シルルを助けに行かないといけないから。
「だから...そこを、退け」
ありったけの力を込めて、ツルハシを振りかぶる。そして...
「ふっ...!」
振り下ろす。
ドカァァァァン!
「えっ....?」
「嘘...!魔銀が...!」
「「壊れた...!?」」
「ん、予想通り」
「なんで...魔銀を破壊できるのは、大魔術師クラスの魔力が必要のはず。なのに、なんで...」
「ん...、まぁ、体質かな」
実際は、僕の魔力量が異常なまでに多い──訳ではなく、僕の魔力の性質の影響だろう。
僕は、魔瘴に冒されてきた。それは即ち、全身が魔王の魔力で満たされていたということ。
だから、多分──僕の持つ魔力は、とてつもなく高純度な魔力になっていたんだと思う。
それだけじゃない。全身を魔王の魔力が巡回していた為か、僕は魔力をとても精密に、全身に流すことが出来た。おかげで、自身の身体能力を、実際よりもかなり高い水準まで引き上げることが出来ていたのである。
これらの要素により、僕は魔銀を破壊できた──のだと思う。本当かは知らないけど。
「魔銀の擁する魔力を摂取すれば、一気に魔力量が増える。これで、私たちも魔銀を割れる──」
「それは許されない」
「...あ、あなたは」
突如現れたのは、昨日見た男──
「監視長官様...!」
「その魔銀は...全量、我々に渡してもらおう。逆らうのならば...私が指導してやる」
3話目でした!