27.恥
展開に悩みに悩み、かなり日が空きました。すみません。
「全員、下がれ!!」
ドカァァァァァァン!!!
僕が叫ぶと同時に、味方は一斉に後退する。そして、僕たちがもといたはずの場所を、巨大な爆発が襲う。
「!?なんだ今の!?」
「あれは...当たったら、一発でアウトだな...」
「死ぬ気で避けるしかない、か...」
原理は分からないが、今の爆撃は相当な破壊力があることは、一目で分かった。絶対に当たるわけには行かない。
「フフフフ、どうです?ワタクシの本気に恐れ入りましたか?」
「...ん、当たらなければ問題ない。だから、恐るるに足らないね」
「そんな口を叩けるのも...今のうちですよ!!」
ユディトは、足に魔力を集中させる。来るぞ...!
ダンッ!
「...速い!」
ガギィン!
「くっ...!」
「どうです?先程までとは次元の違う圧倒的な力...今度こそ、恐れをなしたのではないですか?」
「ん...そっちこそ、本気出した割に全然受け止められるけど、ほんとに大丈夫?」
「ハハハハハハッ!この期に及んでそんなことをぬかすとは!滑稽の極みですねぇ!!」
「...っ!」
ダッ!
「チッ...」
口では大言を吐きつつ、内心はかなり焦っていた。思ったよりも、ユディトが強かったからである。
さっきまでは、蜘蛛の足が重いからか、ユディト自身はそこまで速く移動できなかった。しかし、邪魔な蜘蛛の足が無くなった今...ユディトのスピードは、僕よりも速くなっていた。
その上、さっきの爆発も使えるし、パワーも相当強い。正直、勝てるビジョンが見えなかった。
「ワタクシの暴力に呑み込まれ...ここで朽ち果てるがいい!!」
「ん、絶対負けない...!!」
ユディトが再び突っ込んでくる。僕も、それを受け止めるために構える。
「死ね!!」
「ん、《天恵剣》──『霖』!」
ガガガガガガガガガッ!
迫り来るユディトの高速の拳の雨に対し、僕も『型』を使って対抗する。
『霖』は、最小限の体力消費で、長時間剣を振り続ける『型』。かなり高速で振り続けられるため、大量の拳の雨に対して、無駄な体力消費をすることなく、全て対応することが出来る上、隙を見て反撃することも可能だ。
そう思ってこの『型』を選んだのだが...そのせいで、僕たちは完全に千日手に陥ってしまった。
僕の剣でユディトの拳を受け流し、僕の斬撃をユディトの拳で受け流す。お互い一進一退の攻防が始まった。
「ん...どうするの?これ」
「ワタクシのセリフですが?早く諦めて喰らったらどうです?」
「ん、お前が諦めるべき」
お互い、完全に手詰まりになってしまった。下手に動いて集中力が切れたら、相手の攻撃を喰らってしまう。かといって、このままでは一向に決着が着かない。
僕の『霖』は、まだ体力的にはかなり余裕があり、しばらくはこのまま戦いが続いても体力切れが起こることはない。だから、このまま体力勝負に持ち込んでも勝てる見込みはある。だが...
そんなことするまでもなく、この勝負は僕の方が有利だ。
「斗真、今!」
「おう──『ハイゲイル』!」
「...!!」
だって、僕とユディトの1対1で互角なら、仲間がいる僕の方が有利に決まってるから。
斗真の魔法で若干姿勢が崩れたところを、全員で狙い撃つ。
「傑、才蔵さん!」
「あぁ!《一般剣術型》──『鈍』!」
「《一般剣術型》──『迅』!」
傑の重い斬撃で体制を崩し、才蔵さんの高速斬撃で、防御の隙すら与えず、ユディトの腕を切りつける。
「チッ、鬱陶しい──」
「ん、よそ見とは、余裕だね」
「...!!」
ビュッ!ガギギギギン!!
『霖』によって体力消費を抑えつつ、若干たじろいでいたユディトを追撃する。
僕の放った大量の斬撃で、ユディトの全身を切り裂く。少しずつ、ダメージが蓄積されてきた。
「小癪な──フンッ!」
ビュオッ!!
「速い──けど、そろそろ目が慣れてきた」
ユディトが、再び高速で腕を振り回すが、この速度にも流石に慣れてきた。しっかり動きを予測し、最小限の動きで回避する。
「ガキが偉そうに...!喰らえ!!」
「...!全員、下がれ!」
魔力の高まりを感じる。これは、最初の爆撃──
「ハハハッ!引っかかったな、バカめ!」
「...!?」
爆撃を警戒して飛び退いた僕に向かって、ユディトが高速で突っ込んできた。これは...
「《天恵剣》──『突風』!」
「!?なにっ!?」
ドスッ!!
「ガハッ!」
「ん...そう来ると思ったよ」
やっぱり、爆撃はフェイクか。
飛び退いて無防備になった僕を殴り倒そうとしたみたいだけど...僕も、そうくるだろうと読んでた。だから、『突風』で合わせて、ユディトの突っ込んでくる勢いを利用し...その腹部を貫いた。
そして...腹に刺さった剣で、ユディトの動きを封じる。今が最大のチャンス...!
「...クソっ、抜けない...!!」
「全員、総攻撃!!」
「「「おう!!!」」」
「俺の渾身の一撃を喰らえぇっ!!」
「《一般剣術型》──『鈍』!!」
「《一般剣術型》──『制』!!」
ズガガガガガガッ!
「ガハッ!!」
斗真の全力の斬撃と、傑の重い斬撃、そして才蔵さんの、大量の斬撃を受け、ユディトは全身から出血する。
僕も、ユディトの体に突き刺さっていた剣を抜き、『技』を撃つ。
「ん、これで止め。《天恵剣》──『豪雨』!」
ゴオオオオオッ!
「ぐああああっ!!」
大量の手数と火力を同時に出せる『豪雨』で、ユディトを全身ズタボロになるまで切り裂いた。
これで...僕たちの勝利だ。
「ん、残念だったね。僕たちの方が上だったみたいで──」
ドッ
「...?」
「が、っは...」
ドサッ
「...え?」
今、何が起きた...?
さっきまで、全身を切り裂かれ、血まみれで僕の目の前に倒れていたはずのユディトが、なぜか突然姿を消し...
斗真の腹を、後ろから素手で貫いた。
「...斗真?」
腹を貫かれた斗真は、血を吐いてその場に倒れこんでいる。
...なんで?今、僕たちは確実にコイツを殺したはず。なのに、なんで...
「おや...夢でも見ていたかのような表情ですね?」
「...今、何をした?」
「何を...と言われましても、狩りやすそうな駒をひとつ削っただけですよ?」
「...なんで、お前...無傷で...」
ユディトの体には、傷1つついていなかった。さっきあれだけ切り裂いたのに...なんで...?
「何を言っているのか分かりませんが...ワタクシは、はじめから斬られてなどいませんよ?」
「...は?」
いや、そんなわけないだろ?だって、あんなに何度も斬撃を加えたのに...そんな、そんなはず...
「...まさか...幻夢魔法...?」
「ふっ、くくくくくっ....まさか、今更気づいたのですか?お馬鹿さん?」
「...!!クソッ...!」
なんで今まで忘れてた...!?
そうだ、コイツには幻夢魔法がある。実際に目に映るものと現実が異なる可能性だってあるんだ。
ユディトの見た目が変わった直後と、その後の斬り合いとでは、明らかにユディトの実力が低くなっていた。それなのに...なぜ、僕は気づかなかった...?
いや、今はそれより...
「『ディストーション』...!」
ユディトの目の前で倒れている斗真を、回収するのが先──
「...え?」
なんで...なんで、空間魔法が発動されないんだ?
僕は今、確かに斗真と僕の後ろの空間を縮小して、斗真を空間ごと移動させたはず。それなのに...なんで、斗真はまだユディトの前にいるんだ?
「あぁ、言い忘れていましたが...私の周りは高密度の魔力が漂っているので、アナタごときの魔法は、全てかき消されることになりますよ?」
「な...!!」
「さぁ、どうするんですか?私の目の前で倒れているお仲間さん...早く手当しないと、死にますよ?」
「...」
今、斗真を助けに行けば...死ぬ。確実に、殺される。
でも...助けなかったら、斗真が死ぬ。
「シシル、ダメだ。今行ったら殺される」
「そうです、機を見て助けに行くべきです。私たちも着いておりますゆえ、焦る必要は...」
傑も才蔵さんも、今は動くべきじゃないって主張か。まぁ、そりゃそうだと僕も思う。
でも...
「ごめん、傑、才蔵さん」
足に全力で魔力を込める。僕の出せる...最大速度を引き出すために。
「...!?まさか!?」
「やめ──」
ドンッ!!
「《天恵剣》──『稲光』...!」
ズバッ!
全速力で突っ込み、斗真を回収する。ついでに、目の前にいるユディトの右手を稲光で斬る。
あとは、戻るだけ...!!
「なっ、このガキ...!!」
「...っ!!《天恵剣》──『稲光』!」
ドンッ!!ズジャッ!!
「ガハッ!!」
「クソ、仕留め損ねた...!おのれ、クソガキが...!!」
「っ!シシル!!」
クソ...!離脱は成功したけど、左手を斬られた...!
なんて威力...とても手刀とは思えない。下手したら、真剣より斬れ味がいい...!!
「...っ!斗真!!」
「...シ、シル...」
まずい、出血が多すぎる...!内蔵も貫かれてるし、もう長くは持たないかもしれない...!!
「クソ、どうしたら...!!」
本当は、今すぐこの場を離れて自陣に戻りたい。でも...今ここでコイツを放置したら、今度こそ別の戦場の邪魔をされる。さっきまでと違って、今は身軽な状態だから...
「...ル」
ここに治療できる人はいない。だから、このままじゃ斗真を助けられない...!
「...シル!」
いっそユディトを放置して、このまま自陣に帰るか?今のコイツを瞬殺する自信は、さすがに...
「シシル!何してるんだ!?避けろ!!」
「...え?」
ズシャッ
「...かはっ」
「シシル!!」
胸を、強烈な痛みが襲う。下を見ると...真っ赤な手が、僕の心臓を貫いていた。
「まさか...これほどまでに呆気ないとは思いませんでした」
「...え、あ...」
まさか...今、刺されたのか?僕が呆けてる間に、近づかれて...
「そ、んな...はず...」
「ハァ、まさかこの程度のガキに手こずっていたとは...ワタクシとしたことが...」
ビュッ
「ゲホッ!」
「シシル...っ!!」
ユディトが、貫通させていた手を引き抜く。吐血し、胸から大量に血が溢れ出す。さっきまで、貫通していた手で支えられていた体が、倒れる。
...あぁ、死ぬ。
「まぁいいでしょう。嬉しい誤算、というやつでしょうか?あとは...雑魚処理だけですね」
「...!!クソッ...」
あーあ...こんな所で終わるんだ、僕。
短かったなぁ...結局、なにも出来なかった。
誰の目的も果たせず...弟も救えずに...このまま、死ぬんだ。
「...行くぞ、才蔵。最期の戦いだ。せめて、最期まで...恥は晒さずに、死のうぜ」
「...は。どこまでも、お供致します」
あの2人...まさか、まだ諦めてないのか?
無茶が過ぎる。あの2人で勝つなんて、とても...不可能だ。
でも...かっこいいなぁ。こんなしょうもない死に方した僕とは、大違いだ。
恥...か。僕は、このまま死んだらとんだ恥さらしだな。
「...まだ、死ねない」
僕は...恥さらしでなんて、終わりたくない。斗真にも、シェルラにも、ジールにも、アインにも...シルルにも、父さんにも、母さんにも。こんなんじゃ、顔向けできない。それに...
きっとみんなも、僕とは違う場所で、命を懸けて戦ってる。なのに...僕だけ、こんな所で死ねるわけない。
「...まだやれる。まだ...立てる」
全身の魔力を足に込めれば...立てる。
「...っ!よし、立てた...!!」
「...?...!?なっ、アナタ、なぜまだ...」
「シシル!?お前、なんでその傷で立って...」
「まだ...負ける訳にはいかない。僕は...まだ、戦える!!」
勝ち目は薄い...というか、無い。
僕の寿命は、たぶん持って5分、ってとこかな。もう目の前に、シが迫ってきてるのが分かる。
でも...なんでだろ?こんな傷で、死にかけてて、立ってるのもやっとなはずなのに...
なぜか、体の調子がいい気がする。
「...僕が、お前を殺す。お前を殺して...死ぬのは、それから」
「...!ハハハハハハッ!そんな怪我でよくそんな口を叩けるものだ!」
「傑、才蔵さん。僕たちでコイツを殺そう」
「あぁだがお前のその傷は...」
「僕はもう助からない。でも...斗真は、まだ助かる」
斗真は、まだ息をしていた。意識はなかったが...まだ、僕よりは持ち堪えられる。だから...
「これが終わったら、斗真だけ連れて自陣に戻って。そして、すぐ治療して」
「なっ...!!ダメだ、お前も...」
「僕は...ここで、コイツと一緒に死ぬ。だから、気にしないで」
これが...最も合理的な判断。僕は諦めてもらうべきだ。
「とにかく、今はコイツを殺さなくちゃならない。できるよね?」
「...!!ハハッ、無駄な質問だな...あぁ、もちろんだとも!!」
「私も...全力を尽くしましょう!!」
ユディトに...剣を向ける。3人揃って。
「さぁ...覚悟して。お前だけは、ここで確実に殺すから」
「できるものなら...やってみなさい!!」
次はもうちょっと早く投稿できるよう頑張ります。