2.理不尽
この作品は、15歳未満の方が閲覧する場合に相応しくない描写(残酷な描写)があります。15歳未満の方、残酷な描写が苦手な方はお控えください。
この物語はフィクションです。
「シシル!パース!」
「ん...えいっ」
スカッ
「おいシシル!何してんだお前!」
「ご、ごめん、キック苦手で...」
「全く...ほら、ボール来てるぞ!」
「え、あっあっ」
僕は今、待ち望んだ小学校に通っている。
魔瘴が治って早2ヶ月、小さな村の学校なだけあり、人数がそこまで多くないので、既にクラスにもとけ込めている。
...最初の頃は少し大変だった。僕は長年魔瘴に晒されていたせいで、体の至る所に異変が起きていた。
そのうちのひとつが、髪と目の色。元々は黒目黒髪だったのだが、いつの間にか色素が抜け落ち、瞳は白みがかった半透明、髪は灰色へ変化していた。
一応今は、髪はちゃんと短く切って整えたが...最近は症状が重くなっていて髪を切る余裕すらなかったため、かなり伸びていた。久しぶりに立ってみたら髪が床につくまで伸びていた時は、本当に衝撃だった。
まぁそんな感じで、周りと明らかに違う僕は、変な目で見られ、クラスで孤立したりしていたのだが...
「兄ちゃん!一緒に遊ぼ!」
「兄ちゃ〜ん、何してんの〜」
「兄ちゃん、勉強分かる?俺が教えてあげる!」
学校でも人気者なシルルが一緒にいてくれたおかげで...少しずつ僕にも友達ができ、そのまま順調にみんなと仲良くなることができた。本当に、最高の弟だ。
今は体育でサッカーの授業。シルルは文武両道で何でも出来るから、僕ももしかして...なんて期待していたが、実際は...
「シシル、ここの問題違うぞ」
「シシル、お前ボール見失ってるじゃねぇか!」
「...おまえ、教室そこじゃないぞ?」
まぁ、なんて言うか、その...散々だった。
勉強を始めたタイミングがみんなより遅いため、かなり遅れている。特に、歴史や地理に関してはからっきしだった。
スポーツ系も、全然できない。というか...やり方がわからない。ルールも、コツも、なにも分からないため、ほぼできない。
あと、教室の場所が全く覚わらない。なんで無駄に複数教室を用意しているのか、理解に苦しんだ。
とは言え、待ち望んでいた小学校ライフ。こんな感じだが、日々楽しく過ごせている。
「ただいま〜!」
「おかえり、シシル」
「今日はどうだった?」
「ん、えっと、今日はね〜...」
父さんと母さんも、魔瘴が治ってから心なしか元気になってくれた。僕にとって、それが何よりも嬉しかった。
「はぁ、はぁ...っただいまぁ〜...」
「おかえり、シルル」
「ん、今日も競走は僕の勝ちみたいだね」
「ぐぬぬぅ〜、勝てない...」
ポンコツな僕にも、才能があった。それは、足が速いこと。
毎日学校から家までシルルと競争しているのだが、今のところ負けたことがない。校内でも誰よりも足が速い。それが、僕の長所。
長所は他にもある。
この世界には、魔王の魔力の影響で世界各地に魔物が生息している。だから、自衛手段として学校で戦闘訓練をするのだが...
「勝負あり!」
「ん、ありがとうございました」
「くっ、強い...!」
何故か、僕は剣術が異様に強かった。
昔から剣士である父さんの話を聞いていたからだろうか?今のところ校内で負けなしの最強の剣士として、先輩後輩関係なく色んな人から一目置かれるようになっていた。
そんなこんなで平和な日常を謳歌できていた。この日々が、当たり前になってきていた。
その日、事件は起こった。
「やぁっ!」
カンッ、カンッ、ドカッ!
「わっ!」
「強いなぁ、シシル。これで5連勝じゃん」
「ん、それほどでも」
僕は、友達と公園で木刀で練習試合をしていた。友達に剣を教えてほしい、と頼まれたからである。
頼ってもらえることが、とても嬉しかった。だから、シルルや他の友達も一緒に、剣を教えていた。
ザッ、ザッ
「...?誰?」
「どうしたの?兄ちゃん」
こちらに来る足音が聞こえた。聞き覚えのない、力強い足音──
「!?兄ちゃん、これ...!」
「...っ!みんな、伏せ──」
「あ、う...」
気づいた時には手遅れだった。足音の方から殺気を感じ、咄嗟に伏せた僕は、目に入る光景に唖然としていた。
そこにいた友人が、生えていた木々が、置いてあった遊具が...全部、一刀両断されていた。
信じられない。
「な、にが...?」
...!そうだ、こんなことしてる場合じゃない!
「シルル、シルル!大丈夫?返事して、シルル!」
シルルも、殺気に気づいていた。だからきっと、シルルも無事で──
「...生存者を確認。どういたしますか?」
「!!」
黒い服を纏った複数人の男たちが、こちらを見ている。恐らく、こいつらが、さっきの殺気の主。だとすると──
(殺される...!)
そう思い、逃げようとする。しかし...1人の男に取り押さえられてしまった。
「...スケープゴートですか?なるほど、分かりました」
何を言っているか分からない。何が目的かも、誰かも、何も分からない。
怖い...!
...そうだ、まだ確認しなければならない事が...
「...シルルは?シルルはどうしたの!?」
「シルル...?あぁ、このガキか」
男の1人が、気を失っていると思しきシルルを抱えていた。
「シルル...!クソっ、シルルを返せ!」
「うるせぇガキだな...いや」
「うるせぇ...殺人鬼だなぁ?」
「...は?」
ドカッ
「ん...ここは...?」
「ようやく目覚めたか、容疑者」
「...!?」
気がつくと、檻の中にいた。正面には...警官らしき人がいた。
「これより、容疑者への尋問を開始する」
「は...容疑者...?」
誰が?まさか...僕が?でも、一体なんの──
「何故、友人を5人も殺した?」
...?
.....
.....!
そう、そうか。今、全てを理解した。
僕は...アイツらに、利用されたんだ。
アイツらの罪を擦り付ける、スケープゴートとして...!
でも、気づいたとて何も出来ない。僕の発言は欠片も信じてはもらえないし、弁解したところで...失われた命は戻らない。
それに...シルルの居場所も、分からない。
...なんで、こんなことになったの?
僕が何かした?確かに、出来ることが増えて、ちょっと調子に乗ってたかもしれない。でも、今までずっと、苦しみながら生き抜いてきたのに...なんでこんな理不尽な目に遭わなきゃいけないの?
...許せない。
この世界が、くだらない世界が、理不尽にまみれた世界が。
みんなを殺して、シルルを連れていったアイツらが...許せない。
絶対、僕がシルルを見つけ出して、連れ帰ってみせる。それまで僕は...どんな目にあおうと生き延びてみせる。
今まで、そうだったように。
それから、僕は尋問(寧ろ拷問に近い)を5時間近く受けた。何度も事情を説明したが聞く耳を持たない審問官を見て、「嘘をつくな」と殴ってくる審問官を見て、全てが無駄だと悟る。しばらく黙っていたら、その場で判決が下された。
「お前は矯正施設へ送る」
僕はその後すぐに、車に押し込まれて矯正施設とやらに連れて行かれた。
審問官曰く、僕のように罪を犯した子供が集められ、教育される場所だと説明された。だから、学校のような場所だと思っていた。
だか...その認識は、生ぬるいものだった。
僕が目にした光景は──
2話目でした!