19.水端
今回から水端・窪原編突入です!
「なんか...久々だな、木に囲まれてない場所...」
「ん、明るい」
「風も涼しいね!」
「見晴らしもいいな」
「周りに何もないだけで、こんなに視野って広く感じるのね...」
僕たちは、久しぶりの森以外の場所に、感動すら覚えていた。
「これからどうする?」
「ん、進む」
「いや、そりゃ分かってるわよ。そうじゃなくて...」
「どこへ行くかってことだな?」
「そうだな...今大体どの辺にいるかすら分かんねぇからな...」
森を出た先に広がっていたのは、草原だった。少し離れたところにちょっとした丘があり、右には大きな山が見える。左は草原がかなり遠くまで続いているのが見えた。
「ん、とりあえずあの丘行ってみる?」
「そうだな...なんか見えるかもしれねぇし」
ということで、一旦丘を登ることにした。
「ん、じゃあみんな動かないでね」
「あ?何するつもり──」
「『ディストーション』」
僕は、僕とみんなの周りの空間、そして今いる地点から丘のてっぺんまでの空間を圧縮して、一瞬で移動させた。
「ん、到着」
「...!?は!?」
「な、シシル!?アンタ今何したの!?」
「瞬間移動...!?」
「シシル、もう『ディストーション』完全に使いこなしてるね」
「ん、まぁね」
「てかそんなこと出来るんなら森もすぐ出れたんじゃ...」
「ん、森は複雑すぎるから無理。前見えないし」
「...なぁ、あれって町だよな?」
アインにそう言われ、丘の下を見る。すると、どうやらこの丘は崖だったようで、かなり下の方には海が広がっていた。そして、その上には、確かに町が浮かんでいた。
大きな塀に囲まれており、円形の町は人工的に造られたことがよく分かる。
町には、船が出入りするのが見えた。どういう仕組みかは分からないが、町中に水が流れているようだった。町中を船が移動している様子は、とてもフシギだった。
「う、海の上に町...!?」
「ん、海初めて見た。きれい」
「あ、そうなんだ。よかったね、シシル」
「ん」
「というか、めちゃくちゃ高いわね、ここ...完全に崖じゃない」
各々が感想を述べる中、斗真はどうやらこの場所に心当たりがあるようだった。
「ここ...多分、水端だな」
「...ん、あの町のこと?」
「あぁ、そうだ。俺が監獄にいる間に国内の情勢が変わってなけりゃ、大体その場所がどこか分かるぜ」
「へぇ、やるじゃない。さすが大和人ね」
「ま、俺は次期庵一族当主だからな。それくらいは知ってるよ」
「次期当主...」
「ん、シェルラどうしたの?」
「あっ!ううん、なんでもないよ!」
「ん、そっか。さて...」
この先どうするか...
あの町に降りるのは1つの手だ。国内情勢に関する情報があるかもしれないし、野生動物の肉ばかり食べてきたから、そろそろ飽きてきた。
ただ...仮にあの町に庵一族関連の人がいたりしたらまずい。前の忍の県があるから、僕たちが指名手配されてる可能性もある。だから、見つかる訳にはいかない。
そうなら、山登りはしたくないし、草原を進むことになるだろう。草原は食料調達が難しいし、どこまで続いてるかも分からないから、最悪飢え死にまでありえるが...
「...斗真」
「ん?なんだ?」
「あの町...水端は、どんなとこなの?」
「あそこは...非皇帝管理下都市の1つだ」
「ん、なんて...?」
「非皇帝管理下都市、だ。簡単に言や、皇帝──つまり、俺のクソ親父がまだ統治出来てない場所で...独立してる町なんだ」
「ん...そうなんだ」
「非皇帝管理下都市は、こことこの近くにある窪原、あとは萩崎ってとこだけだからな...他はもうすでに、クソ親父の管理下になってんだ。だから...この3つ以外に長居すんのはあんまよくねぇな」
「なるほど...」
「ま、これ聞いたの6年前だし、非皇帝管理下都市に関しては、どこも詳しいことはあんまり分かってない。ただ、かなりデカイ都市なのと...海産物が有名なのは知ってるぜ」
「魚...!!」
これはいいことを聞いた。さすが斗真。
「ま、別に行く必要はねぇだろうな。俺の情報は6年も前のもんだ。もしかしたらもう京の手に落ちてるかもしれねぇし、リスク取ってまで行く必要は──」
「決めた。あの町に行く。そして、魚を食べる!」
「は?おいちょ、待っ──」
「いいんじゃない?私、お風呂入りたいし」
「オレも一度、装備の整備を行いたいと思っていたところだ」
「私は、シシルが行きたいところに行く」
「ん、じゃあ決まり」
「おい、話を──」
僕は町を見下ろし、入口らしき場所を発見する。そして、そこへ目がけて『ディストーション』の空間圧縮の道筋をつくり──再び、一瞬で移動した。
町の入口は、大きな門があり、守衛らしき人がいた。そして、その門から、町へ海水が流れ込んでいた。
それに乗って、多くの船が町へ入っていく。その際、検問のようなものも行われていた。
「オイオイオイ何してんだお前...!!」
「おっきい門...!」
「海水が町に...」
「なるほど、これで船が通っていたんだな」
「というか...これ、陸路からじゃ侵入できない仕組みになってるのね」
「そうだよ、この町は海路でしか入れねぇんだよ!だからまだ攻め落とせてないんだ!!」
「え、じゃあ私たち入れないんじゃ...」
「そうだよ!だからとっとと引き返すぞ!」
うーん、そうだったのか...そうなると、入るのは難しいか...
『ディストーション』を使えば侵入できるけど、バレたらまずいし...
でも...魚を諦めるっていうのは、絶対に許されない。どうにかして入らなければ...
「...ん、一旦検問してる人に入れてくれないか聞いてくる」
「は?バカ、お前!やめ──」
検問をしている守衛の人に話しかける。守衛の人は、とても驚いたようにこちらを見ていた。
「あの、すいません。僕たち陸路で来たんだけど──」
「...!?なっ...!!お前、どこから来た!?」
「ん、あの崖の上から...」
そう言って、さっきまで僕たちがいた丘の方を指さす。
「あの、僕たた悪い人じゃないんです。なので、中に入れてほしいんだけど...」
「...少し待っていろ」
そう言い、守衛は近くにいたもう1人の守衛になにかを話しに行った。その後、その守衛の人が小さな水晶玉となにか話してるのが見えた。
「シシル!お前...先走りやがって!」
「もっと落ち着いて行動しなさいよ!アンタ、仮にもリーダーなんだから!!」
「ん、ごめん。でも、なんかあの人水晶玉と話しはじめちゃった」
「水晶玉...あぁ、ありゃただの水晶玉じゃなくて、通信用の魔導具だな」
「ん、そんなのあるんだ...便利」
しばらくすると、守衛が戻ってきた。
「お前たち、どこから来た?」
「ん、だからあそこ──」
「違う。その前だ」
「ん...?どういうこと?」
「...俺らは、魔天銀山から来ました」
「罪状は?」
「...殺人が4人、あとは...」
「オレは罪人ではなく、看守です」
「...分かった。お前たち、俺についてこい。中に入れてやる」
案外あっさり中に入ることが出来た。一安心だ。
「ん、案内してくれるの?」
「あぁ、案内してやる」
「...どこに?」
「......」
急に黙ってしまった。だが...
魚のためだ。ついて行く他ないだろう。
「ん...すごい、おっきい建物...!!」
門をくぐり、町の中に入ると、とても綺麗で大きな建物がずらっと並んでいた。
「こりゃ...すげぇな。京に負けず劣らずの発展具合だ...」
「というか、この辺の建物って...」
「あぁ、どことなくエデンの建物に似ているような...?」
この町の建物は、ちょっと特殊だった。大和建築は木を中心に、石を使ったり、瓦屋根があったりするが...
この町の建物は、木がほとんど使われておらず、石ではないが固そうななにかで建てられていた。見た目も、なんかオシャレな感じだった。
「この町は、大和というよりエデンに近い文化を持っているんだ。なんせ、外交をかなり積極的に行っているからな。だから、他国の技術や文明が中心になってるんだ」
「ん、そうなんだ」
そして、何より目を引くのは...やはり、町の通りの中心に水が流れており、そこを船が頻繁に行き来している光景だろう。
「...やっぱり町中を船が行き来してるの、違和感」
「だな...変な感じだ」
「だが、かなり便利そうでもあるな。かなり移動が楽そうだ」
そんな話をしていると...町の中心に、一際目を引く大きな建物が見えた。
所々キラキラと輝き、変な屋根がついていて、至る所に小さな塔みたいなのがついている。見たことない建物に、僕はワクワクが止まらなかった。
「ん、なにあれ...!!」
「あれは...まるで、エデンの王宮...」
「王宮?」
「あぁ、いわば王の住まう城だ」
「へぇ、大和とは全然違うんだな。こっちのお屋敷と変わらねぇデカさだが、見た目が全然違う」
まぁ、あんな凄そうな場所、僕たちみたいな余所者の子供とは関係のない話...そう思っていた。
「お前たちは...今から、あそこに行って、この町の主と会ってもらう」
「...え?」
どうやら、関係しかなかったようだ。
「な...!?なんで!?」
「ん、僕たち捕まる...?」
「私たち、なにもしてないのに!?」
「クソっ、シシル!全部お前がいらんことするから...」
「落ち着け、まだ捕まると決まったわけではない」
確かに、アインの言う通りだ。
「守衛さん、なんで僕たちあそこに行くの?」
「俺は知らん。主がお呼びだ」
「...やべぇと思ったら、爆速で逃げるぞ」
「ん」
そう話しながら、町を歩く。さっきまで綺麗な町に興奮していたのに、今は何をされるか分からないため、気が気じゃない。
そして...いつの間にか、王宮の前まで来てしまった。
「じゃあ俺はここまでだ。あとは、自分たちでなんとかするんだな」
「ん...ありがとう、守衛さん」
「...おう」
そうして、守衛の人は門の方へ去ってしまった。
「...本当に入んのか?」
「ん...ここまで来て無視して帰る方がやばい」
「確かに...」
「...覚悟を決めるほか無さそうだな」
「ん...よし、行くよ」
僕たちは、王宮の入口へと向かった。
ここにも守衛がいた。この人に話せばいいのだろうか?
「ん?なんだ、お前たちは?」
「ん、すみません。僕たちここ来いって言われたんですけど」
「...あぁ、なるほど。あのお方が仰っていたのはお前たちか。いいだろう、通れ」
そう言い、大きな扉を開ける。そして、促されるまま、建物の中へ入る。
仲は...とても豪華で、綺麗だった。
白い石の壁、大きな照明、床に敷かれた真っ赤な布...どれも見たことのない、目新しいものばかりだった。
「ん...すっごい......」
「なんだこりゃぁ!?うちの屋敷とは全然違ぇ!!」
「ホントにエデンの王宮みたいね...」
「あぁ、そうだな...」
「...アルテマラとは、全然違う...」
見たことない光景に絶句していると...黒いスーツを着た男の人がやってきた。
かなり年を取っているようだが、その立ち振る舞いから、かなりの強者である、と分かる。
きちんと整えられた白髪と髭、汚れ1つないスーツと靴から、お金持ち感がある。
「みなさん、よくぞお越しくださいました。主がお待ちです、どうぞこちらへ」
綺麗なお辞儀をしつつ、そう言われる。そして...
「...何してんの?」
「ん、この赤い布踏んだらダメなのかと...」
「そんなわけないでしょ!?」
...僕の非常識さが晒されたりしたが、案内されるまま奥へ進み...重そうな扉の前まで来た。
「連れてまいりました」
おじいさんがそう言うと、扉が勝手に開く。そして...奥の部屋が見える。
奥の部屋もまた、とても豪華だった。
さっきのより大きい照明が天井から吊り下げられ、また例の布が敷いてある。
壁や天井は、ところどころ金で装飾されており、キラキラと輝いている。壁際には植物や金の像が置いてあり、とてもオシャレな感じだった。
そして、正面には、男が1人、大きな椅子に座っている。
あの人が、恐らくこの都市の統治者なのだろう。
その男は、僕たちを見て...明るい声で語りかける。
「はじめまして、諸君。私は水端の王、篠宮傑だ。よろしくな!早速だが...助けてくれ!」
「...え?」
やけにフランクなその王から突きつけられたのは、逮捕状ではなく...救援要請だった。
ちょっと省エネ回でした。お許しを!