16.忍
今回は文字数少なめです!
「...来る!みんな、下がって!」
「オラァッ!」
ガキィィィン!
「お前、また受けやがったか...生意気だな」
「ん、僕はシシル。お前らも自己紹介」
「ハハッ、するわけねぇだろ、そんなもん。俺たちは忍、文字通り忍ぶ者だ。そんな俺らが、わざわざ名乗るわけねぇだろ?」
「礼儀がなってない...」
突如現れた、忍と呼ばれる男3人。
僕は、一目見るだけで、3人とも強いと分かった。
隙のない構え。3人とも同じ構えであるのを見るに、同じ流派の戦法なのだろう。
装いからして、防御力はそんなに高くなさそう。ただ...かなり、速そうだ。
筋肉が、足に偏っている。ふくらはぎ中心の筋肉からして、速度はかなりの爆発力がありそうだ。両手に持っている2本のナイフからして、暗殺者みたいな感じなのかも?
そして...多分、僕以外の4人じゃ、相手にならないレベルには、強い。相性的な問題も相まって、だ。でも...
僕なら、勝てないことはない。
「ん、3人同時にかかってくればいい」
「随分な自信だな。1回攻撃を受け止めた程度で、調子に乗ってるのか?」
「そっちこそ、大きい口叩いてる割には余裕なさそう。僕が強いの、分かってる証拠」
「...鼻につくガキだ。まずは、お前から殺る」
殺気を放つ。身の毛がよだつような、嫌な空気が漂う。
「ぐっ...!」
「なんて殺気...」
「体が...動かなく...」
どうやら、みんなは今の殺気に晒されて動けなくなったらしい。まぁ、相当な殺気だったからな...
忍のリーダーらしき男は、ナイフを強く握りしめた。来る...!
「死ね──!」
っ!速い...!
ガキン!
「...!」
一瞬反応が遅れたせいで、攻撃の威力を受け流せず、そのまま刀身で受け止めてしまった。そのせいで、体勢が崩れる。
他の2人の攻撃が来る──!
って、あれ?
ビュッ!
他の2人の追撃は、僕が体勢を立て直すまではやってこなかった。そして、体勢を立て直した僕に降りかかった斬撃は...とても緩く、簡単に回避できた。
「ん、これは想定外。強いのは一人だけか」
「フン、言ってろ。そのうち、痛い目見るぜ」
お互いに機会を探し、観察する。
一時の沈黙。そして──
「ハッ...!」
「フッ...!」
同時に、相手に飛びかかる。
元々立っていた位置の、ちょうど中間あたりで激突する。
僕は剣で、相手は2本のナイフで攻撃と防御を同時に行う。
普通なら刀の方が威力的に上なはず。重さと長さもあるから...でも、僕の力が無さすぎて、相手のナイフ2本とパワーでは拮抗していた。
「随分貧弱な斬撃だな...っ!」
「うるさい。それはお互い様...でしょっ!」
お互い後ろに飛び退いて間合いを取り、勢いをつけて再び激突し──斬撃と斬撃の、応報が始まる。
僕は剣1本しかないから、相手のナイフ2本に対応しきるのは厳しい。逆に相手は、ナイフ1本では僕の剣を受け止めきれないから、慎重に攻めざるを得ない。
一見すると、激しい攻防に見えるであろう光景だが...実際は、2人とも様子見程度にしか刃を振っていなかった。
「なかなかやるみたいだな、お前」
「ん、それもお互い様」
さて、ここからどうするか...
僕たち2人の実力は、完全に拮抗していた。だが...
それは、2人なら、の話。
「隙ありぃ!」
「チッ...」
ガキン!
僕の仲間たちは、全員スピードに不安があるメンバーだから、この戦いに参加することができない。だが...相手には、攻撃こそ弱いものの...スピード自体はリーダーと変わらない、2人の味方がいる。
「ん、そんなへなちょこ攻撃、当たっても意味ない」
「その割にはちゃんと避けてるな?」
「ん、うるさい。当たったらお前がすぐトドメ刺しに来るからだろ」
「フハハハハッ!よく分かってるな、その通りだ!」
別に、リーダー以外の2人は強くない。倒そうと思えば、すぐ倒せるだろうし。
でも...2人に意識を向けたら、リーダーにやられる。間違いなく、一瞬で。
だからリーダーを狙いつつ、他2人の攻撃を避けてるわけだが...
「ん...千日手、か」
「埒が明かねぇ...そろそろ、降参したらどうだ?そんな剣振り回して、疲れてきたんじゃないか?」
「そう見えるなら、お前の目は...えっと、なんだっけ...あ、節穴だ」
「フン...」
これだけやり合っているにも関わらず、お互いに全く隙がない。体力もまだ余裕そうだし...
僕は、ずっと2つの勝ち筋を拾うために待っている。
ひとつは『ディストーション』による斬撃。もうひとつは...『型』の発動。
どちらか片方、適切なタイミングで使って、当てることができれば、僕の勝ち。ただ...どちらも、使用時に若干の隙が出来てしまうため...その隙に、リーダーに殺される可能性が高い。
向こうは向こうで、さっきから何かの発動を狙ってるみたいだし...お互いに全く同じことを考えてるせいで、戦いが進まない。
「ん...どうしよ、これ」
「とっとと諦めたらどうだ?」
「その言葉、そっくりそのままお返しする」
僕たちは、終わらない戦いへと、身を投じることとなった。
───────
「オラァッ!」
「...ん」
ガキィン!
ガッガッ、キィィン!
「...ここ」
「読めてるぜ、その攻撃は!」
ガキィィィン!
「チッ...」
「お返しだぜ!」
「ん、無駄」
ビュン!
「フンッ、なかなかしぶといじゃねぇか。だが...俺たち3人相手に、どこまで持つかな?」
「ん、3人ごとき大したことないよ」
「ハハハッ!その威勢、いつまで持つかなぁ!?」
ガキキキキキン!
激しい斬り合いが展開される。
シシルが攻撃すれば忍の一人がが受け、その隙を2人で狙う。そしてその攻撃をシシルが回避し、互角の斬り合いに発展。
これの繰り返しだった。
「...クソ、速ぇ...」
「俺たちが援護する隙がなさすぎる...!」
「攻撃受けないから回復の出番も無いし...」
「私の魔法は、シシルにも当たっちゃう...」
俺たち4人は、その異次元の戦闘を、指をくわえて見ているしかなかった。
シシルの実戦を見て、改めて理解した。俺たちとシシルとの間には、隔絶した実力差があることを。
「クソ...なんで、こんなに違うんだよ...俺と、お前と...!」
俺は、シシルには無いものをいくつも持っている。
斬撃の威力も、耐久力も、パワーも...シシルより、遥かに上なはずた。それでも...
「...この戦いに、ついていく事ができねぇ...」
レベルが違う。戦いを見てて、お互いが何を考えてるのか、なんで相手の攻撃が分かるのか...さっぱり分からねぇ。
スピードが無いとか、技術が足らないとか、そういうレベルの話じゃない。
言葉通り、住んでいる世界が違うと、そう感じる。レベルが違いすぎる...!
「このままじゃ...俺は、一生かかっても強くなれねぇ」
なんとか、掴みたい。シシルはなんで強いのか?
シシルはなんで視えるのか?
シシルは...なにを視ているのか?
「...さっき、シシルの強さについて考えた時...シシルは...シェルラは、なんて言っていた?」
思い出せ、あの時何を話していたか...?
確か...
「シシル、あなたの強みは...異常なまでの観察力と思考速度、そして想像力だよ」
「シシルはもしかしたら、ものすごい情報量を視覚で直感的に察知して、それをとてつもない速さで考えることができて...最大限、正しい選択肢を思いつく想像力があるんじゃないか、って」
「あと、シシルよくイメトレとかしてない?」
「...クソっ、どれも今すぐできることじゃねぇ...全部、シシルの才能と...チマチマと積み上げてきた、努力の賜物だ...!」
今この瞬間、俺にできることは...無い。
いくら考えても、残酷な結果だけが残ってしまう。
結局...俺は、この程度の男だってことか──
「斗真!!」
「っ!?シ、シシル!?」
急に、戦っている最中のシシルが、俺を呼ぶ。
「手伝ってほしいんだけど...っ!」
「戦いの最中によそ見しながら喋るとは、余裕だなぁ!?」
「ん、邪魔...!」
必死で攻撃を受け止めつつ、こちらに話しかけてくるシシルの姿は、言っちゃあ悪いがちょっと滑稽だった。
「斗真、今失礼なこと考えてた?」
「いやぁ滅相もございませんよ?」
「...まぁいい。とにかく、手伝って!」
「手伝うって...一体、何を...?」
俺に、今のシシルを手伝えることなんてない。一体、何をさせる気なんだ...?
「斗真!僕と...一緒に戦って!!」
「...は?」
は、え?今、なんつった?
「ちょ、斗真!いい加減キツイから...早く来て!!」
「い、いや...でも...」
「オラオラァ!」
「くっ...!!」
シシルが押され始めた...!クソっ!
躊躇ってる場合じゃねぇ!早くなんとかしねぇと、シシルが...
...でも、俺は...俺が参戦したところで、俺は何も...
...なにを、メソメソしてんだ?俺は...
「...んだよ、カッコ悪ぃ...こんなの...俺じゃねぇじゃねぇか」
俺は、こんなことで諦めたりしねぇ。
俺には何もできない?ハッ!
笑わせんじゃねぇ。
俺は...庵斗真。将来、この国を治める男だ...!
「やってやろうじゃねぇか...忍だろうが何だろうが関係ねぇ。俺が...ボッコボコにしてやらァ!!」
俺は、強い決意を抱いた。
次回は斗真回第一弾です!お楽しみに!!