14.秘訣
「じゃあ、まずは...」
「うん、これの確認だね」
とりあえず、稽古の前に...魔導奥義書の動作確認をすることに。
昼間確認すればよかったと思うかもしれないが...昼間はシェルラが「今はシシルにくっついてるから無理!」と言っていたので、今確認することにした。
「それ、どうやって使うんだ?」
「う〜ん...中身見ないとわかんないかも」
「ん、じゃ見てみよ」
そして、本を開くと...
「...なんだ、こりゃ?」
「ん...見たことない文字」
「あれか、こりゃ外国語ってやつか?」
「...ううん、これは古代文字だよ」
「ん、シェルラわかるの?」
「うん...習ったことあるから、一応ね」
意外かもしれないが...僕たちの中で一番賢いのは、他でもないシェルラだった。斗真とジールとアインもまぁまぁ賢いけど、シェルラは2人より遥かに多くの知識を兼ね備えているのだ。
ちなみに...僕は全く勉強できなかったりする。まぁ、学校行けてたのなんてごくわずかな時間だけだったし...仕方ないよね!
「んと...動かす呪文はこれかな?魔導解放」
ズズッ
シェルラが一言呟くと、あたりに強大な魔力が広がった。
「わっ、すごい魔力...!全身に、流れ込んでくる...」
「こりゃすげぇな、こんな量の魔力が含まれてたなんて...」
「これが、魔導書の力...」
「ううん、満足するには早いよ。魔導書で一番大事なのは、この本の中身なんだから!」
「...割と冗談で言ってたのに、マジでシシルには使えなかったな、こりゃ...」
「...斗真も人のこと言えない」
僕たちがそう話してる間も、シェルラは内容を確認していた。だが、その表情的にかなり難しいみたいだ。
「うーーーん、これかなり時間かかるかも...」
「そうなの?」
「うん、古代文字だから解読が面倒なのと...内容が、とっても難しくて。魔導書って、本来なら何かしらの魔法を習得するために必要な知識とか術式とかが書いてあるものなの。でも、これは...魔法の術式じゃなくて、魔力の使い方とか、術式の共通の構造とか...魔法学についてって感じなんだよね」
「「???」」
僕と斗真の頭の上に、ハテナが浮かぶ。残念ながら、僕たちに理解できる内容じゃなかった。
「えっと、分かりやすく言うなら...たとえばの話ね?本来の魔導書は、から揚げの作り方とか、ステーキの作り方とかみたいな、料理のレシピ本みたいな感じなんだけど...この本は、食材の栄養素とか、料理のテクニックとか...食べ物の知識が乗ってる本あるじゃん?いわゆる学術書的な...そういう感じで、この本は魔法の原点について書かれてるって感じ...伝わるかな」
「な、なんとなく...」
「普通と違うってのは分かった」
と口では言ってみたが、本当になんとなーくしか分からない。難しいね、シェルラの話って。
「まぁつまり、これを理解するのも、それを反映するのもとっても難しい内容なの。だから...早くても、丸一日かかるかも」
「マジで!?シェルラで一日かかんのか!?」
「ん...僕たちがやったら一生かけても無理かも...」
「あはは...まぁそういうことだから、これは明日やるよ。だから、今日は稽古の方に集中する」
「ん、了解。じゃ、今度こそやろっか」
「「おう/うん!!」」
ということで、一旦シェルラは離脱。僕と斗真だけで稽古することにした。
僕たちの稽古のスタイルは単純明快。僕以外が、僕にかかってくる、それだけ。
今のみんなに必要なのは、戦闘経験だと思ってる。闘技大会に頻繁に出ていた斗真はともかく、戦闘経験ナシのシェルラと、回復役として後方支援に回っていたジール、そして軍隊におけるタンクとしての戦い方を得意とするアイン。
この少数の陣形で、この3人はまだ戦い慣れていないので、多分ほとんど役に立てない、という結論に至った。シェルラは特に、緊張が強いこともあるが。
斗真も、実戦経験が多いから3人よりは動けるけど...それでも、まだ足りない。咄嗟の判断力が鈍く、追いつけないことが多い。
僕はひたすら1人でイメトレして対応力を上げたが...対人戦ができるならそんな必要もないので、こうして実戦経験を積むことにした。したのだが...
「ん...弱い」
「うるせー!お前が強えんだよ!なんだ、その速さ!?」
「な、何もできなかった...」
うん、まぁそうなるよね...
僕は、シェルラと斗真を瞬殺した。文字通り、2振りで。
「これは相性の問題。火力型のシェルラと、万能型の斗真...速攻が取り柄の僕とは、相性の悪い組み合わせだった」
「そりゃそうなんだが...これじゃ、何の意味もねぇじゃねぇか!!」
「ん、たしかに...」
2振りで終わってしまったら、2人には何の意味もない。繰り返してたらいずれ効果が出るかも分からないけど...さすがに、それじゃ時間がかかりすぎる。
「こんなこと言うのもあれだが...もうちょい加減してくれ。何もできねえ」
「うん、私もそうしてほしいかも...」
「ん、わかった」
そして、2人を休ませてからの、2回目...
「ん...弱い」
「加減してこれかよ...」
「つ、つよい...」
今回は先攻を譲ることにした。斗真が僕と近距離で撃ち合いつつ、シェルラの魔法で斗真を支援する、という形だったのだが...
「ん、隙あり」
「ぐはっ!」
「と、斗真!?まず──」
「ん、終わり」
ヒュッ──ピタッ
「はい。終わりね」
「魔法、全部避けられた...」
「撃ち合い強すぎだろ、こいつ...」
普通に斗真との木剣での撃ち合いを一瞬で制し、そのままシェルラに距離を詰めて──首元で、木剣を止める。これでゲームセット。
「これ...実戦形式向いてなくないか?」
「シシルが強すぎるからね...」
「ん...これは、作戦の練り直しが必要」
その後、アインとジールを起こしてきて、2人とも戦ったが...
「オレがシールド作る前にやられた...」
「私の回復意味無いんですけどぉ!?」
結果は変わらず。なんなら、4人全員で同時に戦ってみても...
「くっ、速ぇ...!」
「『アースシールド』!」
「『ヒール』!」
「『ファイアボール』...!」
「ん、これはきついかも」
「ハハッ!どうだ、これが数の──」
「《天恵剣》──『竜巻』」
「...!?ふざけんなよお前えええええ!?」
...まぁ、呆気なく終わってしまった。
ということで、作戦会議に移行。さすがにこのまま続けてもなんの意味もないという結論に至った。
「お前、なんだよあれ!?反則だろ!!」
「あれは何だ...?まさか、お前の『型』か?」
「ん、そう。作りかけだけど」
「...『型』は、基本は役職もらってから覚えるものなんだが...ていうか、基本的に作るものじゃないし...」
「ん、そうなんだ」
「そうなんだ、じゃないわよ!?自分のやってる事がどれだけ異次元なのか自覚しなさいよ!?」
「お前、マジでどうなってんだ...?」
...なんかすごく怒られたけど、とりあえずこのまま実戦してても意味無いのは共通認識になった。ということで、今後どうするかについては、今夜は寝て明日話すことにした。
そして、次の日。
「どうするのが最適なのかしらね...」
「もっと基礎を磨くべきじゃねぇか?シシルの撃ち合い見てたら分かるが、コイツの剣の正確さは異常だ」
「だが、経験を積まないと意味が無いだろう?オレは、シシルの速さに追いつけなかった。これは、判断力が追いついてない証拠だ」
「各々で出来ること伸ばすのもいいけど、連携もしないといけないわよ。回復に関しては、仲間がいないとできないし」
「ん...難しい」
そんな感じで、みんな意見が食い違っていた。
僕も僕で考えてみたけど...正直、今まで誰かを教えたことなんてほぼ無かったから、なかなかいい案が見つからなかった。
魔天銀山では、各々の基礎トレを僕が教えてたけど...それだけじゃ強くなれないことは、この現状が証明してくれてる。それに、基礎トレばかりじゃ強くなれないし、時間も足りない。
うーん、どうしたものか...
しばらく全員で考えていたが、案が出ず...
難航していると、シェルラから提案があった。
「じゃあさ、なんでシシルが強いかを考えたらいいんじゃないかな」
「...?というと?」
「みんなの判断基準って、昨日シシルにどうやってやられたかを基にしてるんだ。斗真は真っ向勝負で、アインは戦闘での判断力のスピードで、ジールは回復のタイミングで...これら全部、シシルと戦ってる時、シシルが突いてきた私たちの弱点であり...私の考えでは、これがシシルの一番の強みの秘訣にも、繋がると思う」
「ほーん、なるほどな」
「一理あるわね...たしかに、コイツの強さは異常だけど、どこかって考えたことはなかったわ」
「ふむ、アリだな」
「ん、なんかちょっと恥ずかしいけど...みんなが強くなれるなら、それで」
「じゃあ、決定だね!」
というわけで...なんとも恥ずかしい企画が始まってしまった。
「シシルの強みかぁ...まずは、圧倒的な速さよね」
「だな。ありえないくらいの速さだ」
「マジで見えねぇからな、コイツのスピード...」
「ん、速さは大事」
大事だけど、誰にでもできるものじゃない。体格や戦闘スタイルに左右されるから、向き不向きが激しい。
「あとは、シンプルに撃ち合いが強いわね」
「真っ向勝負で瞬殺されたからな、俺...」
「俺は見てないが...その様子からして、よほどこっぴどくやられたのだろうな」
「おうよ、なんもできなかったぜ?」
「ん、楽勝だった」
撃ち合いは...経験が大事かな。
強い相手とひたすら戦うか、永遠にイメトレするかの2択。前者は僕じゃ相手にならないし、後者じゃ数年かかると思うけど...
「んで、えぐい『型』も持ってると...」
「なんで使えんだよ、って感じだよな」
「信じられんな」
「ん...やってみたらできたから...」
これは...うん、あんまり関係ないかも。誰にでも真似できることじゃないらしいから...
「うーん、あとは...これくらいじゃない?」
「...でも、だからなんだって感じだよな」
「そうだな、これ以上は何も変わらな──」
「ううん、これでシシルがなんで強いのか考察する要素は揃ったよ」
「「「「え??」」」」
さっきまで一言も話さず、魔導奥義書を読んでいたシェルラが、急に話し始めた。
「考察って...どういうことだ」
「そのままだよ。シシルの強さの、根本を考えるの。今出た強さの要素から」
僕たちには何も分からないけど...シェルラはなにか気がついたみたい。しかも、口調からして、かなり自信があるみたいだった。
「ん...?これ以上、なにか分かることあるの?」
「私は少なくともわかったことがある。シシル」
「ん?」
「シシルは、戦う時、どんなことを考えてるの?」
「ん...どうやって相手を倒すか、とか?」
「それはどうやって考えるの?たとえば、私を倒そうって思った場合は、なんて考える?」
「それは...シェルラは火力がとてつもなく高い代わりに、魔法の発動に時間がかかって、かつ遠距離に対しての攻撃手段がほとんど。そして、防御手段も少ないから...とにかく早く距離を詰めて倒す、って感じ?」
最近のシェルラとの模擬戦は、毎回シェルラを倒すときはこんな感じのことを意識してるはず。
僕の言葉を聞いて、シェルラは「予想通り」と言わんばかりに、ニヤリと笑みを浮かべた。
「わかった、ありがとう。やっぱり、予想通りだね」
「...?」
「シシル、あなたの強さは...異常なまでの観察力と思考速度、そして想像力だよ」
「え.....と?」
「.....??」
唐突に出された結論に、全員理解できず呆然とする。
「えちょ、何も分かんないんだけど...」
「俺らにも分かるように説明してくれ、シェルラ」
「シシルが闘技大会でたくさんの人に囲まれた時、ありえないスピードで正面の敵を全員倒した後、すぐさま後ろから迫り来る敵から距離を取って、振り向いたあとに残り全員倒してたの、覚えてる?」
「覚えてるも何も、そんなことしてたのかよ、コイツ...」
「ん、そうだね」
まさか、あの日のことを覚えてるとは...しかも、そんなに正確に...
「そして、その前にすごく強そうな人3人を一瞬で倒した時は、相手が動き出す直前、一瞬で急所を正確に打って気絶させてた」
「ん、それもあってる」
「あの時あの瞬間に、一瞬で状況を判断して、かつ正しい選択肢を瞬時に実行してた...だから、あれだけ数の不利があっても、一瞬でシシルが勝ったの」
「なるほど...」
シェルラの言葉は正しい。僕はあの時、考えうる最善の選択肢を取り続けることが出来ていた。だから、余裕勝ちできた訳で...正面からやり合ってたら、恐らくかなり厳しい戦いになってたと思う。
「それに...シシルと斗真の撃ち合いの時、剣を振る速度と力自体は、斗真の方が上だった。でも、その力の差を発揮する暇すら与えず、斗真が振り下ろした剣を正確に弾いて、一瞬で斗真を倒した。4人で戦って、集中砲火した時も...まるで、想定してたと言わんばかりに、『技』を発動してた。だから思ったの、シシルはもしかしたら、ものすごい情報量を視覚で直感的に察知して、それをとてつもない速さで考えることができて...最大限、正しい選択肢を思いつく想像力があるんじゃないか、って」
あぁ...言われてみたら、確かに相手や状況を観察する癖がある。でも、なんでその癖を持ってるのか?と聞かれたらちょっと分からないけど...
「ん...他の人がどうか分かんないけど...確かに、戦いの時は相手をよく見て、すぐに行動を決めてる」
「す、すげぇ...確かに、そんな気がするぜ...!」
「そうね、それならあの速さで動きながら正確に剣を振れるってのも理解できるわ」
「そうだな...そもそも、この仮説が合っていようがいまいが、俺たちが強くなることに繋がるだろうしな」
シェルラの仮説に、全員納得する。僕も含めて。
ただ、シェルラはまだ根拠を持ち合わせてるみたいで...自信満々な様子で、さらに続ける。
「多分だけど、シシルの『型』って、かなり偏った技しかないんじゃない?限られた状況下で、最大限効果を発揮できる技をいくつも入れてる、みたいな」
「ん、その通り」
「すげぇ、シェルラが占い師みてぇだ...!」
「ん...これがうちのパーティ一の頭脳...」
いつものオドオドしてるシェルラとは、まるで別人のようだった。正しく、本領発揮ってやつだね。
「あと、シシル、イメトレとかよくしてない?」
「!?なんでわかった...!?」
シェルラは、僕の反応を見て嬉しそうだった。しかも、まるで「今まで模擬戦でやられっぱなしだったのをやり返した!」みたいな感じでドヤ顔までされた。
な...なんか悔しい...
「やっぱりねっ!シシルの正確な判断は、あらゆる状況に対しての答えを常に理解してないとできないから...自分で色んな状況に対して、対抗できる方法を事前に用意してるんじゃないかと思ったんだ。これも、強さの秘訣なのかもね。特に、真っ向からの撃ち合いにはかなり大切になりそう」
「ん...」
シェルラが話し終わり...一瞬、静寂が訪れる。
「...って、長々と話したけど、これは私の憶測でしかないから。実際どうなのかはわかんな──」
「すっっっげええぇぇぇ!」
「へっ!?」
「シェルラ、あんたほんとにすごいわね!」
「ああ...賢いのは知っていたが、まさかこれほどとは...」
「ん、僕より僕に詳しい」
「おう!なんつーか、希望が見えてきたぜ!」
「え、えへへ、そうかな...」
みんなに褒めちぎられたシェルラは、さっきまでの知的な雰囲気から一転、顔を赤くしながら、いつものシェルラに戻った。
「でも...シシルの強みを反映するにしても、シシルほど上手くはいかないと思うよ。確実に効果は出ると思うけどね」
「ま、話聞く感じ...このシシルの強みは、いわゆる才能ってやつみたいだからね...」
「こんだけ凄まじい能力持ってんのになんで頭悪いんだ?お前は...」
「ん...うるさい、斗真」
「ま、育った環境にもよるからな、それは仕方ないことだ。しかし...当分の間は、思考能力の向上を目指すべきだろうな」
「シェルラ、有効な手段とか思いつく?」
「うーん、やっぱり模擬戦するのが1番手っ取り早いと思う。ただ、相手はシシルじゃなくて...私たち同士で、だけど」
「ん、僕じゃ意味無いからね」
「だな〜。よっしゃ、そうと決まれば早速やろうぜ、アイン!」
「ああ...俺も、少し楽しみになってきた」
「私はこれの解読しなきゃだから...ジールは、2人の戦闘見ながら回復のタイミング掴むって感じがいいと思う」
「そうね!んじゃ、行ってくるわ」
3人は、昨日模擬戦した方へ向かい始める。
「ん、じゃあ僕も見学しに...」
と立ち上がった時、
ガシッ
シェルラに腕を掴まれた。
「シシルはここにいてね?」
「ん、でも...」
「シシル?」
「...ん、わかった。」
シェルラの圧に負け、座り直す。
そうして、僕たちは二手に分かれて特訓を開始した。
「ん、ところで...僕はなにしたらいいの?」
「うーん、尋問!」
「...え?」
ニコニコ笑顔でとんでもないことを言われ、困惑する。
「シシル。あなたの体質について、もっとよく考えるべきだと思うの。今まで過ごしてきた中で、私から見たあなたは...色々疑問が多すぎる。だから、ちょっとでも解き明かそうと思って、ね。それで、早速質問なんだけど」
「ん...?」
「シシル...もしかして、あなたの魔力って無限なんじゃない?」