13.熱意
ん...なんか、騒がしいな
「〜〜〜」
「〜〜〜、〜〜〜〜」
ていうか、あれ?僕なんで寝てるんだっけ...
あ、そうか。ピエロを追い返したあと、急に意識が遠のいて...
うっすらと目を開ける。長時間目を瞑っていたからか、木漏れ日が目に突き刺さる。
「ん...」
「.....!シシル!?」
「大丈夫か、シシル!?」
目を開くと、アインとジールが、こっちを覗き込んでいた。
「ん...アイン、ジール。おはよう」
「おはようじゃないわよ!このバカ、どれだけ心配したと...!」
「ジール、くるしっ...首、絞めないで...」
「落ち着け!ジール。まずは何が起きたのか聞くべきだ」
ジールが僕の首を絞めてくるのを、アインがなんとか宥める。ようやくジールがちょっと落ち着いてくれたので、質問に答えよう...と思うんだけど...
「ん、何が起きたって...なんかあったの?」
「俺たちが起きた時...お前は、周囲の木が切り尽くされ、更地になっていた場所に寝ていたんだ。それも、全身怪我だらけでな。すぐジールが治療したが...それでも、10日目覚めなかったんだ」
「と、10日も寝てたの、僕...!?」
ピエロを追い返したあと、そんなに寝てたなんて...それで、ジールがあんなに焦ってたのか。みんなに心配かけちゃったな...
「そうよ!ほんとに心配したんだからね!?」
「う、ごめん...でも、ああするしかなくて...」
「ああする、とは?何があったんだ?」
「ん...あんまり言いたくないんだけど....言わなきゃダメ?」
「そりゃそうでしょ!説明してもらわないと気が済まないわよ!」
「ん...分かった」
そうして、2人に何があったかを伝えた。アインは表情は変えないが、どこか悔しそうだった。ジールに至っては、目に見えて落ち込んでいるようだった。
「そう...ごめん、そうとは知らなくて責め立てちゃって...」
「俺の責任だ。俺が、その時起きてたら...」
うーん...あまりにも予想通りだな。絶対こうなると思った。
「ん...こうなるから話すの嫌だったんだよね」
「?」
「絶対2人とも自分を責めるって分かってたよ。優しいから。でも...2人が気にすることじゃない。あのピエロは、明確に僕を狙ってきてた。だから、むしろ僕がみんなを巻き込んだ形だよ。だから、謝るのは僕の方」
「...あんたが謝る必要なんでないじゃない。みんなを守ってくれたんだから」
「そうだ。お前一人に責任負わせた大人である、俺が悪い。だから、謝るな」
「ん、ならこの話はこれで終わりね」
「え?」
「2人からしたら僕は謝る必要なし、僕からしたら2人が謝る必要なし。だから、この話はこれで終わり。さ、前向いていこ」
「...ほんとサッパリしてるわよね、あんた。でも...うん、ありがと。そうよね、こんなとこでウジウジしてられないわ」
「そうだな...はぁ、自分が恥ずかしいよ、子供に導かれるなんてな」
「ん、失礼な。僕は立派な10歳」
「立派な10歳って何よ...あ、そうだ。シシル」
「ん?」
「分かってると思うけど、あんた...今の話、他2人にはしない方がいいわよ?」
「ん、もちろん。自責の念引きずるだろうからね、あの二人。アインとジールより優しいから」
「私も優しいわよ!!」
そんな会話をしつつ、僕は起き上がった。その後...
「シシルーーーーーーっ!」
「のふっ」
起きている僕を見つけて、シェルラが抱きついてきた。
「ちょ、シェルラ──」
「心配した!心配した!!心配してたの!!!」
「ん、ご、ごめん...」
「あ、ごめん、謝ってほしいんじゃなくて...!起きてくれて、ありがとうって意味で...本当によかった...!死んじゃうかと思った!!」
「ん...」
泣きじゃくるシェルラに抱きつかれて、暫くは身動き取れなさそうだ。
「おアツいな、シシル?」
「ん...そういうのじゃない、斗真」
「へへっ。でも、起きてくれてよかったよ、シシル」
「ん」
その後、シェルラを宥め、離れてもらおうと思ったが...
「嫌!今日はシシルと一緒にいる!!」
「ヒュー♪」
「斗真...!」
...無理そうなので、諦めて今日はここで野宿する事にした。まぁ、さすがに何もしない訳にはいかないので、作戦会議をすることに。
「あ、とりあえずなんだけど...シェルラ」
「?どうしたの、シシル?私、離れるつもりはない」
「...ん、それは分かった。いいよ、いいんだけど...これ、シェルラにあげる」
そう言い、ディストーションで保存していた魔導奥義書を取り出す。というか、あの後これを保管するだけの判断力あったんだな...全く記憶にない...
「これは...魔導奥義書?」
「ん、そう。なんかすごい魔導書らしい」
「え、これどこで手に入れたの...?」
「えと...その、魔物倒したら、ドロップした、というか...」
まずい、嘘が下手すぎる...!
昔から、嘘をつくのが苦手だった。僕のドギマギしてる様子を見て、ジールは苦笑い、アインは笑いをこらえていた。アイン、覚えてろよ...
うーん、これは流石に嘘がバレるかも。そうなったら、説明せざるを得な──
「そうなんだ...魔物って、不思議だね!」
「うぐっ」
「?どうしたの?」
「ん、いやなんでも...」
...信じて貰えてしまった。なんだろう、なんだかとても罪悪感が...
「でも、これは貰えないよ」
「ん、なんで?」
「だって...シシルがあんなに頑張って手に入れたものでしょ?それを私が使うなんて...できないよ。シシルも、これがあったら他の魔法も使えるかもしれないし...シシル、これはあなたが使って?」
「...そうくるか...」
確かに...優しいシェルラなら、こういう反応をすることは予想していたが...こう言われたら、どう説得したらいいか分からない。
「シェルラ、もらっときなさいよ。くれるって言ってるんだから」
「だな。それに、シシルは剣を極めようとしてる身だ。魔法より、剣を優先するシシルより、魔法を磨いているシェルラが使った方がいいだろう?」
「でも...」
ふたりとも、ナイスアシスト!
「シェルラ、そもそもシシルにゃそんな小難しい本扱えねぇと思うぜ?」
...こいつは...まぁ、アシストしてくれてるし許してやるか。
「ん、僕には扱えない。だから、シェルラが...」
「...わかった。そこまで言うなら...ありがたく使わせてもらうね。ありがとう、シシル!」
「ん」
なんというか...このシェルラの満面の笑顔を見るだけで、本当に、頑張って良かったと思える。死ぬかと思ったけど...それでも、諦めなくてよかった。
「んじゃ、私とアインは食料取りに行ってくるから。シェルラ、斗真、シシルが何もしないようにちゃんと見張っときなさいよ」
「もちろん。シシルは離さないから」
「らしいから、まっ、安心して行ってきな」
「あぁ、そうさせてもらう」
そう言い、2人は森に入っていった。
「さて...んじゃ、聞かせてもらおうか?」
「ん、何を?」
「お前が嘘ついてた事くらい分かってんだ。ホントは、何があったんだ?」
「え、嘘?」
おいおいおい、コイツシェルラの前でいらんことを...!
「嘘なんて、そんな...」
「おいおい、アレで騙されると思ったのか?そんなやつは、シェルラだけだろうよ」
「むぅ...バカにされた気がする」
「カカッ、んで?何隠してんだ?」
「...ダメ。言ったら、2人が傷つくから」
「なら尚更だろうがよ。お前は、1人であんな傷だらけになるまで戦ってたってぇのに...俺らはなんにも知らねぇ。俺らの傷はお前の傷。そしてお前の傷は俺らの傷だ。俺らは全員で国を落とす、いわば運命共同体。お前が背負った傷を、俺らだけが負わねぇなんて...許さねぇよ」
「うん。それに...私たちは、もう弱くない」
そう話す2人の目には、確かな決意が宿っていた。ここまで言われたなら...話すしかない。
「ん、じゃあ話す。覚悟して聞いてね」
そう言い、ことの顛末を伝える。
「...そう、そっか...」
「なんつーか...ほんと、お前はすげぇよ。助けてくれて、ありがとな」
2人とも、もっと悔しがると思ってた。シェルラに関しては、また泣き出すかも、と思っていたが...シェルラは、まっすぐな瞳で僕を見つめている。斗真は、感心した、みたいな感じでこっちを見ていた。
「...ふたりとも、もっと取り乱すかと思った」
「オイオイ、俺の事なんだと思ってんだ?シェルラはともかく、俺はそれ聞いたからって取り乱したりはしねぇよ。むしろ、燃えてきたぜ?もっと頑張ってお前に追いつかねぇと、ってな!」
「私も...そんな感じなのかな?シシルに期待してもらえて嬉しくて...だから、もっと頑張りたいって思ったから...」
「なるほど...」
斗真は笑いながら話し、シェルラは首を傾げながらそう言う。
そんな2人の姿は、さっき話した2人よりずっと大人な対応だった。むしろ、あっちの2人が、これくらい落ち着いた反応してくれると思ってたんだけどな...
「シシル、お前は本当にすげぇヤツだ。だからこそ...俺たちは、お前1人に頼ってばかりじゃいられねぇと思う」
「シシル...私たちを、強くしてほしい。もっと、あなたの力になりたいから...!」
「2人とも...そんなやる気になってくれるとは...うん、凄く嬉しい」
現状、言っちゃ悪いけど僕以外の戦闘力は、そこまで高くない。
ジールとアインはサポート向け、シェルラは前衛がいる前提での火力支援が基本。斗真は...前衛としての経験も、戦いに対する気持ちの整理もついてない。まだ成長できる。
...うん。一人でも戦えるように、ちゃんと僕が強くしてあげないとダメだな、これは。
「んじゃ、これからは俺とシェルラも夜警混ぜてくれよ。そん時、一緒に鍛えてくれ」
「でも、2人は休まないと...」
「私たちは毎日交互に起きてればいいんじゃないかな?半分起きてて、あ、でも半分寝るみたいな感じの方がいいかな」
「俺は半々のがいいな。毎日ちゃんとやりたいし」
「じゃあ決まりだね!」
2人が話してる様子を見て...なんというか、とても嬉しい気持ちになった。あの戦いの時は1人だったけど、実際はこんなに仲間に恵まれているんだ。
「分かった。でも、無茶はしないでね」
「「うん/おう!!」」
「あ、ジールとアインもついでに誘う?」
「だな、アイツらも喜んで来るだろうぜ」
「なら時間の振り分け決めないとだね...」
そうして、順調に夜の稽古の予定が決まっていった。
そうして時は流れ、結局(シェルラに抱きつかれているため)1歩も動くことなくその日の夕食になった...
「そういえば...聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「役職って何?」
そう、ずっと気になっていた。ピエロが言っていた、役職のことが。運が良ければもらえる...と言っていたが、結局もらえなかったし。
「お前、そんな事も知らねぇのかよ...」
「役職は、20歳になった時、全ての人々が神から授けられる...いわば、才能の1種だな」
「ん、というと?」
「役職には色んな種類があるんだが...その役職に応じて、色んな能力が得られるようになる。いわば、それ以降の人生の方針みたいなもんだ」
そんなのがあるんだ。知らなかった...
どうやら僕以外みんな知ってるみたい。もしかしたら、学校で習う予定だったんだろうか?
「ん、というか、そうならアインはなんなの?」
「見ての通り、《タンク》だ。だから、俺は耐久に優れた魔法や能力を持ってるってことだな」
なるほど、だから防御向けの体格や魔法が使えるのか。
ということは...父さんと母さんの役職は、多分剣士とかだったのかな?2人とも、剣を使って戦ってたし。
「ん...じゃあ、それは20歳にならないともらえないの?」
「いや、特例が存在する。20歳になる前に、その人間の行動や功績を認められれば...その時点で役職がもらえるらしいな。ま、事例が少なすぎて都市伝説みたいになってはいるが」
「ん、そうなんだ」
「で、そういうやつは20歳になった時ももらえるから...二重役職って呼ばれてる。そいつらは、オドの中でトップクラスの上澄みしかいない、まさにエリートだ」
あぁ、ピエロが言ってたのはこれか。
あの時、もしかしたら役職がもらえてた可能性もあるってことか。結局貰えなかったけど...
「ところで、さっきから与えられるとか認めるとか言ってるけど...それは、誰が基準なの?」
「神だ」
「ん、神...?」
「この世界を創造し、傍観する者...この世界における絶対存在だ」
「ん...スケールがおっきすぎてちょっとわかりにくいな」
「ま、気にする必要はないだろう。俺たちとは縁のない話だからな」
「ん、今は目の前の目標に集中しとく」
「ああ、そうすべきだろう」
そうして、夕食を食べ終わり、野宿の準備をした後、辺りの木々を『ディストーション』で一時的に消す。そして...
「さぁ、始めようか...稽古の時間だよ」